半導体不足は「ジャストインタイム」が生んだ弊害、TSMCが急所を握る自動運転車:湯之上隆のナノフォーカス(37)(1/5 ページ)
深刻な半導体不足が続く中、自動車メーカーは苦境に陥っている。だが、この苦境は自動車メーカー自らが生み出したものではないか。特に筆者は、「ジャストインタイム」生産方式が諸悪の根源だと考えている。
「負けに不思議の負けなし」
新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下、コロナ)の感染が世界に拡大する直前の2020年2月11日にお亡くなりになった野村克也氏は、プロ野球の監督時代に、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という名言を残している(『負けに不思議の負けなし』(朝日文庫)という著書もある)。
これは、「勝負は時の運と言うが、偶然勝つことはあっても、偶然負けることは無い」という意味だ。つまり、負けた場合、そこには必ずそれなりの理由があるということである。
2021年に入ってから現在に至るまで、車載半導体の供給不足のためにクルマがつくれないというニュースが連日報道されている。2月初旬に米テキサス州を襲った寒波でドイツのInfineon TechnologiesとオランダのNXP Semiconductorsの半導体工場が停止し、3月19日にルネサス那珂工場で火災が発生した。さらに4月14日、TSMCのFab14フェーズ7が停電し、1000万〜2500万米ドルの損害が出る模様である(関連記事:TSMC工場で停電、半導体不足がさらに深刻化か)。
Infineon、NXP、ルネサスは車載半導体の売上高シェア1〜3位の企業である(図1)。また、TSMCは、車載半導体メーカーから40nmプロセス以降の生産委託を受けているファンドリーである。従って、寒波、火災、停電などは、車載半導体の供給不足を加速させ、クルマメーカーに減産を強いることになった。
諸悪の根源はジャスト・イン・タイム
当初は、「災難続きでクルマメーカーは気の毒だ」と思っていた。しかし、今は、そうは思わない。野村克也氏の「負けに不思議の負けなし」の言葉通り、車載半導体不足でクルマがつくれないのは、クルマメーカー側に問題があると考えている。
つまり、自業自得だ。
そして、クルマメーカーが苦境に陥っている原因は、ジャスト・イン・タイムにある。トヨタ自動車は、必要な部品を、必要な時に、必要な量だけ調達するジャスト・イン・タイムと呼ぶ生産方式を生み出した。この方式は現在、クルマメーカーだけでなく世界中の多くの産業にも採用されている。
しかし、前工程と後工程の合計で、3〜4カ月ものリードタイムが必要とされる半導体の調達に、ジャスト・イン・タイムを適用し続けてきたことが、今日のクルマメーカーの苦境に直結していると考えている。
本稿では、まず、日本のクルマ生産がコロナによってどのように減産したかを明らかにする。次に、車載半導体の中で、ジャスト・イン・タイムにより上記減産の影響を受けた半導体を特定する。さらに、なぜTSMCがボトルネックになるのかを明らかにする。その上で、今後、特にTSMCが関係している車載半導体に対して、ジャスト・イン・タイムを適用し続けるクルマメーカーは生き残れないであろう結論を述べる。
コロナによる日本のクルマ生産台数の減産
図2に、2016年1月〜2021年1月における日本のクルマ生産台数の推移を示す。クルマの生産台数は毎月上下動があるが、日本で第1回目の緊急事態宣言が発出された2020年4〜5月にかけて、クルマが大きく減産されていることが分かる。また、2021年1月にも減産となっているが、これが車載半導体不足の影響であろう。そして、このような傾向は、日本だけでなく、欧米など海外でも同様ではないかと推測される。
ここで、2016〜2019年の毎月の平均生産台数(以下、平均台数)と、2020年の生産台数との比較を行った(図3の上)。そして、この両者の差、つまり2020年は毎月、平均台数に対してどの程度、落ち込んだかをグラフにしてみた(図3の下)。
その結果、2020年の減産台数は、2〜3月が6〜8万台以上、4〜6月が30〜40万台以上、7〜8月が13〜12万台以上であることが分かった。この減産は、9〜10月にかけてほぼ解消され、平均台数に戻っている。
ジャスト・イン・タイムで生産しているクルマメーカーは、コロナによるクルマの減産に伴って、車載半導体の調達をキャンセルしたと思われる。その影響を受けた車載半導体は、何か?
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