FM〜セルラー帯を1個でカバー、TDKが新ノイズフィルターを開発:新開発の材料で音声ひずみを大幅低減
TDKが、スマートフォンなどのオーディオライン向けの積層ノイズサプレッションフィルターを開発した。新開発の低ひずみフェライト材料を採用したことで、音声ひずみを大幅に低減。同時に広帯域対応も実現し、FM帯およびセルラー帯のノイズ対策を1個で可能となったという。
TDKが、スマートフォンなどのオーディオライン向けの積層ノイズサプレッションフィルター新製品「MAF1005FRシリーズ」を開発した。新開発の低ひずみフェライト材料を採用したことで、音声ひずみを大幅に低減。同時に広帯域対応も実現し、FM帯およびセルラー帯のノイズ対策を1個で可能となったという。従来品では、ノイズサプレッションフィルターを2個用いる必要があった。2023年11月から量産を開始している。
ノイズ除去と音声ひずみの抑制に加え、広帯域対応も実現
スマートフォンなどのオーディオラインからは、電磁ノイズが放射されている。このノイズは内蔵アンテナに干渉しスマートフォンの受信感度を低下させることになるため対策が必要となる。
この対策には一般的にはチップビーズが使用されるが、チップビーズはノイズ抑制に効果的な一方、オーディオラインで最も重要な音声を劣化させてしまうという問題を抱えている。TDKはこの課題解決に向け、高いノイズ除去特性を維持と音声ひずみの抑制を両立するフェライト材を独自開発し、スマートフォンなどのオーディオラインのノイズ対策に特化したサプレッションフィルターである「MAFシリーズ」を展開してきた。
ただ、従来のMAFシリーズは、66M〜108MHzのFM帯または、700M〜2.7GHzのセルラー帯それぞれに特化した製品はあったものの、この両方の周波数帯域をカバーするためには、ノイズサプレッションフィルターを2個使用する必要があった。そこでTDKは今回、材料にさらなる改良を加え、全体の透磁率を引き上げることで広帯域での高インピーダンス化を実現。FM帯とセルラー帯の両方(66M〜2.7GHz)を1個でカバーする製品としてMAF1005FRシリーズを開発したとしている。
下図は、ヘッドフォンのオーディオラインにおいて従来のMAFシリーズを用いた場合と、MAF1005FRシリーズを用いた場合の比較だ。FM帯およびセルラー帯対応のMAFシリーズを用いた場合、各ライン(ヘッドフォンなので左右2つのラインがある)に2個のチップが必要となり、全体の抵抗値も上がってしまう。また、FM帯用のMAFシリーズとキャパシターを組み合わせグランドにつなぐパターンもあるが、こちらもそれぞれ2個のチップが必要になるほか、フレキシブルケーブルで使用する場合は、効果が不安定になる。MAF1005FRシリーズを用いた場合、これらのデメリットはなく、それぞれチップ1個で対応が可能になるとしている。
インピーダンスが100MHz時に1000Ω(基準値)、900MHz時に2600Ω(基準値)、直流抵抗が最大1.65Ω、定格電流が240mAのMAF1005FRシリーズ(MAF1005FRQ102A)と既存品(FM帯用、セルラー帯用のMAFシリーズおよび、チップビーズ)を比較したのが下図だ。
MAF1005FRシリーズは、広帯域で高いインピーダンスを実現している。また、対出力THD+N(全高調波ひずみ率+雑音)特性を比較したグラフ(図内右。周波数1kHz、負荷RL=32Ωで測定)をみると、MAF1005FRシリーズは、出力が10mWの時にTHD+Nが103dBとなっていて、チップビーズに対し音声ひずみを大きく改善していることが分かる。
MAF1005FRシリーズは、インピーダンスや直流抵抗などが異なる計3種類をラインアップしている。サイズは1mm×0.5mm×0.5mm、動作温度範囲は−55〜+125℃、サンプル価格は1個30円だ。既に量産を開始していて、当初は月産3000万個を予定している。
また、TDKは、スピーカーなどの出力が大きな製品に向けた大電流対応や、小型化および900M〜5GHzまでの高周波帯域への対応に向けた開発も進めていく方針だ。
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