フラッシュメモリの用途開発が始まる(1988年〜1989年):福田昭のストレージ通信(222) フラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表(6)(1/2 ページ)
今回は、1988年〜1989年の主な出来事をご紹介する。NORフラッシュの量産が始まり、応用開発が活発になった。
不揮発性メモリが電子スチルカメラのデジタル化を促す
フラッシュメモリに関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」の会場では最近、「Flash Memory Timeline」の名称でフラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表を壁にパネルとして掲げるようになっていた。現在は、FMSの公式サイトからPDF形式の年表をダウンロードできる(ダウンロードサイト)。
この年表は1952年〜2020年までの、フラッシュメモリと不揮発性メモリに関する主な出来事を記述していた。とても参考になるので、その概略をシリーズで説明する。原文の年表は全て英文なので、これを和文に翻訳するとともに、参考となりそうな情報を追加した。また年表の全ての出来事を網羅しているわけではないので、ご了承されたい。なお文中の人物名は敬称略、所属や役職などは当時のものである。
前回は、1984年〜1988年の主な出来事を述べた。主に、最初にNOR型フラッシュメモリを発明した東芝とエクセルマイクロエレクトロニクス(Exel Microelectronics)がそれぞれ考案した、メモリセル構造の違いを解説した。今回は、1988年〜1989年の主な出来事をご紹介する。インテル(Intel)がフラッシュメモリの開発と事業化を本格化させたのと同期するように、応用開発への動きがにわかに活発になった。
フラッシュメモリの応用として当初に期待されたのは、電子スチルカメラ(デジタルスチルカメラ)の記録用途と、PCの外部記憶用途である。電子スチルカメラの記録用途には内蔵記録と外部(カード)記録、PCの外部記憶用途には高速ディスク装置(HDD互換)とカード記憶が考えられた。
原文の年表を見ていくと、1988年に「First flash-based digital camera, Fuji DS-1P, demonstrated(初めてのフラッシュベースデジタルカメラFuji DS-1Pがデモ)」との記述がある。ところがこの記述は誤りだった。富士写真フイルム(以降は「富士フイルム」と表記)が1988年に試作を発表したデジタルカメラ「FUJIX DS-1P」はフラッシュメモリではなく、SRAM(電子バックアップ方式)を外部記憶に採用していた。具体的には1MビットのSRAMを16個搭載した名刺大のカード(86mm×54mm×3mm)である。CCDイメージセンサー(40万画素)が撮影した画像を8ビットのデジタルデータに変換し、SRAMカードに記録した。当時は低消費電力型SRAMのデータを電池でバックアップするタイプのメモリも、不揮発性メモリの一種と考えられていた。
すなわち厳密には、「FUJIX DS-1P」は「世界初の半導体メモリカード記録方式デジタルスチルカメラ」であり、「日本初のデジタルスチルカメラ」である(参考:日本記録認定学会)。「FUJIX DS-1P」の開発は富士フイルムの単独ではなく、東芝が協力した。「FUJIX DS-1P」をベースにした製品を両社は1990年に発売する。富士フイルムの製品名は「FUJIX DS-X」、東芝の製品名は「IMC-100」である。価格はシステム一式(デジタルカメラと画像再生システム)で300万円と、非常に高額だった。
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