生産終了となる「EOL(End of Life)品」を供給するRochester Electronics。現行品の販売とともに、場合によっては再設計/再生産も行う同社は、EOL品のディストリビューターおよびメーカーとしては唯一無二といっても過言ではない存在だ。半導体不足や半導体企業の合従・連衡、各国の半導体政策による相次ぐ投資など、半導体業界が大きく変化しつつある中、Rochester Electronicsの戦略にはどのような影響があり、ビジネスをどう進めていくのか。日本オフィス代表の藤川博之氏に聞いた。
――新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあり、2021年に入り半導体不足が続いています。EOL(End of Life)品市場は、ここ1年でどのような変化がありましたか?
藤川博之氏 EOL品のみならず、現行品の販売についてもCOVID-19の影響を多分に受けている。
2021年に入り、COVID-19のワクチン接種が浸透したことにより、われわれの顧客の市場ではだいぶ活性化されている。パンデミックが約1年半にわたり続く中で、半導体メーカーもサポートやサービスの最適化を図り、安定して製造、供給できる体制ができてきた。だが、半導体不足の影響もあり需要がそれに輪をかけて強いため、需要と供給の差が開いている。特に東南アジアでは、サプライチェーンへのネガティブな影響が続いている。
これによって、当社では現行品の供給である在庫品販売ソリューションの重要度が日々、高まっている状況だ。同時に、われわれの顧客および、サプライヤー(半導体メーカー)の両方において、製品戦略の見直しと最適化が推進されている。製品の新規開発を行うか、それとも生産中止を含め製品群のメンテナンスを行うか、という方向に“二極化”する傾向がみられる。
そうした中、われわれの顧客は「生産中止をせずに継続供給してほしい」という要望が強まっているが、半導体メーカーはさらなる最適化のために「生産を中止する品種を増やす」という方向に振れており、両者の間のギャップも広がっている。
――そういったEOL品市場の変化によって、Rochester Electronics(ロチェスターエレクトロニクス/以下、Rochester)のビジネスにはどのような影響があり、どのような対策や戦略をとりましたか?
藤川氏 特に医療機器に搭載される半導体製品への需要が、EOL品と現行品の両方で高まり続けている。医療機器はパンデミックを収束させるためにも極めて重要な製品のため、Rochesterでも会社を挙げて、最優先でサポートを行っている。
EOL品でも現行品でも需要が高いこともあり、当社の売り上げも順調に推移している。それに伴い、顧客からはサービスやサポートの拡充を期待されている。これに応えるべく、受発注や入出荷、生産も含め、安定した継続提供を実現するための取り組みを進めている。例えばサービスの拡充については、新規のパートナー(サプライヤー)を増やすとともに、既存パートナーの取り扱い製品も増やすことに、かなり注力している。直近では、新しいパートナーとしてSTMicroelectronicsと契約を締結した。
――2021年6月には大阪セールスオフィスを設立しました。この1年で強化に取り組んだ日本での事業活動、今後の事業戦略について教えてください。
藤川氏 2020年度はインサイドセールス(内勤営業)部署を日本オフィスに新設した。これまでは、インサイドセールスは海外オフィスにあり、日本はその機能を利用しながら、国内の顧客や代理店のサポートを行っていた。ただ、言語や物理的な距離といった課題もあったので、それを解消して、より密なコミュニケーションを行うために、日本にもインサイドセールスを設けた。
大阪オフィスでは西日本の顧客との関係を深めていく。COVID-19の感染拡大以降、日本メーカーではBCP(事業継続計画)の重要性がより高まっていることに加え、生産中止も含めた出口戦略についても検討を深めるようになってきた。こうした背景もあり、日本では新規顧客の開拓にも力を入れていく。
日本での投資は、2021年度の後半も継続して行う。外勤営業と内勤営業の人員を増強してカスタマーリーチを高める。デジタルマーケティングにも力を入れ、既存のセールス手法との融合を図っていく。営業とマーケティングの人員を、2021年内に現在の50%ほど増員する計画だ。
デジタルマーケティングについては、一例として、オンライン展示会の出展や独自のウェビナーの開催を積極的に行う。ウェビナーは、EOL品への知識を深めてもらうことや、顧客やサプライヤーからフィードバックを得ることを目的としている。1回目は2020年秋に実施した。2回目は2021年7月に終えたばかりで、参加人数は前回の2倍以上と好評を博した。
――EOL品販売/再生産について、顧客からはどのようなニーズがありますか。また、それに対するRochesterの対応をお聞かせください。
藤川氏 COVID-19のパンデミックという特殊な状況の中、最も多いのは、やはりサプライチェーンを何とか維持してほしいという声だ。安定した生産と迅速なデリバリーを求められている。これに対しては、ワールドワイドで人員増加を図り、業務のシフトやプロセスの最適化を徹底して行うことで、安定したオペレーションを提供できている。
正直なところ、これほどのパンデミックが発生するとは予想できず、当初はわれわれのオペレーションも混沌(こんとん)としていた部分はあったが、Rochester全体として早い段階から、前述したようにプロセスの最適化に手を付けられたのは、非常によかったと思っている。
――EOL品の需要が高まっているとのことで、何か課題はありますか。
藤川氏 需要とともに、EOL品の使用に対するリスクへの懸念も高まっていると感じる。特に、「偽造品ではないのか」という懸念は、顧客にとっては常に重要だ。取り扱っている製品の信頼性については、われわれはしっかりと明言しているが、より分かりやすく信頼性と安全性を示すためにデータの見える化を進めている。例えば、製品のデータシートやトレーサビリティを示す書類、パッケージのタイプ、製品カテゴリーといったさまざまなデータをカテゴライズし、製品名だけではなく、いろいろな観点で検索できるようなシステムを整えている。
半導体メーカーと直接契約を締結し、認定された製品のみ扱っている点で信頼性を得ていることは、間違いなく当社の価値の一つだ。それをいかに見えるかしながら顧客に伝えていくか、日々改善を図っている。
――昨今、各国や各地域の政府による半導体政策がヒートアップしています。こうした投資の増加がEOL品市場に与えうる影響についてどうお考えですか。
藤川氏 それらの政策が半導体業界を活性化するのは間違いないだろう。それによって業界の再編やM&Aもワールドワイドで加速すると考えている。そうなると、戦略の変更とともにROI(投資対効果)に焦点が当てられるようになるはずだ。先ほど話したように、「新製品の開発」か「戦略的なEOLも含めたメンテナンス」の2方向に進んでいくと予想される。
それによって、EOL品市場においては新しい需要が出てくるとともに、取り扱いの製品を増やすなど、サポートやサービスの多様化も求められるようになるだろう。
――業界の再編も加速するとのお話ですが、EOL品市場の今後の見通しについてお聞かせください。
藤川氏 業界の再編に合わせて、最新の動向を捉えながらサプライヤーとのパートナーシップを深めていく必要がある。ただし、再編がどう加速していくかを予想することは難しいので、その点で課題はある。加えて日本では、代理店(エレクトロニクス商社)の再編も進んでおり、こちらもEOL品市場に影響を与えるだろう。これまでは代理店が担っていたことを、当社が求められるようになるケースもあるかもしれない。われわれも、トレンドを理解して、それに合わせた柔軟な対応をしていくことが重要だ。
日本は、代理店も含めたサプライチェーンが構築されてきた、ユニークな特徴を持つ市場だ。その分、業界の再編が進めば、新しいビジネスモデルが生まれやすい環境だといえるかもしれない。日本の半導体市場は、欧米に比べれば小さいかもしれないが、EOL品市場でみれば、日本に特化したビジネスモデルが必要であり、より柔軟なサービスが求められると考えている。
――半導体業界の先行きが不透明な今の時代において、ロチェスターの強みをあらためてお聞かせください。
藤川氏 70社以上の主要半導体メーカーと、ダイレクトにパートナー締結をして認定された半導体製品を取り扱っていることが、最大の強みだ。さらに、半導体を継続供給する代理店および製造メーカーとして、豊富な製品在庫、再生産ソリューション、製造ソリューションの全てを包括的にサポートできるのは、グローバルで見てもわれわれしかいない。
半導体メーカーによって、出口戦略は当然違ってくる。われわれとしては、サプライチェーンを保持するという意味で、半導体メーカーや代理店と、競争ではなく“共存”していきたい。それが当社の役割だと考えている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:Rochester Electronics, Ltd.
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2021年9月24日