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STEMを取り入れた「夏休みの自由研究」型パッケージ教育のすすめ踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(15)STEM教育(3)(3/8 ページ)

今回は、STEMを取り入れた新しい教育を提案します。併せて、プログラミング教育×STEM教育の方程式から導き出せる、「理系日本人補完計画」という壮大な妄想(?)を語ってみます。

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ぼんやりと見えてきた「プログラミング的思考」の正体

 そして衝撃を受けたのが、第3問です。まさか、ここまで生々しいリアルなデータ解析を試されるとは思いませんでした ―― 驚いたのは、「難易度」でなく、「想定場面」です。

 まず設題の設定がなんとも『うまい』。

 『サッカーチームのマネージャーが纏めた、各種データから見た、「強いチーム」と「弱いチーム」の解析』、など、高校生の日常に出てくるような設定が分かりやすく、同時に、『根性論や精神論だけでチームを強くしようとする、前世代的な脳筋コーチの批判』に見える点も、私には好印象でした。

 そして、誰がどうみたって、"Microsoft Excel"を使っているという前提もリアルですし、相関係数、重回帰、そして、分散や偏差に対する「本質的な理解(×単なる方程式への代入)」を、現実にありそうなデータで試している点、そして、何より、データ解析の当初の目標『強いチームになること』で、設問が一貫されていることに感動しました。

 「世界のどこかにいるデータアナリスト」のことではなく、今、ここで(受験会場)で、試験を受けている「お前」が、このデータから、自分のチームを勝利に導く戦略を立ててみろ、という挑発的なアプローチが"熱い"です。

 これらをまとめると、こんな感じでしょうか。


 ―― なるほど、「プログラミング的思考」とはこういうことか


と、私にもボンヤリと分かってきました。

 特に、このサンプル問題の問2、問3からは、

(1)なんだか良く分からない数式の計算やら証明する(数学的アプローチ)だけではなく、
(2)振り子やバネを振り回して、着地時間を算出する(科学的アプローチ)だけではなく、
(3)ウイルス感染を確認するためのPCR検査手法を説明する(技術的アプローチ)だけではなく、
(4)リトマス試験紙で水溶液の酸性やらアルカリ性を調べる(工学的アプローチ)だけではなく、

目の前にある喫緊(きっきん)の問題を ―― 完全じゃなくてもいいから ―― 今、この時点で、手に入っているモノ(データとコンピュータ(パソコン))だけで、可能な限りアプローチしてみろ、と、煽り立てている様子が見て取れます。

 そして、文部科学省の掲げる「プログラミング的思考」とは ―― これは、完全な私の解釈ですが、

―― そもそも完全な情報なんて、100年後だってそろいやしない
―― 不完全な情報から、今できる場当たりの解決方法を考えて、実行と修正を繰返しし続けろ
―― とりあえず、"データ"さえあれば、"プログラミング"で事態を動かすことができるはずだ

という世界観(または価値観)のことではないか、と思うのです。



 これは、政府資料を読んでも、研究者が書いた論文を読んでも、さっぱり分からなかった私が、逆方向(入試問題)から、私なりに解釈してみたものです。

 ただ、これは、30年間以上、思い付いたらその場でプログラムを書き、10万行から最大1億行レベルのデータと格闘してきた、「現役ITエンジニア」の解釈です。

 私から見える「プログラミング教育」の風景が、文部科学省の担当者の方、教育研究者、現場の教師、特に、現役の受験生たちに同じように見えているか、と問われると、甚だしく疑わしい、とも思います。

 いずれにしても、この私の解釈は、100も200もあるかもしれない解釈の、ほんの1つです。思いっ切り外している可能性は高いですが ―― とりあえず、江端智一個人の見解として、今回公開させて頂きました。

 蛇足ですが、このサンプル問題「スラスラ解けるなら、大学なんぞ行かずにウチの会社においで」、と言いたいくらいには、難しい問題だと思います。

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