中国のGa/Ge規制、サプライチェーンの混乱は不可避か:価格高騰やリードタイム長期化も(1/2 ページ)
中国がガリウムとゲルマニウムの輸出規制に踏み切る。短期的には、材料やデバイスの価格高騰やリードタイム長期化などの影響が予想されるが、長期的な影響を予測するのは難しい。
中国商務省は2023年7月3日(現地時間)、半導体チップの製造に不可欠な2つの希少材料であるガリウム(Ga)とゲルマニウム(Ge)に輸出規制を課すと発表した。この決定は、米国と欧州による中国への半導体輸出制限に対する、明らかな報復措置と考えられる。ガリウムとゲルマニウムは2023年8月1日から輸出規制の対象となる。以降、これらの原材料を国外に輸出するには、国に特別な許可を申請しなければならなくなる。
2022年に制定された米国の「CHIPS and Science Act(CHIPS法)」は、中国へのハイエンドのマイクロチップと技術の輸出を制限しており、高性能コンピューティングに依存する防衛関連分野における中国政府の能力に影響を与える可能性がある。さらに、日本やオランダなども半導体関連の対中輸出に制限を課している。
欧州が「European Chips Act(欧州半導体法)」を採択したことは、半導体サプライチェーンの課題に取り組み、重要部品の海外供給への依存を減らすというEU(欧州連合)のコミットメントを示している。EUは、国内のチップ生産を強化し、同分野への投資を誘致するイニシアチブを支援することで、半導体産業における技術的自立と競争力の向上を目指している。
シリコンは、今日のエレクトロニクスアプリケーションで最も広く使用されている半導体である。この材料は広く入手可能で、比較的安価で、簡単に製造できる。一方、ガリウムとゲルマニウムは模倣が難しい特性があるため、特定の特殊な用途に適しており、携帯電話やコンピュータ、ソーラーパネル、医療機器、多様な兵器など、さまざまな用途の製品に組み込まれている。
ガリウムは、ほとんどがガリウムヒ素(GaAs)の製造に使用され、シリコンよりも高性能で低消費電力の半導体に利用されている。これらは、青と紫のLEDや、RFデバイス(パワーアンプやRFフロントエンド、アンテナなど)に活用されている。
パワーエレクトロニクスおよびオプトエレクトロニクスでは、ガリウムは窒化ガリウム(GaN)を生成するためのベースとなる。GaNは、優れた特性を備えたワイドバンドギャップ半導体材料で、さまざまなエレクトロニクスアプリケーション、特にパワーアプリケーションに有用である。
GaN/ゲルマニウムの特長
ここであらためて、GaNの特長をまとめておく。
- 高い電力密度:GaNデバイスは、従来のシリコンベースのデバイスよりも高い電圧と電流に対応できる。この特性によって、よりコンパクトで効率的なパワーエレクトロニクスシステムの開発が可能になる
- 高いスイッチング周波数:GaNは高い電子移動度を備え、より高速なスイッチング能力を有するため、高周波数動作が可能である。これにより、損失が減少し、効率が向上する
- エネルギー効率:GaNデバイスは導通損失とスイッチング損失が低いため、エネルギー効率が高い。この効率向上は、さまざまなアプリケーションにおける消費電力の削減とバッテリー寿命の延長につながる
ゲルマニウムは、優れた電子移動度と正孔移動度のため、トランジスタの初期に研究者から高く評価されていた。しかし、ゲルマニウムトランジスタはシリコントランジスタと比べてゲインが低く、周波数応答が制限され、温度および電圧振幅への依存度が高いといった制約があるため、現代のエレクトロニクスではゲルマニウムは以前ほど広くは使われていない。
ただし、特に次のような分野では、依然として重要である。
- オプトエレクトロニクス:ゲルマニウムはバンドギャップが狭いため、赤外線(IR)検出器や太陽光発電デバイスに役立つ。IR範囲の光を吸収および検出できるため、暗視装置や電気通信などの用途に有用である
- 合金元素:ゲルマニウムは、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)や電界効果トランジスタ(FET)の製造に使われる。これらのデバイスは、高速および高周波回路に適用される。
ゲルマニウムは宇宙放射線の有害な影響に対する耐性がシリコンより優れているため、太陽電池などの宇宙技術での利用に理想的な材料である。
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