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「顧客第一」を貫き安定供給目指す、産業・医療・自動車で成長狙うアナログ・デバイセズアナログ・デバイセズ 代表取締役社長 中村勝史氏

アナログ・デバイセズは、2020年以降の急激な半導体需要の拡大に対し積極的な生産能力拡大を図ることで多くの需要に対応。直近の2022年10月通期業績でも過去最高売上高を更新した。「まだ一部で需要はひっ迫している」とし2023年も積極投資を継続しながら「景気後退が生じても中長期的に半導体需要は拡大が続く。成長が続くアプリケーション分野での課題解消に向けたソリューションを顧客第一の姿勢で提供する」と語るアナログ・デバイセズ日本法人代表取締役社長の中村勝史氏に2023年の事業戦略を聞いた。

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過去最高業績を更新した2022年10月期

――2022年を振り返っていただけますか。

中村勝史氏 2022年は、基本的には2021年と同じような流れになった。

 2020年に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大に伴い自動車生産に急ブレーキが掛かった。その一方で、インダストリアル市場で自動化に対する投資が増えたり、巣ごもり需要でPCなどのコンシューマー機器需要が拡大したりしたことから、それまで自動車向けだった半導体生産能力をコンシューマーやインダストリアル向けに当てられることになった。その後、次第に自動車生産が回復すると、半導体の生産能力が足りなくなり、半導体不足が生じた。こうしたメカニズムで発生した半導体不足は、2021年から引き続き2022年も続いた。

 加えて2022年は、ロシアのウクライナ侵攻や中国・上海でのロックダウンにより世界的にサプライチェーンがひっ迫し、半導体業界としても混乱がみられた。

 そうした中でアナログ・デバイセズとしては、2022年10月期通期業績として2桁の売り上げ成長を実現し、過去最高の業績を残すことができた1年だった。

――半導体不足、サプライチェーンの混乱がみられる中で、好業績を残すことができた要因はどのように分析されていますか。

中村氏 早い段階で投資に踏み切ったことが功を奏した。COVID-19の感染が世界的に広まりはじめた2020年春の段階で、後工程製造能力を増強する投資を決定し実施した。さらに半導体不足が深刻化する中で、前工程製造についても能力増強に向けて投資した。業界でも屈指の規模で生産能力増強を実現できたことが、好業績につながった1つの要因だと考えている。

――足元の半導体需要動向はいかがでしょうか。

中村氏 継続して増産投資を実施しているが、現時点でも受注残を抱えている。2023年も数カ月は受注残への対応を急ぐという、需給がひっ迫した状況が続く見通しだ。

 ただ今後の半導体需要については、世界経済が後退する中、今後どの程度のリセッション(景気後退)が生じるかが分からないため、極めて不透明だ。加えて、産業別に状況が異なる点でも、今後の需要動向を見通しにくくしている。

 例えば、PCなどコンシューマー分野は、コロナ需要が一段落しかなり需要は落ち着いている。通信分野も、テレワークなどによる通信容量の急拡大に対応するための通信インフラなどへの投資が落ち着いてきている上、日本に限れば第5世代移動通信(5G)インフラ投資も一段落した。

――今後の半導体需要を見通す上では悲観的な要素が多いように思えます。

中村氏 懸念材料は多いものの、アナログ・デバイセズとしては、あまり悲観的にならず、ポジティブに考えている。

 2030年には半導体需要は 現状の2倍になると予測されている。過去40年かかった市場拡大がたった10年ほどで実現されるわけで、中長期的には急成長が続くことは確実だ。ただ、2030年までには、おそらくリセッションを1、2回経験することになる。そのリセッションがいつ来るかは分からないが、2023年に訪れる可能性が高いと捉えている。

 足元をみれば、まだまだ受注残が多く、ひっ迫状態が続いていることも、悲観的になっていられない1つの要素だ。

――需給がひっ迫しているアプリケーションについて教えてください。

中村氏 1つは自動車が挙げられる。サプライチェーンの混乱が続き、納車に1年以上かかるという車種もあり、生産が追い付いていない。仮に経済が低迷しても完成車の在庫残があるので2023年は自動車生産が続くとみており、アナログ・デバイセズとしても一定の売り上げ成長を見込めると考えている。

 もう1つが産業機器だ。コロナ禍で人流が抑制され工場の稼働を停止せざるを得ない状況に陥ったことで、人手に頼らない生産、工場の自動化に向けた投資が活発化し、さまざまな産業機器の需要が拡大している。加えて、アナログ・デバイセズ自体はほとんど影響を受けなかったものの上海ロックダウンの影響でサプライチェーンの混乱があったことも、産業機器向け半導体の需給ひっ迫に拍車を掛けた。

積極投資を継続、成長領域へのソリューション提供を強化

――2023年の事業テーマについて教えてください。

中村氏 まずは、オーダーいただいた製品を、いち早くお客さまに提供することに尽きる。安定供給に向けて積極投資をしてきたが、やるべきことはまだ多い。手を抜くことなく安定供給体制を構築していく。

――今後の設備投資計画について教えてください。

中村氏 アナログ・デバイセズとしては例年、売り上げの4%程度を設備投資に充ててきた。だが、ここ3年は売り上げの8%、すなわち例年の2倍の水準、金額規模でいえば従来の5倍以上を設備投資に充ててきた。中長期的には、半導体需要は拡大する見込みであり、仮にリセッションが生じても、ここ3年と同じ水準での積極的な投資を継続していく。

――安定供給体制を構築しながら、売り上げ成長を目指していく用途分野はどのあたりになりますか。

中村氏 中長期的に半導体需要が伸びていくとされる分野に重点を置き、そこにソリューションを提供していく。

 1つ目が産業機器分野だ。先ほども述べたように、工場の自動化に向けた投資は、慢性的な人手不足などから今後しばらくは続き、半導体需要は拡大していく。また半導体工場は、2〜3年後の稼働を目指した大規模投資が相次いでおり、こうした投資はリセッションが生じても止まることはない。当然、半導体製造装置も必要であり需要は継続するとみている。

 2つ目は医療機器分野だ。高齢化や医療のひっ迫を背景にして医療機器のスマート化や、家庭など病院外で使用するヘルスケア機器が普及していくとされ、需要は伸びていくだろう。

 そして、もう1つがモビリティの分野だ。高齢化などに伴い自動運転/先進運転支援システム(ADAS)の必要性は高まるとともに、脱炭素に向けて電動化も加速している。こうした電子化/電動化により、自動車の半導体搭載量は大きく増える。ある試算によれば、電子化/電動化で半導体搭載金額はこれまでの4倍になるとされ、大きく市場規模は拡大していく。


アナログ・デバイセズが自動車向け製品の提供を通じて社会に与えているプラス影響[クリックで拡大] 出所:アナログ・デバイセズ

――産業機器、医療機器、自動車といった分野に向けてどういったソリューションを展開されますか?

中村氏 アナログIC、電源IC、センサー、プロセッサなど豊富なラインアップの製品、さらにはソフトウェアを組み合わせ、各アプリケーションが抱える課題を解決するソリューションを数多く提供していく。

 例えば自動車では、電動化に伴い従来のエンジン音がなくなり、車室内は静かになってロードノイズが支配的になる。車両の軽量化が進めばよりその傾向は顕著になり、耳障りなロードノイズに何らかの対策が必須になるだろう。この課題に対し、高性能DSPやA/Dコンバーター、センサーなどで構成するアクティブ・ノイズキャンセル・ソリューションを展開している。

 自動車領域での音に関するソリューションとしては、オーディオ関連のワイヤー接続を簡素化する独自のオーディオインターフェース技術「A2B(Automotive Audio Bus)」を軸にしたソリューションも好調だ。ワイヤーハーネスを削減でき軽量化に貢献するソリューションであり、多くの市販車に採用され、市場に定着している。

 「A2B」に似た技術としてカメラとECU間の映像伝送用ワイヤーハーネスを削減できる技術「C2B(Car Camera Bus)」や高速データ伝送ICの「GMSL(Gigabit Multimedia Serial Link)」などもあり、ワイヤーハーネス削減に向けて総合的なソリューションを提供していく。

 電動化に関しても、バッテリーマネジメントシステム(BMS)やオンボードチャージャー、トラクションインバーターなどに向けたソリューションを展開している。

――医療向け、産業向けソリューションについて教えてください。

中村氏 医療分野では、画像診断装置をはじめとした病院内で使用される医療機器で、高性能な信号処理用アナログICを中心にしたソリューションを展開し高いシェアを有している。こうした医療機器用装置向けに構築したソリューションを、家庭用ヘルスケア機器やウェアラブル端末向けのソリューションに応用していく。小型化や低消費電力化を進めていき、病院の外でも病院グレードのテクノロジーを利用できるソリューションを提供していきたい。

 産業機器については、かなり幅広い市場であり、極端に言えばお客さまごとに抱えている課題は異なる。そのため、さまざまな要素技術、製品ポートフォリオを構築しつつ、お客さまに応じたソリューションを作り提供していく。特に産業機器市場のお客さまは、高齢化などに伴うエンジニア不足という課題を抱えており、ソリューションへのニーズは強くなっている。

――産業機器向けソリューションのベースになる製品/技術として特長的なものを教えてください。

中村氏 代表的なものとしてデジタルアイソレーターがある。経年劣化し、伝送速度を速めにくいフォトカプラに代わる絶縁デバイスとして、アナログ・デバイセズでは2001年から磁気絶縁式の独自デジタルアイソレーター「iCoupler」を量産している。産業機器を中心に、自動車、医療、通信などさまざまな分野で、安全性、信頼性を担保しながらインテリジェント化を実現する上で絶縁デバイスの需要は拡大をし、採用が拡大してきた。このiCouplerに加え、マキシム・インテグレーテッドの買収(2021年8月)により容量性絶縁式デジタルアイソレーター製品がポートフォリオに加わった。超低消費電力が特長のファミリなど、iCouplerのラインアップを補完する製品がそろい、より強力なアイソレーションソリューションを提供できるようになった。

 電源モジュール製品群「μModule」も代表的なソリューションといえる。樹脂パッケージ内に電源ICとともにインダクターやコンデンサーなど外付け部品を内蔵したチップ形状の電源モジュールで、個別部品で構成した場合に比べ、半分程度のサイズで高精度、高効率な電源回路を実現できる。

「顧客第一の姿勢」をより強める

――顧客それぞれの課題に応じたソリューションの提供は、充実したサポート体制の構築が必要です。

中村氏 アナログ・デバイセズは全世界で12万5000社以上、日本だけでも3000社以上のお客さまとの取引きがある。その全てのお客さまをアナログ・デバイセズが直接サポートしていくことは難しいので、販売代理店やオンラインを活用しながらサポートを強化していく。

 また、日本の顧客ニーズに応じたソリューションの開発も強化する。実は、2022年から私自身、日本法人社長とともに、グローバルでのソリューションエコシステムを統括する職務を担うポジションを兼務している。アナログ・デバイセズとして、ソリューション開発の方向性を見いだしていく役割を担っている。

 日本のお客さまは、新しいアイデア、新しいテクノロジーをいち早く取り入れるため、日本市場で新しいニーズが生まれる。そうしたニーズをソリューション開発に反映するために、私がグローバルでのエコシステムを統括することになった。日本のお客さまが求めるソリューションをより素早く提供できるようになると同時に、グローバル視点で開発したソリューションの提供を通じ、日本のお客さまのグローバル展開をより後押しできるソリューションの提供が可能になると考えている。

――2021年8月にマキシム・インテグレーテッドを買収、統合されて約1年半が経過しました。統合の進捗はいかがですか。

中村氏 日本では、世界各国の拠点に先駆けて、顧客担当営業を1本化するなど急ピッチで統合作業を進めてきた。そのため統合直後から、アナログ・デバイセズ、マキシム・インテグレーテッドと双方の製品を販売するクロスセリングを実施し、相乗効果が多く生まれている。製品ポートフォリオの統合に関しても現在、順調に進めており、間もなく完了する見込みだ。総じて統合作業は順調に進んでいるが、製品/技術開発面での統合が残っている。

 互いの技術を融合した新規製造プロセスの構築や新製品開発はどうしても時間がかかり、5年以上を要するものもあるだろう。長期的な戦略の下で着実に統合していく。

――最後に2023年の抱負をお聞かせください。

中村氏 アナログ・デバイセズが日本に営業拠点を設置したのは1970年であり、50年以上になる。アナログ・デバイセズにとって日本は、米国、欧州に次いで歴史ある市場であり、非常に重要な戦略的市場であることは変わりない。営業拠点の設立以来、常に顧客第一の姿勢でビジネスを展開してきた。2023年もそうした姿勢を継続し、日本のお客さまに貢献していく。



提供: アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2023年2月9日

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