訪れた「酸化ガリウム時代の幕開け」 FLOSFIA社長:2024年にSBDを本格量産へ(1/2 ページ)
FLOSFIAは、酸化ガリウム(α-Ga2O3)パワーデバイスの開発を手掛ける2011年創業の京都大学発ベンチャーだ。同社は2015年に、酸化ガリウムを使用したSBD(ショットキーバリアダイオード)を「GaO-SBD」というブランド名で製品化し、サンプル提供を開始した。それ以降、量産化に苦しんだものの、ようやく2024年に本格量産を開始するメドが立った。FLOSFIA社長の人羅俊実氏に現在の意気込みを聞いた。
酸化ガリウムで「半導体エコロジー」を目指す
――FLOSFIAの事業概要について教えてください。
人羅俊実氏 FLOSFIAは、「コランダム構造酸化ガリウム(α-Ga2O3)」の研究および同材料を応用したパワーデバイスを製造/販売する京都大学発のベンチャーだ。創業は2011年で、直近の事業収益は約3億円。独自の成膜技術「ミストドライ法」を活用した受託成膜なども行っている。
――FLOSFIAは、「半導体エコロジー」を提唱しています。これは、どのような考え方なのでしょうか。
人羅氏 「半導体エコロジー」は、半導体という最先端かつ微細な技術を通じて地球規模のエコロジーの実現を目指す取り組みだ。具体的には、エネルギーロス/プロセスロス/マテリアルロスの低減を目指している。
エネルギーロスの低減は、酸化ガリウムパワーデバイスを使うことで、電力変換時の損失を低減するというもの。電力変換ロスによって生じる電力は、生産された電力全体の10%以上に当たる。FLOSFIAの開発したGa2O3は、低損失化の材料ポテンシャルを示す「バリガ性能指数」においてシリコン(Si)に対し約6000倍以上の材料物性を示していて、エネルギーロス低減に貢献できる。プロセスロス低減の観点では、SiC(炭化ケイ素)の製造には1500〜2000℃の高温環境が必要な一方で、α-Ga2O3は500℃以下の環境で製造できる。さらに、ガリウムは、ボーキサイトからアルミニウムを抽出する際に副生成物として抽出されるが、現在は捨てられることが多いため、それを有効活用することでマテリアルロス低減にも貢献できる。
シリコンの代替材料として期待、弱点も「克服」
――酸化ガリウムは、どのような特長を持っているのでしょうか。
人羅氏 酸化ガリウムは、SiCやGaN(窒化ガリウム)よりもバンドギャップエネルギーが大きいなどの特長を持ち、低消費電力や高耐圧、小型化を実現する次世代パワーデバイスの材料として注目されている。シリコンとは異なる材料なので、シリコンパワー半導体不足が起きた際の安定製造/調達にも期待されている。
酸化ガリウムには、われわれが手掛けるα-Ga2O3とは異なる結晶構造を持つ「β-Ga2O3」も存在する。ただ、β-Ga2O3のパワーデバイスの場合は、β-Ga2O3のバルクウエハーそのものの開発から始める必要がある。そのため、市場に投入できる品質と価格のパワーデバイスを開発するためには、まずウエハーの品質向上とコスト低下を達成しなくてはならない。既にある程度の市場ができているSiCパワーデバイスですら、デバイスコストの4〜6割がウエハー(バルクウエハー)であることを考えると、今後もウエハーの値段を下げるのは簡単ではないと思われる。
それに対し、α-Ga2O3パワーデバイスは、既に実績のある技術で製造できるサファイア基板に成膜して製造できる。既存のウエハーを活用できるので、チップ開発のリスクやコストを低く抑えることができる。また、サファイア基板は、SiCウエハーの10分の1以下の価格で入手可能なため、低コスト化/量産化が可能だ。材料特性についても、β-Ga2O3より優れているといわれている。
――α-Ga2O3に課題はありますか。
人羅氏 従来法ではサファイア基板への成膜に技術的ハードルがあったが、FLOSFIAは、独自のミストドライ法の開発により、サファイア基板へのα-Ga2O3の成膜を可能にした。ミストドライ法とは、霧状にした原材料溶液と加熱部を用いて、酸化物薄膜を化学反応で作製する技術だ。京都大学の藤田静雄教授らの研究グループが開発した「ミストCVD法」をベースに、FLOSFIAが「高配向性」で「高純度」「量産可能」な成膜技術に進化させた。そのため、α-Ga2O3の弱点は、かなり克服できている。
当社は、α-Ga2O3を使用したSBD(ショットキーバリアダイオード)を「GaO SBD」というブランド名で製品化し、既にサンプル提供を開始している。量産開始は2024年を予定していて、2025年には自社工場でのフル生産を開始し月産で100万〜200万個の製造を見込んでいる。将来的には、ファウンドリーを活用し、生産能力を10倍に上げる予定だ。用途としては、民生機器や産業機器向けを想定している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.