TSMCに「相手にされない」企業を狙う、SkyWaterの戦略:100%米国資本のファウンドリー(2/3 ページ)
米国のファウンドリーであるSkyWater Technology(以下、SkyWater)のCEO(最高経営責任者)を務めるThomas Sonderman氏は、数十億米ドル規模の重い設備投資を顧客に移行して、コストの大部分を担ってもらうという新しいタイプの半導体ファウンドリーを構築している。
設備投資のリスクは本当にファウンドリーのみが負うべきなのか
Sonderman氏によると、「数十億米ドルを製造に投じることによるリスクは全てチップファウンドリーが負うべきだ」という考え方は、TSMCやSamsungなどと競合する企業にとって頭痛の種だった。SkyWaterは単独で投資を背負う代わりに、技術を市場に出すための開発コストを顧客が負うよう期待している。
Sonderman氏は「それにより、相互最適化(co-optimization)というメリットが得られる。ファウンドリーがプロセスを開発する一方で、顧客は製品を開発できるようになる。その結果、製品は差別化され、いち早く市場に投入できる。なぜなら、投資を行っているのは顧客だからだ。ファウンドリーはその後、量産に向けた製造プロセスを立ち上げればよい」と述べた。
SkyWaterは、成熟したプロセスノードにおける低マージンのウエハービジネスを、高マージンの高度な技術サービス(ATS:Advanced Technology Services)と組み合わせることで競争している。
Sonderman氏は「当社は収益の3分の2をATS事業部門から得ているが、同部門は製造施設の全活動のうち5%を占めているにすぎない」と述べた。
90nmプロセスノードが稼ぎ頭
ファウンドリー最大手のTSMCやSamsungが世界最大レベルのトランジスタ密度を備える3nmプロセスノードのチップの生産を開始している、もしくは間もなく開始する体制であるのに対し、SkyWaterは生産の大半を90nmで行っている。
Sonderman氏は「皮肉にも、米国政府はいまだ主に90nmに焦点を当てている」と述べた上で、SkyWaterが世界で最も高度な耐放射線耐性が高いASICを90nmで製造していることに言及した。
同社はこの技術を使い、暗視ゴーグルやF-35戦闘機に搭載されたビジョンシステムで熱情報を処理する読み出しICを製造している。
SkyWaterは、DoD関連のビジネスをイスラエルのTower Semiconductorと(つまりはTowerを買収するIntel Foundry Services[IFS]と)競い合うことになる。Sonderman氏は、IFSがDoDから45nmでの製造を請け負うようになると見込んでいる。また、もう一つの競合先であるGlobalFoundriesとは28nmノードで争うことになると考えている。
Sonderman氏は「トランジスタは小型化すればするほど、リーク電流の問題が大きくなる。何をトレードオフできるかにもよるが、極めて高度なプロセスノードは必ずしも必要ではない」と述べた。
90nm CMOSプロセスにCNT層を追加する
SkyWaterは現在、米国マサチューセッツ工科大学(MIT:Massachusetts Institute of Technology)と国防総省国防高等研究事業局(DARPA)との協業により、3D(3次元) SoC(System on Chip)プログラムに取り組んでいるところだ。SkyWaterは、90nm CMOSプロセスにカーボンナノチューブ層(CNT層)を追加することで、FETとReRAM(抵抗変化型メモリ)の統合を実現できるとしている。
Sonderman氏は、「機能性や相互接続性をさらに高めることにより、10nmノード未満(を適用したチップ)の消費電力量レベルで90nmデバイスを動作させることが可能になる。最終的には、コストをかけずに性能メリットを得ることができる。これは、基本的なCMOSデバイスの上に超高層ビルを建設するようなものであるため、文字通りヘテロジニアスインテグレーションソリューションだといえる」と述べている。
Googleのオープンソースプロジェクト
SkyWaterは2022年9月、米国商務省の標準技術局(NIST)とGoogleの共同プロジェクトにファウンドリーとして参加した。NISTとGoogleは、半導体チップ開発を手掛ける研究者たちに資金を提供していくという。
Googleは、初期生産費用を負担し、初回生産コストを支援する予定だ。そしてNISTが、半導体チップの回路設計を手掛けるという。この回路設計は、オープンソースになるとみられる。
Sonderman氏によると、このプロジェクトは2022年初頭から、徐々に規模が拡大してきたという。
GoogleとSkyWaterは数カ月前に、MITのリンカーン研究所(Lincoln Laboratory)から移管された90nmプロセスの製造で協業を開始したところだ。
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