低消費電力で高速な推論を実現する組み込みAIチップ:ルネサス独自のDRP技術がベース(1/2 ページ)
ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)は2022年12月8日、NEDOのプロジェクトにおいて、従来技術に比べて最大10倍の電力効率を実現したAI(人工知能)チップを開発したと発表した。
ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)は2022年12月8日、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が進める「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発」プロジェクトにおいて、従来技術に比べて最大10倍の電力効率を実現したAI(人工知能)チップを開発したと発表した。
今回開発したAIチップは、ルネサス独自のDRP(動的再構成プロセッサ)をベースにしたもの。DRPは、チップ内の演算器の回路情報を処理内容に応じて動的に切り替えながら、必要な回路だけを動作させる技術である。ルネサスのIoT・インフラ事業本部 エンタープライズ・インフラ・ソリューション事業部で主幹技師を務める野瀬浩一氏は記者説明会で、「DRPは無駄のない動作を継続できるので、低消費電力かつ高速な処理が可能になる」と説明する。ルネサスはさらに、このDRPと積和演算ユニットを一体化し、AI処理性能を強化したAIアクセラレーター「DRP-AI」を開発している。DRP-AIを応用し、軽量化したAIモデルを効率的に処理できるAIアクセラレーターの開発に成功したのが、今回の成果になる。
AIモデルを軽量化する技術の中でも、今回は枝刈りに注目した。「一般的に、AIモデル内で認識精度に影響のない演算は、不規則に存在する。既存のAIアクセラレーターは、規則的に並んだ演算を並列処理することは得意だが、枝刈りのように、不規則に順番が飛ばされた演算は得意ではない。そのため、ハードウェアの並列性と枝刈りの不規則性に差があり、効率よく処理できないことが大きな課題になっていた」と野瀬氏は述べる。
今回開発したAIアクセラレーターは、DRP-AIが持つ高い柔軟性(動的に切り替えできるということ)を活用することで、きめ細かく枝刈りした場合、つまり枝刈り率が高い場合でも、効率よく演算をスキップできる。これにより、ある程度の認識精度に必要な演算に絞りながらも、ハードウェアの並列性を維持して処理することが可能になるとする。
検証した結果、演算量を最大90%削減する枝刈り率のAIモデルにおいて、従来技術(現行のDRP-AI)に比べ最大で10倍の高速化を実現し、1W当たり最大で10TOPSの電力効率を達成した。野瀬氏は「これは、ファンレス動作が可能な10W以下の電力で、数TOPSを必要とする高度なAIのリアルタイム処理が可能になる値だ」と説明する。
認識精度の低下はわずか3%にとどまっている。「従来技術を使用したときとほぼ同等の精度が得られることを確認した。今回の開発により、大幅な高速化と低消費電力化、そして精度の維持を両立することができた」(野瀬氏)
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