不況期に向かう今、日本の半導体産業の「あるべき姿」を考える:大山聡の業界スコープ(57)(1/2 ページ)
半導体市況が暗転しつつある。「不況期こそ、来たるべき好況期に備えた戦略が必要だ」とは昔から業界内でも言われている。今回は個人的にいろいろと気になることがあるので、ここで日本の半導体産業の「あるべき姿」について考えてみたいと思う。
本連載ではこれまで再三にわたって、半導体市況が暗転しつつあると警告を発してきた。長年半導体業界に携わってきた筆者としては、この業界で好不況が繰り返される様をずっと見てきた。そして、やっぱりシリコンサイクルはなくならないな、と痛感せざるを得ない。もう宿命と思って受け入れるしかないだろう。ここで重要なのは、周期的に訪れる不況期に関連企業は何をすべきなのか、そして半導体を重要な国家戦略に組み込もうとしている政府は何をサポートすべきなのか、という不況期のスタンスではないだろうか。「不況期こそ、来たる好況期に備えた戦略が必要だ」とは昔から業界内でも言われている。ある意味当然なことではあるが、今回は個人的にいろいろと気になることがあるので、ここで日本の半導体産業の「あるべき姿」について考えてみたいと思う。
非の打ち所がない経産省の戦略だが……
経済産業省のWebサイトには、同省が推進している「半導体・デジタル産業戦略検討会議」に関する主旨と活動内容が紹介されており、第1回会議(2021年3月24日開催)から第6回会議(2022年7月20日開催)までの検討資料が公開されている。詳細は割愛するが、この会議では「1:半導体技術・半導体製造」、「2:デジタルインフラ整備」、「3:デジタル産業(ソフトウェア、ITベンダーなど)」を検討事項に挙げ、産業界からも錚々(そうそう)たるメンバーが名を連ねている。実際に公開されている資料を見ても、錚々たるメンバーから発せられた意見やコメントを、経産省の優秀な官僚たちが取りまとめたのだろう、と思しき内容がズラリと並んでいる。資料を見る限りは、まさに非の打ち所がない。
しかし、これを実行に移すのは誰なのか。誰が音頭をとって、誰がどのように具体化していくのか。筆者が部外者だから分からないのか、全然イメージが湧いてこないのである。
この他にも経産省は、車載半導体サプライチェーン検討ワーキンググループ(WG)を立ち上げたり、次世代半導体研究における新しい研究開発組織を立ち上げたりと、さまざまな活動を積極的に行っているようだ。どれもこれも必要な活動だと思われ、それぞれにケチをつけるつもりなど毛頭ない。ただ、せっかくいろいろな活動を行っているのに、これらが産業の現場でどれだけ役に立っているのか、非常に心配しているのだ。
かく言う筆者も2022年4月13日、「国会議員向け経済安全保障勉強会」において「日本の進路と半導体産業」などと題した講演を仰せつかり、何十人もの国会議員の前で現状説明と向かうべき方向性について私見を述べさせていただいた。このような勉強会の主催も政府関係者による活動の一環のようだが、果たしてそれがどれだけお役に立ったのだろうか。勉強会の後は一切の音信も依頼もなく、恐らくは何の効果もなかったのでは、と思わざるを得ないのである(もっとも、筆者の講演内容に問題があったのだとすれば、反省すべきは筆者に他ならないのだが)
「笛吹けども踊らず」の現状
前経産相の萩生田光一氏は経産相在任当時、「日本の半導体産業が競争力を落とした原因の1つは、当時の政府が世界の半導体産業の潮流を見極められず、適切かつ十分な政策を講じなかったことだ」などと述べていたそうだ。
確かに日米半導体摩擦が社会問題になった1980年代後半、当時の通産省は米国のどう喝に完全に屈していたので、そこは反省してもらうべきかもしれない。しかし本来、政府や経産省は産業をサポートする立場であり、実際に産業を推進するのは民間企業である。日本の半導体産業がここまで凋落した責任を政府に押しつけることはできない。かつて、半導体売上高ランキングの上位に名を連ねていた各社が惨敗したのは、あくまでも民間企業各社の責任であることは明白である。それらの民間企業各社は、今では統合や分社によって別の組織体系に変わっているが、世界の半導体市場における存在感は極めて乏しい。また、政府や経産省が打ち立てる半導体関連政策に対して、明確なコメントを述べる経営者がほとんど存在しないことも気になる。メディアが半導体のことを取り上げても、業界トップからの反応は全くといって良いほど見られない。
「笛吹けども踊らず」とはまさにこのことではないだろうか。
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