“手作りのラズパイ教室”に見るプログラミング教育の縮図:踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(14)STEM教育(2)(7/8 ページ)
今回は、“手作りのラスパイ教室”を運営するお母さんたちへのインタビューから、プログラミング教育について考えてみます。赤裸々に語っていただいた本音から見えてきたのは、「新しいプログラミング教育の形」でした。
「もう少しだけ科学的な視野を持てる国民の量産」
では最後に、本シリーズ「STEM教育」で、私が考えていきたい事項を、ざっと記載させて頂いて、今回のコラムを終えたいと思います。
まあ、これは、私のプログラミングの師匠であるSさんからも同意して頂いた意見なのですが、私としては、「プログラミング教育」が、従来の「英語教育」や「数学教育」と同様に、英語嫌い、数学嫌いの子どもを量産するように、プログラミング嫌いの子どもを量産することにならないかと、真剣に心配しています。
はっきり言えば、文部科学省は、「プログラミング教育」で「プログラミング」を教えるのではなく、「プログラミング的思考」を教えるという奇妙なアプローチを取っています。しかし、私には、これが、「テニス教育」で、「テニス」を教えるのではなく、「テニスのルール」を教える、というようなモノにも見えてしまうのです。
ただ、私(江端)が文部科学省の意図を誤解している可能性は、大いにありますので、今後、修正も含めて検討していきたいと思っています。
これは、コンピュータを使った教育アプローチ(コンピュータ支援教育: CAI(computer-assisted instruction)のことで、"プログラミング教育"とは異なる)が、歴史的に全敗しており、現状、これといった決め手がない ―― と、私は、ずっと思ってきました。
しかし、現在の「コロナ禍」が、この状況を変えてきている可能性があります。果たして、この江端仮説を棄却できるのかを、"ビフォーコロナ"、"アフターコロナ"の観点からも検討してみたいと思っています。
私は今回のインタビューで、パイ・テック・クラブの皆さんに、
―― 私は、『国家』なんぞの為に、娘たちに教育を与えてきた訳じゃないです
―― 教育とは、娘たちが幸せで安泰に生きるための"道具"と"手段"であり、それが全てです
と言い切りました。
そして、私の意見に反対する方はいませんでした*)。
*)『お国にために』とか、『陛下のために』とか『世界平和ために』とかの意見を聞けたら、それはそれで面白いとは思っていましたが。
では、子どもたちが幸せで安泰に生きる"道具"と"手段"として、最も妥当なものは何か、と問われれば、それは「金(収入)」でしょう。ところが、STEM教育に関する各種文献、論文の多くの視点は、基本的に「お上(国家、政府)」と「国家のメンツ」の話ばかりで、正直、読んでいてウンザリしました。
そこで、私は、完全な私利私欲に基づく観点から、STEM教育に要求される要素を、およそ想像し得るあらゆる角度から分類し、比較し、検討し、吟味し、分析し、体系化した上で解体し、統合し、止揚し、脱構築化した後に再構築していきたい*) ―― と考えております。
*)(本人とは腐れ縁につき、無断転用)
STEM教育のもう一つの意義があるとすれば、理系とか文系とか、そういう枠組みとは別に、もう少しだけ科学的な視野を持てる国民の量産ではないかな、と思っています。
最近では、『ワクチンの副反応に関するSNSのデマ』がこれに相当します。「mRNAのワクチンの仕組みを理解しろ」というのは、ちょっと高過ぎる要求かもしれませんが、その内容の真偽を確認するために「まず、最初に何をすべきか(例:厚生労働省のWebサイトを見にいく)」という、リテラシーを身に付けるくらいのことは必要かと思います。
もっとも、これまで、政府だって、結構「間違い」をしてきましたし、情報の隠蔽(原発事故の放射性物質の拡散情報の隠蔽等(著者のブログ))などもやってきました。「政府は信用ならない」という気持ちは、私も理解できます。
SNSの情報と政府の情報、どっちを信じるか(あるいは、どれくらいの比率で信じるか) ―― そのファイナルジャッジは、私たち個人が誰にも頼らず自力で行うしかありません。
そして、その"ファイナルジャッジ"をするためのアプローチや具体例を実践的に学ぶものが、STEM教育であるなら ―― これは、まだ誰も気がついていない、STEM教育の新しい価値と言えるものになると期待しています。
では、今回の内容をまとめます。
【1】巨大プラットフォーマーであるGAFAの創立者は、全てプログラマー(or デザイナー)出身であり、彼等は、最初の自分たちのプラットフォームを自力で、個人で、スクラッチから作ったというお話をしました。
【2】一方、『プログラマーがもうかる職業だ』『理系は有利な生き方だ』という短絡で安直な考え方が出てこないように、少なくとも現状の日本では、そうなってはいないことを、データを用いて再度確認しました。
【3】政府(文部科学省)の推進する『プログラミング教育』に対して、民間のこども向けプログラミング教室について調べてみましたが、「プログラミング教室に通っている子ども」の数は、習い事全体の中の100分の1以下であるという事実と、それにもかかわらず、市場規模が比較的大きいという、奇妙な現象を確認しました。また、そのプログラミング教室のカリキュラムについては、カチっとした内容で示されておらず、現場判断で内容を変化させている様子が推認されました。
【4】今回、東京都杉並区にある浜田山小学校の理科室で行われている、プログラミング教室を運営しているパイ・テック・クラブさんにインタビューを行いました。この教室の特徴は、(A)生徒である子どものお母さんが講師となる、(B)小型ボードコンピュータ「Raspberry Pi(以下、"ラズパイ"という)」を使ってプログラミングを教える、という2点にある ―― と聞いたところで、江端は、直感で、この教室の運営は破綻すると感じました。
【5】ところが、インタビューをしてみると、パイ・テック・クラブさんの運営には、通常の民間のプログラミング教室とは異なる、各種の工夫があることが分かりました。それは「保護者(お母さん)による講師」であり、「現場判断によるゴールの変更」であり、「この教室は、単なる"きっかけ(チャンス)"の提供で十分であるという意識の共有」であることが分かりました。これらのインタビューを通じて、パイ・テック・クラブの最大の成果は、"子ども"と"親"が、共に学ぶ生徒(学徒)である、という新しい学習形態を完成したことにある、と結論付けました。
【6】STEMについて、江端独自の定義を行い、その歴史的背景が「国家のメンツの維持」にあったことを説明しました。また、本連載において、これから江端が検討していく予定の4つの仮説について、説明いたしました。
以上です。
ところで、今更ながら「何で江端が"教育"なんぞに首つっこんでいるの?」と思われるかもしれません。その根っこを遡ると、やっぱり、この連載「「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論」に、立ち戻ります。
これは、英語の資料作成や、英語での発表を仕事で"やらされている“、現在の立場*)から、『よくも、あんな苦痛に満ちた英語勉強を、延々とやらせ続けやがったな……』という怨念に塗れた2年間に渡る連載です。
*)著者のブログ
私は心配なのです ―― 『よくも、あんな苦痛に満ちたプログラミングの勉強を、延々とやらせやがったな……』と、子どもたちから恨まれることを。
調べてみたところ、私はプログラミング教育について、少なくともこれだけの日記を書いてきました。
- というか、多分、人類は、数学と相性が悪い。
- 『プログラミングなんて、一生やるものか』という決意をする、なんてことにはならないだろうか ―― と。
- ―― 私には(他の人には見えなくても)、もう、今の段階で、義務教育プロセスのプログラミング教育の「大失敗」が見て取れるのです
- そもそも、「楽しいプログラミング」というのは、「白い黒」というくらい矛盾していると思うのです。
- 人間とコンピュータの両方にとって、ギリギリのラインで理解しあう為のツールが、「プログラム言語」であって、
- 『何故、江端は、コラム連載の度に、誰も使わないようなプログラムを作っているんだ?』
- そこで、ターゲットを絞って「スプレッドシート教育」としてしまってはどうでしょうか。
- まず「パソコンの前に向かおう」という気力が湧かないはずです。
- 私は、エクセルさえ使いこなせれば、プログラミングなんぞ、本当にどーだっていいと思っています。
- ―― 数字(×数学)に対する嫌悪感を払拭する
- (5)上記(1)〜(4)の策定、立案、およびプログラミング教育の現場の教諭として、江端智一の雇用を強く推奨する。
私は、文部科学省が実施する「プログラミング教育」や、「STEM教育」に対して、そのような教育が行われることに対して、「疑義を呈する」ことで、『ちゃんと言うことは、言ってきたもんねー』と言えるように、アリバイ作りをしている訳です。
では、私が、具体的に、それらの教育に対して具体的に行動しているか、実際のところ、『何もしていません』。私は、文句を垂れているだけのヘタレです。SNSで『ワクチン接種=不妊説』という根拠のないデマを、何も考えずにリツイートしている奴等の品性と知性と大して変わらんくらいの下品さです ―― 私だって、それくらいの自覚はあります。
なぜ「私は動いていない」のか? それは、今回のインタビューに応じて頂いた、パイ・テック・クラブさんのように、私が予想もしなかった運営方法や、パラダイムシフトが登場してくる可能性があり ―― その未知の可能性も考慮せず、反対側に参じることは、抵抗があるからです。
ただ ―― 「プログラミング教育」や「STEM教育」が、私の思った通りに推移して、私の思った通りに失敗に至った場合は、大声で「それ見たことかーー!」と大声で叫ぶつもりです。
文部科学省さんは、ここに、性格の悪い嫌なやつ(江端)が見張っていることを意識して、「プログラミング教育」や「STEM教育」を推進していってください。
それと、STEM教育に関する研究を行っている学者の皆さんは、これ以上"STEM"だの"STEAM"だの言葉遊びのような論文を量産して、江端家の紙資源を消費させることがないよう、よろしくお願いいたします ―― あれ、トイレットペーパーとしても使えませんから。
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