超低消費電力のエッジAI、ASICで100TOPS/Wの実現も:「画質改善+物体検知」も可能に(3/3 ページ)
エッジでのディープラーニング技術(エッジAI技術)を手掛けるLeapMindは2021年9月30日、超低消費電力のAI(人工知能)推論アクセラレーターIP(Intellectual Property)「Efficiera(エフィシエラ)バージョン2(Efficiera v2)」のβ版をリリースした。正式版は同年11月末に提供を開始する。
映像の処理に、機械学習を追加する
LeapMindが、極小量子化技術を最も生かせる分野として注力しているのが、物体検知、画像のノイズ除去、生産ラインの異常検知の3つだ。
物体検知のモデルについては既に提供中で、ノイズ除去と異常検知についても、開発や顧客の技術検討が進んでいる。ノイズ除去のモデルは2022年1月末に、異常検知のモデルは同年4月末をメドに正式版をリリースする予定だ。
バージョン1でも、接近検知や人物検知はできる。だが、例えばドライブレコーダーでは、暗い所で撮影した画像を明るくして物体を検知したり、画質改善については静止画については改善できても動画(映像)ではできないといった課題がある。
バージョン2は、こうした用途にも対応し、「画像を明るくしてから物体を検知する」「画質を改善してからクルマを検知し、さらにナンバープレートも認識してマスクをかける」など、映像の処理に加えて、そこからもう一段階、機械学習の処理も追加できるようにすることを狙う。
異常検知では、FPGAで「学習」も可能に
生産ラインの異常検知については、Efficieraを実装したFPGAで、推論だけでなく学習までエッジでできるアプリケーションを目指している。「エッジのカメラだけで、5分程度で学習までできるソリューションを目指す。しかも正常品データを使う。不良品があまり出ない生産ラインでは、正常な教師データだけで学習ができたり、現場で学習ができたりといったソリューションが、非常に待ち望まれている。そこを訴求していきたい」(山崎氏)。同モデルについては現在、本開発の承認が終わり、2022年4月のリリースに向けて、精度や速度をさらに向上させるフェーズに入っていて、デモは可能だ。工場での実証実験に進んでいく段階となっている。
同氏は、「エッジでも学習できるというのはエポックメイキングだ」と強調する。「異常検知の他にも、エッジで学習できるアプリケーションを増やしていきたい」(山崎氏)
Efficiera IPとモデルはセットで提供
基本的に、Efficiera IPとモデルはセットで提供される。「システムレベルで性能が出せるようにするためだ」と山崎氏は説明する。
「もともと当社は、共同研究や受託研究で、顧客からデータセットやテーマをもらい、モデルを一から構築するという形でビジネスを行ってきた。ただ、機械学習の市場がある程度成熟してきたので、カスタマイズのような形ではなく、顧客が標準的な製品をすぐに入手できる形でビジネスの運用が求められるようになっている。当社としても、物体検知、ノイズ除去、生産ラインの異常検知の3つについては、ほぼ標準品としてモデルを作っており、それを提供している。標準品を使って、精度が上がるように(顧客のデータセットを使って)チューニングしていくというのが、現在の方向性だ」(山崎氏)
エッジAIは実利が得られる段階に
IoT市場の拡大に伴い、エッジAI技術への需要は拡大するとみられている。「700兆米ドルの潜在需要があるとの予測もある」(山崎氏)
エッジAI市場のビジネスにおける手応えについて、山崎氏は「ハイプサイクルでいえば、『幻滅期』に当たるのではないか。ハイプサイクル的な1度目の盛り上がりのところを過ぎて、だいぶ落ち着きを取り戻し、実利を得られるようなフェーズに来ていると感じている」と語る。
「市場自体は確実に前に進んでいる。ただし、ビジネス形態(エッジAI技術の供給者側の考え)が変わってきているように感じる。これまでは、『機械学習についてあまりよく分からないが、多少は投資をしてPoC(Proof of Concept)を行ってみよう』という時期が続いていた。そのニーズに応じて、エッジAIの受託開発を共同で行うという企業が多数あった。2020年当たりから少し潮目が変わり、例えば、顔認識を高精度で実現できる技術をパッケージ品として提供し、それをそのまま顧客に使ってもらう、というビジネス形態になってきている。『どんなエッジAIでも実現可能』というアピールから、より用途に特化したソリューションへと移行している。それも、成熟化への一つの道筋だろう」(山崎氏)
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