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在庫過剰の半導体メーカー、半導体不足に悩む自動車メーカー、なぜ?大山聡の業界スコープ(63)(1/2 ページ)

半導体メーカーは在庫過剰を抱えるのに、なぜ自動車メーカーは半導体不足に悩むのか

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 本連載前々回記事において、半導体不足問題は2023年前半に終息する見込みであること、むしろその後は仮需が生んだ過剰在庫問題が浮上する可能性があることについて述べた。半導体市場は今、全般的に不況へ突入している状態で、メモリ市場は特に供給過剰による単価の下落が進んでいる。一方で、自動車業界では半導体不足問題が継続し、トヨタ自動車の人気車種「プリウス」などは注文してから納車まで1年半かかるそうだ。半導体には、余っている製品もあれば不足している製品もある。ここまで両極端な状況が同時に発生することはまれだろう。今回は、製品別に市況を整理しながら、現状を分析してみる。

世界半導体市場規模、7カ月連続のマイナス成長

 WSTS(世界半導体市場統計)によれば、2023年1月の世界半導体市場規模は前年同月比20.1%減、2022年12月の同18.1%減よりもさらに悪化した。マイナス成長は2022年7月から7カ月連続で、2桁のマイナスになったのは202211月から3カ月連続になる。特に悪いのはメモリ市場で、2023年1月の実績は同58.6%減、2022年12月の同46.2%減からさらに悪化している。これらの数値はいずれも金額ベースだが、実は数量ベースでも落ち込んでいて、2023年1月の出荷数量実績はDRAMもNAND型フラッシュメモリも前年同月比で約4割減だった。つまり、それだけ供給能力が過剰になっているわけで、メモリメーカー各社は「過剰在庫を抱え込むか」「値下げ要求に応じて製品を放出するか」のどちらかを選択するしかない。メモリ単価下落に関する報道が増えているが、まだ下落幅はそんなに大きくない。値下げが加速するのはこれからだろう、と筆者は予測している。

 ここまでメモリ市況が悪化したのは、PCやスマホの需要低迷に加えて、GAFAをはじめとする大手ITベンダーの業績が悪化していることが要因である。

 もともと、半導体不足が社会問題として注目され始めた2021年初頭から、メモリではなくMCU、アナログ、ディスクリートなど、最先端プロセスを必要としない半導体製品が不足していた。では、これらメモリ以外の過不足についてはどうなっているのだろうか。

「不足」から「過剰」へ移行か

 MCU市場について見てみると、2023年1月の実績は前年同月比21.9%増、2022年12月の同14.8%増を上回る好調ぶりである。特に車載MCUに限定すると、2023年1月は同28.2%増、2022年12月は同25.8%増。半導体不況など「どこ吹く風」という感じである。ただし、不足問題については終息に向かっていて、長期化していた納期も正常化しつつあるようだ。

 アナログ市場は、2023年1月実績が同4.8%減、2022年12月の同4.4%増からマイナス成長に落ち込んでしまった。もう少し細かく見てみると、汎用アナログ市場は2023年1月が同8.1%減、2022年12月の同3.1%増からマイナスに転じているが、車載アナログは2023年1月が28.1%増、2022年12月の同36.4%増には及ばないものの、極めて好調に推移している。

 車載MCUと同様、車載アナログも不足問題は終息に向かっているようだが、汎用アナログの方は不足から過剰へと状況が変わりつつあるのではないか、とみている。汎用アナログは、文字通りさまざまなアプリケーションで使われる。そのため、ユーザーが世界中に点在し流通網が正常に機能しなかったコロナ禍では、あちこちで不足問題が発生していた。そのために仮需が膨らんだ可能性が極めて高いのである。自動車でいえば、スマートキーにある種の汎用アナログが搭載されているが、これは今でも不足しているという。需要が伸びているから不足しているのかもしれないが、車載以外にもさまざまな用途がある汎用アナログなので、あちこちで仮需が膨らんで不足状態に陥った可能性も否定できない。しばらくは動向を見守る必要があるだろう。

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