IntelとArmの協業が半導体業界にもたらすもの:アナリストらが分析(4/5 ページ)
Intel Foundry ServicesとArmは2023年4月、Intel 18Aプロセス技術向けにArmのIPを最適化することに合意した。この協業が半導体業界にもたらす影響と可能性について、業界の各アナリストに聞いた。
Arm IP向けにPowerViaを最適化するメリット
トランジスタへの電力供給は、接触抵抗や電圧降下(IRドロップ)の増加によってエネルギー損失や性能低下、温度上昇などにつながるため、微細なノードではしばらくの間、課題とされてきた。BSPDN(IntelではPowerVia)は、電源配線をデータIO線から遠ざけ、コネクティビティを簡素化し、さらに高度な電源供給配線を実現する。
Intelの広報担当者は、「一般的に、ウエハーの前面の電源配線が不要になることで、より多くのリソースを使って信号配線の最適化や、遅延低減ができるようになる。このため、製品ニーズに応じてPPA(消費電力、性能、面積)を最適化することが可能だ」と述べている。
電源供給は、半導体チップ設計ごとに異なる傾向にある。
例えば、クライアント向けCPUやデータセンター向けプロセッサは、異なる性能要件に対応できるようカスタマイズされているため、異なる種類のPDNを必要とする。サーバプロセッサは、重いワークロードにも確実に対応し、需要のピーク時にクロックを一時的に高めることができる。
一方、クライアントCPUは通常、非アクティブ状態か低負荷で動作するため、バースト動作向けに最適化されている。しかし、リソース集約型のワークロードが開始されると、プロセッサはスムーズなユーザーエクスペリエンスを実現すべく、アイドル状態から最高速度、またはそれを超える速度で、迅速に(数マイクロ秒で)性能を高める必要がある。スマートフォンSoCは、より素早く需要に対応できるよう設計されていて、独自のPDN設計が必要だ。
スマートフォンSoCをターゲットとするArm IP向けにPowerVia PDNを最適化すると、幅広いアプリケーションに対応できるよう開発されたIntelの汎用PowerVia PDNと比べて、性能や消費電力の面で多くのメリットが得られるようになる。なお、IFSとArmは、現在共同で進めている取り組みの一環として、RibbonFETとPowerViaを標準的なモバイルArm IP向けに調整するという計画については、明らかにしていない。
Kanter氏は、「IntelのGAAは、PowerViaの採用やトランジスタ実装の違いなどから、他のファウンドリーの選択肢よりも高性能を実現できると期待している。これはつまり、より高い動作周波数や、同じ周波数であればより低い電力消費を実現できる可能性があるということだ。IntelのPowerViaは、Intel 20Aおよび18Aの一部であるため、Intelのプロセスに向けたArm IPの最適化には、PowerViaも含まれるとみている。これまでに行われてきた分析結果を見ると、PowerViaでは通常、優れた電源供給(3〜7%程度の性能向上)や面積削減(15〜20%)によって提供できる性能面でのメリットは小さい」と述べる。
Cutress氏は、「IFSとArmが協業することで、ArmのモバイルIPの実装を計画している顧客企業に多くのメリットを提供できるが、IFSはPPAの改善に向けて、大手顧客と密接に連携していきたい考えなのではないか」とも指摘する。
McGregor氏は、「Armが、他のアーキテクチャと比べて特別なメリットを持っているとは考えていない。半導体/トランジスタ設計における進歩が、業界全体にとってのメリットになる」と述べる。
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