サンケン電気は2021年度から3カ年中期経営計画をスタートし、マーケティング力の強化、開発効率の向上を図り、パワーデバイス、パワーモジュール、センサーという3つのコアで構成する半導体事業の成長を図る。特に需要拡大が見込まれるパワーモジュール領域に注力し、白物家電、自動車、産業機器に向けた新製品投入を活発化させる方針。同社半導体事業本部マーケティング本部でパワーモジュール開発統括部長および、マーケティング統括部長を務める福田光伸氏にサンケン電気の技術/製品開発戦略を聞いた。
――今期、2021年度(2022年3月期)から2023年度までの3カ年の新たな中期経営計画を策定されました。
福田光伸氏 新中期経営計画は、2018年度から2020年度に実施した前中期経営計画で進めてきた構造改革および、開発改革の成果を着実に創出し、成長戦略を実現させていくことが大きなテーマだ。
前中期経営計画では、製品開発面で言えばスピード、効率の向上を目指した開発改革を行った。新中計では組織面でも大幅な改革を実施しマーケティング機能と技術/製品開発機能を一体化させたマーケティング本部が、市場要求に沿った新製品の技術開発から製品化、量産までの責任を持つように改めた。その一環として2021年には、開発部門と生産部門、さらには品質部門も加わり、一体で製品開発を行うものづくり開発センターを本社(埼玉県新座市)敷地内に開設した。また、生産面においても、石川地区の工場を再編し、パワーモジュール生産に特化した新工場が2021年春から稼働した。新たな中期経営計画では、こうした前中期経営計画で取り組んできたことや、準備してきたことを着実に実行して、成果を生み成長を実現することを狙っている。
数値目標としては、最終年度になる2023年度に連結売上高1700億円、営業利益13%以上を掲げている。半導体市場は中長期的に成長を続ける市場であり、その成長スピードについていく。特にサンケン電気として強みを発揮できる領域では、先頭に立って成長をリードしていくつもりだ。
――新中期経営計画で注力される事業領域について教えてください。
福田氏 「パワーデバイス」「パワーモジュール」「センサー」の3つを事業ポートフォリオに定めた。その中でも特にパワーモジュールは高い成長率で事業規模を拡大させていく計画。現状、パワーモジュール事業の売上比率は4分の1程度だが、2026年度には3分の1以上にまで高めていく。
――特にパワーモジュールに注力する理由を教えてください。
福田氏 開発効率を高めたい、機器を小型化したい、コストパフォーマンス良く機器をつくりたいという市場ニーズはますます大きくなっている。そうしたニーズに対してはディスクリートパワーデバイスを提供するよりも、モジュールとして提供する方が期待に応えやすい。より多くの市場ニーズに応えていくために、特にパワーモジュール事業に注力していく。
――パワーモジュール事業では石川で新たな工場を稼働させました。
福田氏 2021年5月に事業譲渡した社会システム事業の生産エリアを、パワーモジュール専用のクリーンルームとして改修したもの。この工場ではITとの融合によりさまざまな品種を生産できるフレキシビリティのある混流生産ラインを実現し
生産効率を高めることができるスマートファクトリーとなっている。
生産能力についても、新工場がフル稼働状態になれば、中国・大連工場など海外を含めたサンケン電気全体のパワーモジュール生産能力が1.3〜1.4倍程度に高まる見通し。現状、最初の生産ラインを立ち上げ、生産が始まったばかりだが、今後、事業規模拡大に合わせて、順次、生産設備を導入し、生産規模を引き上げていく予定だ。
――前中期経営計画から継続して開発スピードアップに取り組んでいます。
福田氏 サンケン電気の強みの1つとして「顧客の近くで、顧客に寄り添い、期待されたものを最後までつくりきれる」という点が挙げられる。一方で、市場の変化はとても速くなり、かつ、ニーズも多様化しており「期待されたものを“速く”つくりきる」ということが重要になった。そこで、マーケティング機能の強化と開発スピードアップに取り組んでいる。
そのため、先に述べたようにマーケティング本部に新製品の技術開発から製品化、量産までの責任を担う機能を持たせる体制へと移行した。新体制では、市場ニーズに対し、どのような形態、ソリューションとして提供するのかを決め、そこから素子やパッケージ、モジュールを同時並行で開発するということも可能になった。
さらに、マーケティングから調達、開発、設計、製造に至る開発/製造プロセス全体で開発コンセプトを共有する基盤「Sanken Power-electronics Platform(SPP)」を構築した。SPPでは、「プラットフォームとして開発されたチップ・PKGを使用することによる製品開発の共通化」と定めており、開発、生産のリードタイムを大幅に短縮できる。さらに製品開発で時間を要する試作評価についても、ITシステムを積極的に導入してシミュレーション精度を高め試作評価工数の削減にも取り組んでいる。
こうした取り組みを前中期経営計画時から取り組んできた結果、開発効率は着実に高まり、取り組み前に比べ新製品の開発時間を3〜4割程度短縮できるようになりつつある。
――パワーモジュール事業での注力領域を教えてください。
福田氏 ルームエアコンを中心とした白物家電、車載、産業機器の3つのアプリケーションがパワーモジュール事業で狙う主な注力領域だ。
まず、白物家電市場ではルームエアコンの室外機コンプレッサー用IPM(Intelligent Power Module)では、一定のシェアを獲得できているので、このシェアをしっかり確保していくことを狙う。
車載については、パワーデバイス事業でオルタネーター向けやイグナイター向けに豊富な実績のあるアプリケーションであり、パワーモジュール事業としても電動コンプレッサー向けIPMで着実に実績を積んできた。電動コンプレッサー市場は新たな電装品メーカーの参入が相次ぐなど市場全体が成長途上にある。当社としても事業を拡大する余地が多く、しっかりとビジネス規模を広げていきたい。
産業機器は、われわれにとって白物家電、車載に比べて新規領域といえる領域。また産業機器といってもさまざまな装置、機器が存在するすそ野の広い領域でもある。そこで、われわれとしては「無人運転/自動運転」「エネルギー効率」をキーワードにして、搬送装置やロボット、ドローン、パッケージエアコンやパワーコンディショナーなどにターゲットを絞って攻略していきたいと考えている。
――白物家電向けにはどのような製品を展開するのでしょうか?
福田氏 白物家電領域では、主に耐圧700V以下のIPM、サンケン電気の製品シリーズでいう「SIM,SCM,SXシリーズ」を展開し、ルームエアコン向けで高いシェアを獲得することができた。
ただルームエアコン市場は、世界的にインバーター化が一巡し、市場自体の成長が穏やかになってきた。そのため、IPMに対しても、コスト要求が強くなってきた。そうした市場環境でシェアを維持していくために、コスト競争力のある製品投入を実施していく。例えば、チップの小型化で、現在、IGBTとダイオードを一体化した逆導通IGBT(RC-IGBT)の製品開発を急いでおり、間もなく市場投入する予定だ。従来進めてきた開発効率、生産効率向上策の成果も生かしながら、コスト優位性を発揮した製品を投入していく。
――車載向け製品についてはいかがですか?
福田氏 車載市場に向けては「SAM2シリーズ」と呼ぶ600〜1200V耐圧のIPMモジュールを展開していく。まだまだ品種数は少ないので、ラインアップ強化を進めていく。特に電気自動車などの搭載バッテリーの出力電圧が400Vから800Vへと高まりつつあるので、耐圧1200Vクラスの製品強化を急ぐ。
さらに1200Vクラスでの大電流対応を図るべく、SiCーMOSFETを搭載した製品開発も進めている。SiCーMOSFETについても、自社で製造し、コスト優位性などの特長を持った製品を投入すべく開発を進めている。当初は2025年中の市場投入を計画していたが、今後、顧客ニーズを見極め、前倒しての製品化も検討していく。
――産業機器向けでは、2020年にSTMicroelectronics(以下、STM)と業務提携を結び、共同開発した産業用IPMのサンプル出荷を2021年春から開始されました。
福田氏 650V/50A、1200V/10Aの産業用IPMを共同でSTMと企画し、製品サンプル提供をはじめた。STMのIGBTと、サンケン電気のパッケージ技術を融合した製品で、サンケン電気、STMそれぞれの販売ネットワークを活用して販売していく。両社のネットワークには重複がなく、販売面でも補完関係にあり、今後も、共同での製品企画、販売を進めていく。また産業用IPMにとどまらず、車載グレードを満たしたIPM製品も展開していく予定だ。
――ディスクリートデバイスとして、1200V/50AのIGBTを生産されていますが、そうした大容量IGBTを活用したIGBTモジュールの製品化予定はありますか。
福田氏 「SAM3シリーズ」として大容量IPMの開発に取り組んでいる。これまでは、パワーコンディショナーなどの用途に向けてカスタムモジュールを提供してきたが、パッケージエアコンなど量産規模の大きなアプリケーションにも対応する汎用的なIGBTモジュールを今中期経営計画期間中に投入して、市場参入を果たしたいと思っている。
――注力する製品、市場については理解できました。新中計でのモジュール部門の目標は何でしょうか
福田氏 前述の通り、前中計と新中計は一連のセットであり開発に関して言えば、開発スピードの大幅短縮と、ものづくりセンターを中心に開発・生産・評価が一元化される体制/インフラ面の準備を進めてきた。全てはこの新中計期間中の成長戦略の実現のためにあると言える。その中でもパワーモジュールの位置付けは非常に大切であり、責任を痛感している。ユーザーにとって、小型化・高効率化のメリットを感じていただき、またそのような製品提供を通して低炭素化社会への貢献をしていくことがわれわれの使命であると考えている。パワーエレクトロニクスの領域は直接電力を扱う部分であり、より効率よく小型化にという世の中のニーズに対し、スピーディな製品開発で対応していくことを目標としている。
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提供:サンケン電気株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2021年9月24日