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ここが変だよ 日本の半導体製造装置23品目輸出規制湯之上隆のナノフォーカス(61)(4/5 ページ)

2023年3月、経済産業省は、半導体製造装置など23品目を輸出管理の対象として追加する方針を固めた。だが、ここで対象とされている製造装置、よくよく分析してみると、非常に「チグハグ」なのである。何がどうおかしいのか。本稿で解説したい。

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そんな原子層エッチング装置が存在するのか?

 まず、F-2)は、「高周波のパルス出力の電源を1つ以上持つもの」であり「温度制御領域が20以上ある静電チャックを持つもの」でもある。このようなドライエッチング装置は、確かに実在する。

 例えば、原子層エッチング(Atomic Layer Etching、ALE)を行うドライエッチング装置では、高周波電源をパルス状にON/OFFしている。また、ウエハー面内の温度均一性を向上するために静電チャックを100ゾーンに分けて、ゾーンごとに冷媒とヒーターにより、温度調整を行っている。

 ところが、「切替時間が300ミリ秒未満の高速ガス切り替え弁を1つ以上持つもの」というドライエッチング装置は、ありえない(少なくとも筆者は知らない)。上記のALEでも、ガスを高速に切り替える必要があるが、その時間はせいぜい数秒である。300ミリ秒未満、つまり、0.3秒未満でガスを切り替えるドライエッチング装置が本当にあるのだろうか? あったとしても、エッチングチャンバ内のガスをわずか0.3秒未満で切り替えることはできないと思う。

 その上、現役のドライエッチング技術者に聞いてみると、エッチングチャンバにガスを導入するマスフローコントローラという部品について、最も高速に応答するものでさえ0.3秒であり、0.3秒未満のものはこの世に存在しないのではないかという(参考/アズビル製品ページ)。

そんな深孔加工用のドライエッチング装置はない?

 F-3)のドライエッチング装置も、事情は同じである。「誘電体の材料に対してエッチングの幅に対する深さの比率が30倍を超え、かつ、幅寸法が100nm未満の形状を形成することができるもの」というのは、3次元NANDのメモリホールの深い孔(High Aspect Ratio、HAR)の加工が想定される。

 ここで、「誘電体」というのはSiO2やSiNなどの絶縁膜であろうし、「エッチングの幅に対する深さの比率が30倍を超え」というのは、孔の直径と深さの比率(Aspect Ratio、AR)のことを意味する。このARは、64層の3次元NANDで既に40〜50を超えていたので、「30倍」というのは、かなり低レベルの深孔加工用のドライエッチング装置ということになる。

 しかし、問題は、F-2)と同様、「切り替え時間が300ミリ秒未満の高速ガス切り替え弁を1つ以上持つもの」という点にある。確かに、深孔エッチングの際には、孔が横方向にエッチングされる現象(ボーイング)を防ぐために、孔の側壁に保護膜を形成するステップと、高エネルギーイオンを打ち込んで垂直加工を行うステップを切り替えながら、加工を行っている。

 ただし、その切り替えの時間は「300ミリ秒未満」のような短時間ではなく、数十秒とか長い場合は数分〜数十分になる。その上、前述した通り、「300ミリ秒未満」でガスを切り替えることができるマスフローコントローラが、世の中に存在しない。

 以上、ドライエッチング装置について、筆者の見解を述べた。GAA用のF-1)はともかく、「300ミリ秒未満の高速ガス切り替え」を行うドライエッチング装置は、世の中に存在しないと思われる。そのような装置を規制して、何か意味があるのだろうか?

3)ドライおよびウェット洗浄(エッチング)関係

G)ウェットエッチング用に設計した装置でシリコンゲルマニウムのシリコンに対するエッチング選択性の比率が100倍以上であるもの

H)0.01パスカル以下の真空状態において、高分子残さおよび銅酸化膜を除去し、かつ銅の成膜を可能にするように設計された装置

I)複数のチャンバーまたはステーションを持つ装置で、ドライプロセスにより表面の酸化物を除去する前処理を行うように設計されたもの、またはドライプロセスにより表面の汚染物を除去するように設計したもの

J)ウエハーの表面改質の後に乾燥を行う工程を有する枚葉式のウェット洗浄装置

 G)はGAA構造のトランジスタを形成する際のウェットエッチング装置である。「選択性の比率が100倍以上」に引っ掛かるということおよび、中国でGAA構造のトランジスタをいつ形成するようになるか不明であるため、この規制には疑問があることは、F-1)で述べた通りである。

 H)とI)は、ドライプロセスによる表面処理用装置である。ここで、筆者が疑問に思うことは、ドライプロセスによって表面処理を行った後、真空状態を保持したまま、次の成膜工程に移行する必要があるという点である。つまり、H)のように、ドライプロセスの表面処理の単独装置が意味を持つのかという疑問である。

 この問題を解決するには、I)のように「複数のチャンバーまたはステーションを持つ装置」にする必要があるが、これは米AMATが独占しているクラスター装置であるように思う。日本にも、このような装置があるのだろうか?

 J)は、薬液の専門家にヒアリングしたところ、背の高いパターンを洗浄する際、パターンの表面を疎水性に改質することがあるという。このようにすると、乾燥する際に、パターン倒れが防止できるとのことである。従って、このような枚葉式ウェット洗浄装置は、先端半導体の製造に使われる可能性があり、規制対象としては意味があるだろう。

4)熱処理装置および成膜装置関係

 熱処理装置が2品目、成膜装置が11品目(細かく数えると23品目)もある。ここで全てを列挙することは避けるので、詳細は、冒頭で紹介したMONOistの記事を参照ください。

 以下では、筆者が疑問に思うことを述べさせて頂く。経産省が規制対象に挙げた成膜装置の半分位は、米国が「10・7」規制で申請を義務付けたものである。しかし、残り半分位は、「10・7」規制には無い成膜装置である。

 このように、経産省は非常に幅広い範囲で成膜装置を規制対象に挙げた。しかし、日本の成膜装置のシェアは、CVD装置で6.2%、スパッタ装置で5%しかない。たったこれだけしかシェアが無い日本の成膜装置について、広範囲に規制する意味があるのだろうか? 

 もしかしたら、米国から「抜け駆けするな」とクギを刺された結果、上記のようなことになったのかもしれない。だとしたら、せめて、規制対象の成膜装置は、米国と同じ範囲にするべきではないか?

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