危機的状況にある、米国軍向けの半導体供給体制:国内サプライチェーン構築は遠く(3/4 ページ)
米国内の半導体生産能力に対する投資が不十分なことから、米国国防総省がアジアからの半導体供給を断てるようになるまでには、まだ長い年月を要する見込みだという。業界関係者やアナリストらに詳細を聞いた。
ロシアのウクライナ侵攻で、米国の兵器に枯渇の懸念
RaytheonとLockheed Martinは、「Javelin」や「Stinger」などの兵器を製造しており、これらはウクライナがロシアによる侵略を阻止するのに役立った。しかし、米国のシンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)によると、米国の兵器は枯渇が懸念されているという。
CSISは2022年9月の報告書で、「米国が保有する兵器の一部は、戦争計画や訓練に必要な最低限のレベルに達している」と述べている。
CSISの報告書によると、DoDは、高機動ロケット砲システム(HIMARS:High Mobility Artillery Rocket System)や誘導多連装ロケットシステム(GMLRS:Guided Multiple Launch Rocket System)などの生産能力を増強するための資金提供を行うよう、議会承認を求めているという。
しかし、同レポートは、「業界では一般的に、DoDが生産能力を急増させるための投資を正当化するには、複数年に及ぶ買収活動に取り組む必要があるという位置付けがなされている」と指摘する。
CSISが、非常時における防衛産業基盤の在庫置き換え能力について調査を行った結果、そのプロセスを実現するには、ほとんどの製品に関して長い年月を要する見込みであることが明らかになったという。
CSISによると、HIMARSやGMLRSなどは非常に有用な誘導ロケットだが、数に限りがあるという。
また、CSISの報告書は、「米国は現在までに生産した5万5000基のロケットのうち、2万5000〜3万基を在庫として持っているようだ。もし米国が、JavelinやStingerの時と同様に、その在庫全体の3分の1をウクライナに提供した場合、ウクライナは8000〜1万基のロケットを受け取ることになる。在庫はその後、数カ月間は持ちこたえるとみられるが、在庫が尽きてしまった時には代替品がない。その年間生産数は約5000基だ。米国は最近、その数を増加させるべく資金を割り当てているようだが、実現するにはまだ数年間を要するとみられる」と指摘する。
Mark Montgomery氏とBradley Bowman氏は、Defense Newsのレポートの中で、「台湾は2015年に、200基のJavelinミサイルおよび発射装置と250基のStingerミサイルを調達する認可を得ていたが、今もまだ提供されずにいる」と指摘する。米海軍退役少将であるMontgomery氏は現在、民主主義防衛財団(FDD:Foundation for the Defense of Democracies)でシニアフェローを務めている。またBowman氏は、FDDのCenter on Military and Political Powerでシニアディレクターを務めている。
両氏は、「ウクライナへの供給と、米国の共同在庫の補充が必要とされている状況から、現実的に見て2026〜2027年より前に提供できるようになるとは考えられない」と述べる。
さらにCSISは、「そもそも米軍が、長引く紛争に対応することができない構造であるということ自体が、国家安全保障体制における予算の優先順位について、何らかの議論に火をつけることになるのではないか」と指摘する。
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