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「800Vから48V降圧」で自動車の“多様な電動化”に応えるVicorVicor オートモーティブグループディレクター 小川雅彦氏

2018年10月より本格的に自動車市場に参入したVicorは、日本でも車載ビジネス拡大に向けた体制を整えている。あらゆる電力レベルに合わせ、4種類の電源モジュールで300通りもの電力供給ソリューションを実現できるVicorは、日本ではどのような車載ビジネス戦略を打ち立てているのか。Vicorの日本法人でオートモーティブグループディレクターを務める小川雅彦氏に聞いた。

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世界各国で加速する自動車の電動化

――自動車では電動化の動きが加速しています。現在のEV(電気自動車)の市況をどのように分析していますか。

小川雅彦氏 国内外の自動車メーカー各社が、EVやFCV(燃料電池車)の開発を急加速している。例えば米・自動車メーカーでは2035年までにエンジン車を全廃、欧州のメーカーでは2035年に向け大胆にEVへシフトする計画を打ち出している。これまで長年にわたり、全世界で生産される自動車におけるEVの割合は1〜2%と非常に少なかったことを考えれば、これらがいかにドラスティックな変革であるかが分かるだろう。

 さらに、自動車メーカー各社は、これまでは比較的ニッチな市場に向けてEVを販売していたが、メイン市場にも拡大する方向に舵を切っている。こうした状況から、2030年には、6350万台生産されるxEVのうち、EVはその半分近くとなる2900万台になると予測されている。


自動車メーカー各社はEVの販売比率を高めている

――車両設計の面から見ると、どのような課題があるのでしょうか。

小川氏 車両設計の観点では複雑化が進んでいる。車両のモデル数が増加し、オプションの種類も増えている。パワートレインのアーキテクチャも複数になってくるであろうし、バッテリーのサイズや充電速度など、設計で考慮すべきポイントが増えている。現在、自動車メーカーやティア1メーカーが抱えている課題の一つとしては、いかに短期間で車両を開発できるかということが挙げられるだろう。そして、その点で当社が貢献できると考えている。

「800V/400Vから48V/12Vへの降圧」で差異化を図る

――Vicorの自動車戦略についてお聞かせください。

小川氏 3つのアプローチで自動車向けビジネスを進めていく。1つ目は、自動車メーカーと直接提携し、ダイレクトサプライヤーとして電力システムの開発を進める方法。2つ目は、自動車メーカーとの関係が強いティア1サプライヤーと提携する方法。3つ目は、サブシステムを開発しているティア1サプライヤーに、消費電力の大きな補器類など、高電力アプリケーションに向けて製品を提供する方法だ。

 これら3つのアプローチによって、Vicorは、800V/400Vあるいは48V/12Vの電力供給システムに関連する技術的な課題を解決する方法を提案し、自動車業界の変革に貢献することを目指している。

 当面は、このような提携を軸にビジネスを行っていく。完全なカスタム品ではなく、Vicorの要素技術を組み合わせることで顧客の設計仕様の最適化と設計面での使いやすさを図る。

 2020年はさまざまな動きがあり、米国、欧州、アジアと日本において、20社以上の顧客とともにプロジェクトを進めている。それらのプロジェクトで開発した製品は、2023年にも量産を開始する見込みだ。それを見据えてVicorは、ISO 9001の取得や、APQP(Advanced Product Quality Planning)の導入を行ってきた。自動車の品質マネジメントシステムの規格IATF 16949の認証についても、2022年第1四半期には審査が完了する予定だ。

――xEV市場においてVicorは、どのくらいのビジネス規模があると想定していますか。

小川氏 電動化が進むと、Vicorにとってビジネスの機会が増えていく。具体的には、xEVは2025年に3160万台、2030年には6350万台になると予測されている。車両によりシステム要件、電力レベル、電力ネットワークは異なるが、1台当たり50〜720米ドル程度、アーキテクチャによっては1600米ドルほどのビジネスの見込みがあると想定している。2030年にはワールドワイドで290億米ドルの市場規模へ拡大していく見通しだ。

 エンジン車では600〜3kWの電力レベルが必要になるのに対し、xEVでは3k〜60kWの電力レベルが必要になるといわれている。つまり、電力要求が5〜20倍になってくる。

 EVでいうと、400Vや800Vといった高電圧のバッテリーを車両に搭載することになる。そしてバッテリーの高電圧出力を、DC-DCコンバータで車両の機器類を動作させるための48Vや12Vに降圧する必要がある。この分野でのニーズが大きいとみている。高電圧バッテリー搭載により降圧の必要性が出てきたことで、Vicorの製品が必要とされる機会が増えるだろう。

――Vicorの電源モジュールの利点をあらためて教えてください。

小川氏 高い電力密度を実現できること、設計を再利用できること、柔軟性やスケーラビリティを備えていることだ。

 電力密度が高いことから、電源ユニットの大幅な小型化、軽量化を実現できる。これによって車両全体も軽量化できるので、CO2の削減や航続距離の延長にも貢献できる。あるいは電源ユニットを小型化できた分、より容量の大きいバッテリーを搭載することも可能になる。

 設計の再利用とは、モジュールソリューション採用により別のモデル(車種)にも横展開が容易になるということだ。開発期間の短縮や開発コストの削減につながる。また、自動車に使うコンポーネント認定プロセスには、一般的に数年かかる。当社の電源モジュールを活用することで、システム全体の部品点数を削減できるので、認定プロセスにかかる工数の節約にもつながる。

 柔軟性とスケーラビリティについては、Vicorの3〜4種類のモジュールを組み合わせることで、約300通りの電力供給ネットワークを実現できる。このため、さまざまなパワートレインのプラットフォームに最適化したソリューションを実装できるようになる。電力供給が大きくても小さくても、基本的には同じ設計で対応可能だ。

48V/12Vバッテリーが不要に?

――Vicorの製品が、車両設計において特に大きく貢献できそうなところはどこですか。

小川氏 12V鉛バッテリーや48Vリチウムイオンバッテリーを、車両に搭載しない設計アプローチが実現可能になると考えている。

 例えば、800V/400Vを48Vに降圧するDC-DCコンバータ「BCM6135」を活用することで、48Vを生成できるので、48Vリチウムイオンバッテリーが不要になるという発想だ。もちろん、高電圧バッテリーからの出力が安定しないため、バックアップ用に搭載しておくべきなど、さまざまな考え方がある。ただ、Vicorの製品を採用して設計を工夫することで、大型バッテリーを削減できる可能性は見えてくるのではないか。バッテリーの重量は、12V鉛バッテリーが約18kg、48Vリチウムイオンバッテリーが約7kgとなり、12Vあるいは48Vのバッテリー削除とワイヤーハーネスのダウンサイジングにより最大25kgもの車両軽量化ができると考えている

 「BCM6135」の変換効率は98%と高く、出力は2.5kW。重量は62gだ。


「BCM6135」(手のひらに置かれている電源モジュール)を活用することで、12V鉛バッテリーや48Vリチウムイオンバッテリーを搭載しなくても済む可能性が出てくる

――BCM6135以外の車載向け製品についても教えてください。

小川氏 BCMシリーズに加え、非絶縁型双方向DC-DCコンバータ「NBM」シリーズや、昇降圧型DC-DCコンバータの「PRM」、降圧型DC-DCコンバータ「DCM」シリーズがある。下の図の通り、これら4種類のモジュールを用いることで、800Vから400Vを生成したり、48Vや12Vなどさまざまな負荷に対して電力を供給できる。

 現在、日本の自動車市場においては48V系のバス電圧は主流ではない。だが今後、自動運転技術の進化に伴い、データ処理やアクチュエーター系で電力要求が上がっていくだろう。さらに、既存の12V系システムの高効率化を図る上で、日本でも48V電源のニーズが高まると見込んでいる。


800Vの高電圧バッテリーから、さまざまな負荷に対応できる(NBM:非絶縁型双方向DC-DCコンバータ、BCM:絶縁型変換比固定中間バスコンバータ、PRM:昇降圧型DC-DCコンバータ、DCM:降圧型DC-DCコンバータ)

――日本市場での独自の戦略はありますか?

小川氏 日本の自動車産業には、これまでに培ってきた強い既存技術がある。そのため、電動化もEV一辺倒ではなく、多様化する傾向がみられる。そうした多様性に対応できるソリューションを提供することが重要だ。12V系システムから48V系システムへの移行も、そうした多様な電動化の一例だと考えられる。いかに技術的なメリットが見えやすい形でソリューションを提案できるかが、日本での注力ポイントだと考えている。

 これらをサポートするため、組織の拡充を図っている。オートモーティブグループはこの1年で人員を倍増した。

――そのための鍵となる製品は何でしょうか。

小川氏 800V/400Vから48Vを生成するBCMシリーズや48Vから12Vに降圧するNBMとDCMがポイントになる。これらの製品を組み合わせることで、48V系システムや12V系システムにも対応できる。Vicorは顧客とのパートナーシップのもと、ニーズに合ったテクノロジー、ソリューションを提供していく。



提供:Vicor株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2021年9月24日

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