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「IMW2022」3D NANDの最前線 〜EUV適用から、液体窒素冷却の7ビット/セルまで湯之上隆のナノフォーカス(51)(4/5 ページ)

半導体メモリの国際学会「International Memory Workshop2022(以下IMW2022)」から、筆者が注目した2つの論文を紹介する。Micron Technologyとキオクシアの論文で、いずれも3D NAND型フラッシュメモリに関する発表である。

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キオクシアの液体窒素温度での3D NANDの実証実験

 データセンターの発熱が世界的な問題になっている。そのため、液浸サーバなるものが登場してきた(例:富士通:サーバを丸ごと液体に浸して冷やす「液浸冷却システム」【FUJITSU JOURNAL】)。とはいうものの、3D NANDを絶対温度77Kの液体窒素に浸して、その動作を実証したキオクシアの発表には驚いてしまった。

 キオクシアは2019年のIEDMで、3D NANDのメモリセルを二つに分割することにより、5ビット/セル(Penta Level Cell、PLC)の動動作させたことを報告した。また、キオクシアは2021年12月に、IEEE Journal on Exploratory Solid-State Computational Devices and Circuits(Volume: 7, Issue: 2)で、3D NANDを液体窒素に浸すことにより、6ビット/セルの動作に成功したことを発表している(図14)。


図14 液体窒素温度で6ビット/セルの動作に成功した3D NAND 出所:Tomoya Sanuki et al.(KIOXIA), “Cryogenic Operation of 3-D Flash Memory for Storage Performance Improvement and Bit Cost Scaling.”, IEEE Journal on Exploratory Solid-State Computational Devices and Circuits ( Volume: 7, Issue: 2, Dec. 2021), FIGURE 13.

 今回キオクシアは、3D NANDを液体窒素に浸すことに加えて、3D NANDのチャネルを多結晶シリコンから単結晶シリコンに変更することにより、さらなる多値化を目指した。図15の左側は今回用いた単結晶シリコンチャネルの3D NAND構造を示す。また、図15の右側は実験のセットアップを示す。


図15 3D NANDの構造と実験方法 出所:Hitomi Tanaka et al.(KIOXIA), “Toward 7 Bits per Cell: Synergistic Improvement of 3D Flash Memory by Combination of Single-crystal Channel and Cryogenic Operation.”, IMW2022, Presentation Slide.

7ビット/セルを実現した3D NAND

 まず、3D NANDの読出しノイズの結果を図16に示す。多結晶シリコンチャネルで室温300Kの場合の読出しノイズを「1」と規格化すると、液体窒素77Kに浸しただけでノイズは70%に減り、単結晶チャネルの室温300Kでノイズは60%となり、さらに単結晶チャネルを液体窒素77Kに浸した場合は、ノイズは40%以下に低減された。


図16 Read Noiseの低減 出所:Hitomi Tanaka et al.(KIOXIA), “Toward 7 Bits per Cell: Synergistic Improvement of 3D Flash Memory by Combination of Single-crystal Channel and Cryogenic Operation.”, IMW2022, Presentation Slide.

 次に、データリテンション特性の実験結果を図17に示す。電荷損失によるVthのシフトは、室温300Kより液体窒素温度77Kの方が小さいことが分かった。また、液体窒素温度77Kで、多結晶シリコンと単結晶シリコンの間に差は無いことも分かった。


図17 Data Retentionの向上 出所:Hitomi Tanaka et al.(KIOXIA), “Toward 7 Bits per Cell: Synergistic Improvement of 3D Flash Memory by Combination of Single-crystal Channel and Cryogenic Operation.”, IMW2022, Presentation Slide.

 そして、単結晶チャネルの3D NANDを液体窒素に浸して動作させたところ、7ビット/セルの実現に成功した(図18)。


図18 7-bits per Cellの実現 出所:Hitomi Tanaka et al.(KIOXIA), “Toward 7 Bits per Cell: Synergistic Improvement of 3D Flash Memory by Combination of Single-crystal Channel and Cryogenic Operation.”, IMW2022, Presentation Slide.

 キオクシアは5ビット/セルをPenta Level Cell(PLC)と呼んだ。6ビット/セルはHexa Level Cel(HLC)になるだろうか。そして、7ビット/セルはHepta Level Cell(HLC)ということになるが、略語が6ビット/セルと7ビット/セルが同じになってしまう。どう区別したら良いのだろうか?

冷却コストは問題にならないか?

 7ビット/セルを実現できると言っても、3D NANDを液体窒素で冷やすというと、多大なコストが掛かると思うかもしれない(筆者もそう思った)。それに対して、キオクシアは図19のようなコスト試算をしている。


図19 液体窒素で冷やした場合のコスト 出所:Hitomi Tanaka et al.(KIOXIA), “Toward 7 Bits per Cell: Synergistic Improvement of 3D Flash Memory by Combination of Single-crystal Channel and Cryogenic Operation.”, IMW2022, Presentation Slide.

 4ビット/セル(QLC)の3D NANDを室温300Kで動作させる場合をリファレンスとする。キオクシアの試算によれば、液体窒素での冷却コストは、チップ製造コストの10%以下であるという。そのため、液体窒素77Kで7ビット/セルの動作できる3D NANDのコストは、リファレンスに対して64%になるとのことである。この試算が正しければ、液体窒素で冷却することは、コストアップにはつながらないということになる。

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