準ホモエピタキシャル成長で有機半導体を開発:異分子間でも高い結晶性を実現
東京理科大学は、ルブレン単結晶基板(RubSC)上に、その誘電体(fmRub)をエピタキシャル成長させたところ、作製した薄膜は層間における結晶格子のずれが極めて小さい「準ホモエピタキシャル成長」していることを実証した。
有機太陽電池など有機半導体デバイスに応用
東京理科大学理工学部先端化学科の中山泰生准教授らによる研究グループは2022年2月、ルブレン単結晶基板(RubSC)上に、その誘電体(fmRub)をエピタキシャル成長させたところ、作製した薄膜は、層間における結晶格子のずれが極めて小さい「準ホモエピタキシャル成長」していることを実証したと発表した。研究成果は、有機太陽電池などの有機半導体デバイスに応用できるとみている。
有機半導体デバイスは、軽量で柔軟性に優れ、製造コストも安いなど、さまざまな特長がある。ただ、電気的特性を高めるには、異種材料で形成する界面の整合性が課題となっていた。そこで研究グループは、多環芳香族化合物の1つで、電荷キャリア移動度が極めて高いp型有機半導体材料のRubSCと、正孔と電子の両方で高い移動度を持つfmRubを組み合わせることにした。この2つは、わずかに異なる結晶格子を有し、柔軟性にも優れた有機分子であるからだ。
実験ではまず、RubSC上にfmRubの薄膜を形成し、X線回折(XRD)により結晶性を評価した。この結果、fmRub層がRubSCの(100)面に対して、(001)方向に成長していることが分かった。fmRubのc軸の高さは3.437nmである。面外方向の平均結晶子サイズは28nmで、上層の膜厚(50nm)よりも小さいことから、面外方向にドメイン境界あるいは複数の結晶相を含んでいることが分かった。
回折点の強弱を解析した結果、fmRubの結晶格子のa軸とb軸は、それぞれRubSCの結晶格子のb軸とc軸に対して平行となっており、fmRubがRubSCの(100)面上でエピタキシャル成長していることを確認した。
続いて、微小角入射X線回折(GIXD)により、薄膜の結晶構造を評価した。これにより、fmRubとRubSCの結晶格子はほぼ一致し、結晶格子のずれは0.005nmおよび0.02°未満であり、わずかなことが判明した。
さらに、紫外光電子分光法(UPS)を用い、薄膜表面の電子状態も評価した。この結果、RubSCからfmRubに向かって電子移動が発生、これが引き金となってRubSCからfmRubに上方の「バンド曲がり」が生じていることも分かった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- リチウムイオン利用のスピントロニクス素子を開発
東京理科大学と物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは、リチウムイオンを利用した低消費電力のスピントロニクス素子を開発した。磁気メモリ素子やニューロモルフィックデバイスなどへの応用が期待される。 - 電気的特性を調整できるペロブスカイト薄膜
ペロブスカイトは、オプトエレクトロニクスへの応用に期待できる電子材料としてもてはやされることが多い。2021年11月、材料の研究者らがある進歩について報告した。それによると、ペロブスカイト半導体をベースにした薄膜を作製し、電気的特性を調整できる基板を開発することに成功したという。 - 東京大ら、高温で高配向有機半導体ナノ薄膜を製造
東京大学と物質・材料研究機構および、協和界面科学の共同研究グループは、200℃近い高温ウェットプロセスで、配向性の高い有機半導体ナノ薄膜を製造することに成功した。 - 有機半導体で「絶縁体−金属転移」を実験的に観測
東京大学や産業技術総合研究所(産総研)、物質・材料研究機構による共同研究グループは、有機半導体における「絶縁体−金属転移」を実験的に観測することに初めて成功した。 - リコー、柔軟な環境発電デバイスをサンプル供給
リコーは、屋内や日陰などの照度域でも、効率よく発電できる「フレキシブル環境発電デバイス」のサンプル出荷を9月から始める。センサーなどの自立型電源として用いれば、充電や電池交換などの作業が不要になる。 - 理研、高移動度で低電圧駆動の有機半導体材料発見
理化学研究所(理研)は、キャリア移動度が30cm2/Vs超と極めて高く、低電圧で駆動する有機半導体材料を発見したと発表した。ディスプレイやIDタグなどへの応用が期待される。