検索
ニュース

縦型GaNパワー半導体のブレークスルーに、新技術の詳細と展望信越化が育ててOKIが剥がす(1/4 ページ)

省エネ化/低炭素社会のキーデバイスとして注目されるGaN(窒化ガリウム)を用いたパワー半導体。OKIと信越化学工業のタッグが、その本格的な普及のための課題解決につながる新技術を開発した。同技術の詳細や開発の経緯、今後の展望を聞いた。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

 省エネ化/低炭素社会のキーデバイスとして注目されるGaN(窒化ガリウム)を用いたパワー半導体。その本格的な普及のための課題解決を実現する新技術を、日本企業2社のタッグが実現した――。OKIと信越化学工業は、従来比9割減の低コストで「縦型GaN」パワーデバイスを実現することが可能となる新技術を開発。2023年10月5日、共同開催した記者会見で、その技術の詳細や開発の経緯、今後の展望を語った。

次世代パワー半導体市場の展望とGaNの課題

 富士経済が発表した「2023年版次世代パワーデバイス&パワエレ関連機器市場の現状と将来」によると、従来のシリコンパワー半導体の耐圧性や低損失性の限界を超えた次世代パワー半導体の世界市場は2035年、2022年比で31.1倍と大きく成長し、5兆4485億円に達する見込みだという。この次世代パワー半導体で現在実用化が進んでいるのが、SiC(炭化ケイ素)とGaNで、市場の拡大をけん引する車載分野では、高電圧/大電流に対応可能なSiCが主流となっていて、GaNはモバイルの急速充電器をはじめとした民生分野が中心となっている。

次世代パワー半導体の市場動向について[クリックで拡大] 出所:OKI/信越化学工業
次世代パワー半導体の市場動向について[クリックで拡大] 出所:OKI/信越化学工業

 GaNパワーデバイスで現在主流なのは、シリコンやサファイア基板上でGaNをヘテロエピタキシャル成長する、GaN on シリコンおよびGaN on サファイアデバイスだ。これらは比較的低コストでGaNの高周波特性を得られるものの、GaN層との間に絶縁性のバッファー層が必要となるほか、サファイアはそれ自体が絶縁体でもあることから、縦型導電ができず、高耐圧を求める場合には不向きだ。高電圧/大電流対応には、GaN基板上にGaN層を成長するGaN on GaNなど縦型導電が可能な「縦型GaN」が必要だが、現在GaNウエハーは高価かつサイズも2〜4インチ程度と小径であるなど、コスト面の課題がある。

GaNの普及課題について[クリックで拡大] 出所:OKI/信越化学工業
GaNの普及課題について[クリックで拡大] 出所:OKI/信越化学工業

 両社が開発した新技術は、信越化学が独自改良したGaN成長専用の複合材料基板「QST基板」上で成長した単結晶GaNを、OKIが開発した「CFB(Crystal Film Bonding)技術」によって剥離し、異種材料基板へ接合するというもの。これによって低コストでGaNの縦型導電とウエハーの大口径化を同時に実現でき、「社会実装可能な縦型GaNパワーデバイスの実現と普及に貢献する」としている。両社は2023年9月にこの技術を発表していたが、10月5日の会見では、両社の担当者がその詳細や今後の展望などを説明した。

信越化学のQST基板とは

 信越化学のQST基板については、同社の異種半導体基板推進室(HSSI)理事である、山田雅人氏がその特長やビジネスモデルなどについて説明した。

 QST基板は、GaNエピタキシャル成長専用に開発された複合材料基板で、信越化学は2019年に米Qromisからライセンスを取得。QST基板の販売および同基板上でエピタキシャル成長させた製品の提供サービスを手掛けている。

QST基板の概要[クリックで拡大] 出所:OKI/信越化学工業
QST基板の概要[クリックで拡大] 出所:OKI/信越化学工業

 QST基板は、GaNに熱膨張率係数をマッチさせたセラミック(アルミナイトライド主体)コアである「CTE matched core」を中心に、その周りに複数層の設計層(Engineered Layers)やBOX層(Buried OXide=埋め込み酸化膜)などをコーティング。さらに表面層にはGaNの種基板となるシリコン(111)結晶を貼り合わせた形で構成されている。厚みでみるとCTE matched coreが700μm程度と大部分を占めていて、その他は合計でも2μm程度の非常に薄い層になっている。

       | 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る