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「コロナワクチン」接種の前に、あの医師が伝えておきたい7つの本音世界を「数字」で回してみよう(66)番外編(2/11 ページ)

いよいよ始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種。コロナ禍において“一筋の光”でもあるワクチンですが、変異株の増加など心配なことも増えています。今回は、前回に続き、あの“轢断のシバタ先生”が、ワクチンそのものに対する考え方や変異株の正体、全数PCR検査の机上シミュレーションなど、読者に伝えておきたい7つの“本音”を語ります。

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全てのワクチン接種に関する、厄介な問題

 全てのワクチン接種に関する、厄介な問題とは、ワクチン接種による副反応による不安(以下、「ワクチン不安」という)です。

 この「ワクチン不安」の原因を探っていくと、(1)被害をめぐる訴訟、(2)メディアの誤情報(とその後の訂正の不足)、さらには政府の過剰なほどの逃げの姿勢、の3つが挙げられるといわれていますが、つまるところ、その根っこは一つです。

 100%効果が得られて、副反応が0%の、安全なワクチン ―― そんなワクチンは存在しません。

 ワクチンには、リスク(不利益)と、ベネフィット(利益)があって、これは、ワクチンの接種を受ける人間を「集団」で見るか、「個人」で見るか、によって、見える風景がガラっと変わるものです。

 事実、過去のワクチンにおいて、副反応が生じたものはあります。これを集団の確率論から見れば、無視できるものですが、副反応を喰らってしまった個人としては、無視どころではありません。最悪の災厄です。

 一方で、ワクチンを接種しないことで、体内にウイルスに関する抗体が生成されずに、いつまでもウイルス感染におびえ続けなければならない、という事実もあります。

 そして、今回のコロナワクチンに関して言えば、大規模な実用化事例としては「世界初」の技術が投入されている点が特徴です。ファイザー社のmRNAを使ったワクチンは、姿形は「コロナウイルス(SARS-CoV-2)」の一部を抜き出したそっくりの”ハリボテ”が使われているので、間違ってもCOVID-19に感染することはありません。超安心と言えます。

 しかし逆に言えば、「世界初」の技術が使われているということは、(どんなに科学的に安全性が担保されていたとしても)、全世界のワクチン接種者がモルモットになっている、とも言える訳で、超不安でもあります。

 ワクチンは、単に科学的、医学的なもので構成されているものではありません。ワクチンは、社会的、思想的なものであり、そして、極めてデリケートな心の問題でもあるのです。

日本の接種率はほぼゼロ!? 子宮頸がんワクチン

 子宮頸がんワクチンを例として、この説明をします。

 昨今、がんが予防できるものであることは常識になりつつあります。また、がんの発生が、日常の習慣や慢性的な炎症と関与していることも明らかになってきています。

 肺がんとタバコ、胃がんとピロリ菌、肝細胞がんと肝炎ウイルス、食道がんと飲酒、などなど、公衆衛生学のおかげ……というか、NHK「ためしてガッテン」と「あさイチ」のおかげで、とにかく、複数のがんで罹患率が低下しています。

 ところが、この日本において、先進各国に比較して発症率低下に、圧倒的に失敗しているがんがあります。子宮頸がんです。

 一言で言えば「ワクチン接種率がわずか数パーセントであるため、毎年3000人近くの女性が亡くなっている」のです。

 子宮頸がんは若い女性にも比較的多い病気です。20代後半から増加し初め、49歳以下の若い女性に限ってみても毎年数千人が罹患し、子宮を失い、そのうち600人前後が死亡しています(参考)。

 毎日2人に近い割合で、25〜49歳の女性が子宮頸がんで亡くなっているわけです ―― と、まあデータで語れば、それまでのことですが ―― その現場に立ち会い続ける、私たち医師にとっては、数値の問題ではありません。

 傍らで泣き崩れる夫と子供。「わしらより早く死んじまいやがって」と嘆く両親……その傍らで婦人科医師は「本来なら8〜9割がワクチンで予防できたはずだったのに……」と忸怩(じくじ)たる思いを抱きながらご家族に死亡の宣告をする ―― これテレビのドラマの話じゃないです。これはリアルな現実の話なのです若年の末期がん患者の悲惨さは、実際に立ち合ってみないと実感することは難しいかも知れません。

 子宮頸がんは、ワクチン接種で予防ができる珍しいがんです。

 1999年度までは74%以上のティーンエイジャーの女子が接種していました。ところが、2000年に42.9%、2001年は6.1%となり、2004年には0.0%になってしまいました。

 何があったか ―― 子宮頸がんワクチンによる副反応事件があったのです。

 ただし、子宮頸がんワクチンの副反応については、死亡例はありません。また、現時点で回復していない人は、我が国では186人です。これは、10万回の接種に対して2人(0.002%)だけ回復していないことになります*)

*)ワクチンと副反応の関係については、HPVワクチン薬害の訴訟団と、WHO、EMA(欧州医薬品局)、厚生労働省、日本産科婦人科学会の主張は、真っ向から対立しているようです(江端)

 また、他のワクチンと比較して頻度が高いわけでもなく、現れた反応がワクチンの成分に特異的であるという証拠もありません*)

*)さらに、信州大学において行われた実験において、ここに「因果関係がある」との実験結果が提出されて、大騒ぎになりました。しかし、その後、それが正しい実験プロセスで行われなかったことが判明し、厚生労働省が「猛省を求める」などという、お役所らしからぬ表現で怒りを表明しています(江端)。

 ともあれ、ワクチン接種予定の子ども(ティーンエイジャーの女の子)の保護者にしてみれば、9万9998回の安全な接種より、副反応のあった2回の接種の方をロックオンしてしまうのは理解できます。

 数万分の1の当事者という「実例」が確率以上に心理的に大きな影響を与えるのは、宝くじが売れているのを見れば明かです。

 そして、当然のことながら、マスコミは、こそくにもこの確率と心理の不均衡を悪用し、この副反応について「当事者から見た体験」=「実例」を大々的に取り上げることで、ティーンエイジャーの女の子を持つ保護者たちを恐怖に陥れました。

 子宮頸がんワクチンに関するネガティブキャンペーンが行われ、マスコミがワクチン行政を徹底的に批判してけちょんけちょんに言い負かした結果(確かに薬害や副反応への救済処置は当時とても軽視されていたとは思いますが)、「厚生労働省はリスクを冒してまで、国民の命を救うこと」を放棄します。

 しかし、子宮頸がんに対する、子宮頸がんワクチンの効果は、明らかでしたので、現在の厚生労働省は、現在、中途半端な立ち位置をキープしています。

 「訴訟リスク回避のためにワクチンをオススメするのはやめます。でも、定期接種から外すとそれはそれで訴訟になりそうだから『積極的な推奨はしない定期接種』というカテゴリーに分類しておきますね。ちなみに“無料”です*1)」という奇妙なロジックと運用を作り出します。

 そして、これが我が国のワクチン接種のスタンスとなりました(シバタ解釈)*2)

*1)ただし 無料の対象者は、小学校6年生から高校1年生までの女児です。感染経路を考慮すれば、自己決定に必要な知識獲得の期間を考慮し、最低でも高校3年生までは無料にして欲しいところです。
*2)厚生労働省「HPVワクチンQ&A」のQ25、Q26など参照。

 仮に、「年間3000人の死亡者」から目を背けることができるのであれば ―― 『なるほど、これなら誰も文句を言えない、自己責任に基づく、良い仕組みだ』と思えるかもしれません。しかし、ここには、決定的に欠けていることがあります ―― 私たちのワクチンに対する拭い切れない不安です。

 厚生労働省が「積極的な推奨をしない」 → (ということは)厚生労働省も危険だと思っているんだ → (というなら)そんな、恐しいものを我が子に接種させるわけにはいかない ―― こうして、年間3000人の女性を死に至らしめるシステムが、完成しています*)

*)「日本では女性専用旅客機が日本上空で毎年10機墜落している」と表現している医師がいるそうです(江端)

 ちなみに、日本で若い女性が漫然と死んでいく*)一方で、日本以外の先進国ではワクチンにより子宮頸がんの死亡率は確実に下がっています。「既にそのエビデンスは十分にある」と世界が認め、WHO(世界保健機関)が子宮頸がん撲滅を掲げて活動しています。

*)参考:国立がん研究センター がん登録・統計

 外科治療や抗がん剤投与などの終わりのないがん治療に疲弊し、実は予防可能ながんだったことを知って後悔に沈み、幼い子供の将来を見ることができない事に絶望し、そうして亡くなっていく母親に泣きすがる幼子と夫を見続けてきた婦人科医師と学会は、我慢の限界とばかりに積極的にアピールしています。


参考:日本産婦人科のプレゼン資料

 一方、「絶対に子宮頸がんワクチンを打たせるべきではない(廃止すべき)」と主張する人々もいます。この人々もまた、自分達の調査と信念に基づいて行動をしています。上記の厚生労働省の「自主的なワクチン接種の紹介」すら中止するように、申し入れをしているようです。

 つまり、ワクチン接種とは、「何を最重要のリスクとするか」という、医学とか科学を離れたところにある「思想」の闘いでもあるのです。それは、政治力や情報戦を駆使した闘争であり、厄介なことに、「関係者全員が、善意と信念で活動」しており、かつ「万人に対する絶対的な正解がない」のです。

 何より、最大の問題は日本の若い女性(または、ティーンの女の子とその保護者を含む)に「ワクチン接種のメリットとデメリットを公平に判断し選択するチャンスが与られていない」 ―― これが大問題なのです。

接種判断が、個人に委ねられている日本

 ともあれ、今、我が国におけるワクチン接種の判断は、個人にぶん投げられています。個人が、リスクとベネフィットを天びんにかけてワクチンを打つ/打たないを選択する、ということになっています。

 しかし、自由意志に基づくワクチン接種では、「接種する」は選ばれ難いのです。実際、子宮頸がんに関しては全くワクチン接種率が上がっていません ―― 事実上の0%です。

 これについては、下記のような理由が挙げられます。

(1)定期的にワクチン情報にアクセスをする(例えば、毎週産婦人科の学会Webサイトをチェックする) ―― そんな奇特な―― 人はいません

(2)多くの人が、接種率が数パーセントという事実から、「接種時のリスクが高い」または「接種に効果がない」と誤解してしまっている

(3)ワクチンの有効性はなかなかニュースにならないが、ワクチンの副反応は、(かなり扇情的に)すぐにニュースになる。これによって、(種類を問わず)”ワクチン”への反感(不信感)が払拭できない状態が続いている

(4)「ワクチン接種によって救われたはずの、かなり多くの命がある」という話は、(どういう訳か)ニュースソースにならない

 さて、ここまでで、ワクチンは、単に科学的、医学的なものだけで構成されているものでなく、社会的、思想的なものであり、そして、極めてデリケートな心の問題でもあることを、ご理解いただけたと思います(さらに興味のある方は、付録Aをご一読ください)。

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