欧州に進出するTSMCの狙いと、半導体産業への影響:欧州の”半導体ルネサンス”を主導(1/4 ページ)
TSMCは2023年8月、ドイツ・ドレスデンに欧州初の半導体工場を設置する計画を正式に発表した。今回、TSMCへのインタビューなどを通じて、同社の狙いと世界半導体産業への影響を考察した。
TSMCは、Robert Bosch(以下、Bosch)、Infineon Technologies(以下、Infineon)、NXP Semiconductors(以下、NXP)と共同で、ドイツのドレスデンに拠点を置く欧州半導体製造子会社(ESMC:European Semiconductor Manufacturing Company)への出資を計画している。この戦略的な動きは、特に車載および産業分野における先進の半導体製造サービスに対する需要の急増に対応することを目的としている。
ESMCの設立は、欧州の半導体産業における極めて重要な発展を意味する。この共同事業体の最終的な投資決定は、欧州チップ法の枠組みの中で現在検討されている公的資金の配分にかかっている。
ESMCの設立は地域経済に大きな恩恵をもたらし、約2000人のハイテク専門職の雇用を創出する見込みだ。同工場の建設は2024年に着手予定で、生産は2027年に開始する計画だという。
TSMCの広報担当であるNina Kao氏は米国EE Timesのインタビューに対し、TSMCと欧州のパートナーとの合弁事業(JV)は半導体製造のゲームチェンジャーになると主張した。同氏は「TSMCの先進的なプロセス技術を利用することで、車載および産業分野を前進させるために必要な性能、効率、イノベーションを確実に提供できる。これは、欧州の主要市場と、同市場で急成長している製品開発に完全に適合する」と述べている。
同氏は、「Bosch、Infineon、NXPはいずれもTSMCの長年の顧客で、車載分野と産業用半導体サプライチェーンにおける欧州の主要企業だ」と付け加えた。
ESMCへの総投資額は、株式と借入資金、欧州連合(EU)とドイツ政府双方からの支援を合わせて100億ユーロ超となる見込みだ。Kao氏は「競争力のある投資環境を構築するには、それぞれの公的資金の支援が必要となる」と述べている。
ESMCで導入されるプロセス技術
この合弁事業ではまず、16/12nmのFinFETおよび28/22nmのプレーナCMOSノードに焦点を当て、さまざまな分野、特に車載および産業アプリケーションに革命をもたらす最先端の機能を結集する。これらのノードは、欧州の半導体技術における大きな躍進を意味し、多くの利点をもたらすだろう。
これらのプロセスノードは、車載および産業分野の進化するニーズとイノベーションのロードマップに完全に合致している。産業的な状況を見ると、28nm、22nm、16nm、12nmカテゴリーに対する需要がますます高まっている。これらのノードは、ネットワーク通信から家電製品や車載ソリューションまで、幅広いアプリケーションの重要なイネーブラーとして機能する。
これらのプロセスノードで際立っているのは、性能と効率という2つの柱を実現する能力だ。特に、16/12nm FinFET技術は、堅ろうな性能を維持しながら卓越したエネルギー効率を提供することに秀でている。このため、効率と信頼性が最も重要で、消費電力が重視される車載システムに最適だ。
一方、28/22nmプレーナCMOSプロセスは、より幅広いアプリケーションに対応できる。
Kao氏によると、同技術の汎用性は、車載や産業、通信インフラなど、さまざまなアプリケーションに適応できるという。同プロセスを適用して開発される技術のバリエーションは、組み込みフラッシュやRF、RRAM(抵抗変化型メモリ)、MRAM(磁気抵抗メモリ)、その他の不揮発性メモリなどの革新的な道を探究し、ドレスデン工場がイノベーションの最前線にあり続けることを可能にするものだ。
欧州の主要市場が進化を続け、28/22nmおよび16/12nm FinFET技術ノードの高度なウエハーに対する需要が高まる中、今回の協力体制は、これらの要件に応える最適なものになるだろう。欧州の半導体業界は、これらのノードに正確に適合し、産業および車載アプリケーション向けのロジックチップを設計している。その結果、技術力と市場の需要の調和が取れた相乗効果が生まれている。
新しい工場施設の場所にドレスデンが選ばれたのは、いくつかの重要な考慮事項によって決定されたことだった。Kao氏によると、ドレスデンは欧州のマイクロエレクトロニクスの中心地として戦略的に位置付けられていて、欧州最大規模の最先端半導体工場がいくつかあるという。
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