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多チャンネル光インターコネクトの光デバイス技術光伝送技術を知る(24) 光伝送技術の新しい潮流と動向(5)(1/3 ページ)

今回は、光インターコネクトの実現に向けた光デバイスについて、最新の研究開発動向をお伝えする。

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 AI(人工知能)/ML(機械学習)/HPC(高性能コンピューティング)の新しい潮流を推進するComposable Disaggregated SystemまたはMassive Node Compute Systemの実現に、光技術の寄与が期待されている。特にスーパーコンピュータと同等のNode数を有するシステムを経済的に設置、運用できるシステムの構築には、光インターコネクト技術が必要である。

 今回は、光インターコネクト実現に向けた光デバイスについて、学会発表を中心に紹介する。

 その前に一つ、注目すべきニュースがあったので、少し触れておきたい。2023年10月に、Intelが光トランシーバー事業をJabilに売却したことが明らかになった。

 このことは、Si-photonics技術のシフトが本格化することを意味するとみている。つまり、「Si-photonics 2.0」が本格化するということだ。以下に紹介するSi-photonics事例はいずれもSi-photonics 2.0へのヒントとなる研究開発の一部である。

 AI/ML/HPC光インターコネクト実用化に向けた多チャンネル化を見据えた場合、多アレイ高集積化技術が鍵であり、VCSELや半導体(SiやInP)光集積回路(PIC:Photonic Integrated Circuit)はステップアップが必要であると考えている。Intelの今回の動きにより、これに向けた研究開発が加速、活発化することを期待している。

高速シリアルデータ多チャンネル化と光インターコネクト

 新しい光インターコネクトの特徴は、高速シリアルデータの多チャンネル化だ。

 集積度(密度)の増大によって性能向上を目指す微細化ASICと、インタフェース高速化に適したチップレットを同じパッケージに搭載できるSystem-in-Package(SiP)により、今後もxPU(CPU、GPU、TPUなど)の処理能力向上が追求される。ASICの動作クロック周波数が飽和している中、性能向上に則したインタフェースは高速シリアルである。実際、SiP内のチップレット間インタフェースを標準化したUCIe(Universal Chiplet Interface Express)も、シリアル信号を採用している[1]。また、先行したOpen Compute Project(OCP)のBunch of Wire(BoW)でも、シリアル信号が定義されている[2]。そのシリアル信号は16本と多チャンネル並列であり、UCIeでは64本にまで拡張されている。

 シリアル信号は、PCIe 5.0と同じ32Gbit/sで(BoWではBoW-512)、それに向けた開発が既に始まっている[3]。将来はCXL(Compute Express Link)同様、PCIe 6.0の64Gbit/s、PCIe 7.0の128Gbit/sと高速化されることが予測される。

[1]“Universal Chiplet Interconnect Express (UCIe) Specification,” Revision 1.0, February 24, 2022
[2]"Bunch of Wires (BoW) PHY Specification," DRAFT Version 2.0, March 1st, 2023
[3]K. Seong et al., "A 4nm 32Gb/s 8Tb/s/mm Die-to-Die Chiplet Using NRZ Single-Ended Transceiver with Equalization Schemes And Training Techniques," 2023 IEEE ISSCC 6.4

 さて、新しい光インターコネクトに要求される多チャンネル化はどう実現されるだろうか。最も単純な方式は、チャネル数と同じだけファイバを使用することである。

 図1は、Intelの16チャネルのPICのレイアウト図である[4]。レイアウト図で示すのは、実際のチップ写真では導波路などが見えにくいからだ。


図1 16チャネルSi-photonicsチップの例[4]

 図の「V-groove」で示されるエリアがファイバアレイの接続部で、そのピッチはファイバアレイに合わせて250μmであると考えられる。そして、変調器(Micro-ring Resonator: MRR、後述)、モード変換素子(Mode conv)などがそのピッチに合わせて設計され、冗長を持った32個のレーザーエリアも、その幅の内側に配置されていることが分かる。光インターコネクトにおいて重要なパラメーターであるShoreline (Beach front) Density、Gbit/mmを最小化する設計となっている。

 チップの幅を広げないよう、電極パッドは周辺ではなく内部に配置され、フリップチップやピギーバック実装が推測される。高速Electronic IC(EIC)をPICのチップと接合する変調器の周辺は小さいパッド、高電流のレーザーの制御用は大きなパッドになっているなど、工夫がみられる。V-grooveのピッチを250μmと仮定すると、チップ幅は5mm程度と推測できる。Txだけではあるが、Shoreline Densityは100Gbit/s×16÷5mm = 320Gbit/s/mmとなる。

[4]R. Blum, "High Volume Silicon Photonics for Optical I/O and other Next Generation Applications," EPIC World Photonics Technology Summit, January 24th, 2022

 このように、高速性や伝送距離だけでなく、軽量で高速同軸細線(例えば1.27mm)の数分の一であるファイバアレイピッチを生かすことが、光インターコネクトの特長にもなる。シャシ内の引き回し(Fiber Routing)にも有利である。

 一般的なファイバアレイは、公衆通信網応用に開発された250μmピッチの12心ファイバアレイを基本とし、それに対応したMPOコネクターが標準である。このため、2のべき乗でシステムが構成されるコンピュータ応用との整合性が悪く、12心のうち8心を使用するなどの対応が取られてきた。

 これに対し、最近、16心ファイバアレイと、それを一括接続する光コネクター[5]が開発された。また、配線密度を上げるため、ファイバアレイピッチを狭くする提案も多くある。ファイバのコアとクラッド径を現行のまま、ファイバコーティングを薄くしたピッチを200μmにするファイバアレイも開発されている[6]。さらに、それに対応したと思われる16心ファイバアレイを一括接続する小型な光コネクター[7]も登場した。コアやクラッドの径を小さくしたファイバやファイバアレイも、提案されている[6]。既に大量に敷設されているファイバや光コネクターとの整合性などもあり、新しいファイバの導入は慎重な検討が必要である。しかし、Backend Networkという新分野での適用は早いかもしれない。

[5]参考:https://www.usconec.com/media/1210/mtp-16_connector_handout.pdf
[6]K.Clayton, et al, "Addressing the Optical Infrastructure Challenges of Tomorrow’s Modern Data Center," BICSI 2020 Fall
[7]参考:https://www.senko.com/wp-content/uploads/2021/09/SN-MT-Connector_Flyer.pdf

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