BAWフィルター用圧電薄膜の電気機械結合係数向上:AlN圧電薄膜材料にYbを添加
早稲田大学は、スマートフォン向けBAW(バルク弾性波)フィルターにおいて、AlN(窒化アルミニウム)圧電薄膜の電気機械結合係数を、従来比で最大約1.4倍に増やすことに成功した。また、理論計算によって電気機械結合係数の向上に関するメカニズムも解明した。
c軸方向にチェーン状の構造が形成されると、エネルギー的に安定
早稲田大学理工学術院先進理工研究科の柳谷隆彦准教授と国際理工学センターの賈軍軍准教授は2021年10月、スマートフォン向けBAW(バルク弾性波)フィルターにおいて、AlN(窒化アルミニウム)圧電薄膜の電気機械結合係数を、従来比で最大約1.4倍に増やすことに成功したと発表した。また、理論計算によって電気機械結合係数の向上に関するメカニズムも解明した。
柳谷氏らは、共振器の高Q化とフィルターの低損失化の実現に向けて、AlN圧電薄膜の開発に取り組んできた。今回の実験では、AlN圧電薄膜材料にYb(イッテルビウム)を添加し、電気機械結合係数が約1.4倍に増加することを確認した。そして、第一原理計算によるシミュレーションで、実験で得られた薄膜の格子定数や音速などを高精度に再現した。
この結果、Ybをウルツ鉱型AIN中に置換する時、ランダムな配置ではなく、c軸方向に「Yb-N-Yb」のようなチェーン状の構造が形成されると、エネルギー的に安定であることが初めて分かったという。
さらに、実験結果と計算結果を比べたところ、主に2つのメカニズムが、Yb添加によるAlN圧電薄膜の電気機械結合係数向上に関与していることが明らかとなった。それは、「イオンサイズの大きいYb元素を添加することで、AlN構造内部に局所的なひずみを生じて圧電係数が向上」し、「c軸方向に形成されるYb-N-Yb構造が、AlN圧電薄膜のソフト化に寄与する」ことである。
柳谷氏らは、Ybを添加したAlNの弾性定数や圧電定数といった物理定数を正確に計算する手法も新たに開発した。これまでは、SQS(Special Quasirandom Structure)モデルを用いることが多かったという。今回は、理想的なランダム固溶体の構造を用いず、Yb-Yb間の相互作用を計算し、化学的により安定な構造を構築した。その上で、電気機械結合係数に関わる弾性定数や圧電定数の計算を行った。
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