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パワーデバイスは対象になる? ならない? ―― 米国の対中規制のこれまでと今後大山聡の業界スコープ(74)(1/2 ページ)

今回は、米国による中国に対する規制(対中規制)について、これまでの経緯を踏まえながら、実際に行われている内容を整理し、今後の見通しについて考えてみたい。

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 「米国による中国に対する規制はどこまで広がりそうか」という質問を受ける機会が増えているような気がする。対中規制は、緩和されるよりも強化される可能性が高そうだ。そして、エレクトロニクス業界に関与する立場である以上、無視できない問題でもある。ただ、筆者と全く違う考え方を持つ方も多く、業界内でも多くの混乱が生じているようにも見える。今回は、これまでの経緯を踏まえながら、実際に行われている規制の内容を整理し、今後の見通しについて考えてみたい。

対中規制の経緯

 米国の対中規制について、業界内で考え方が混乱しているのではないかと筆者が感じたのは、「パワーデバイスも対中規制の対象になるのではないか」という問い合わせを受けたことがきっかけである。筆者としては「そんなことはあり得ない」と考えているのだが、米国による対中規制が強化されそうな動向を見て、パワーデバイスも対象になり得るのではないか、と考える方が増えているように思える。筆者は政治関連の専門家ではないので、正直なところ「自分の意見が絶対に正しい」と断言するわけにはいかない。ただ、そもそも米国による対中規制は、なぜ始まったのか、米国は何を警戒して規制を強化しているのか、という点に着目すると、考え方を整理することができる。

 米国による対中規制が強化されたのは、2018年にオーストラリアで「自国の5G第5世代移動通信(5G)網がサイバー攻撃の対象になった場合、極めて無防備な状態になる」という報告がなされたことがきっかけだ。この報告は、米国と英国、カナダ、ニュージーランドに共有された。米国政府は「中国Huaweiがスマホで米Appleを上回る販売実績を持ち、基地局でフィンランドNokiaとトップシェアを争う実績を持つこと」や「過去に米国でHuaweiがスパイ行為を働いたことがある」といった理由から、Huawei製品を購入しないように同盟国に呼びかけた。翌2019年5月には、Huaweiを貿易上の取引制限リスト(エンティティリスト、EL)に掲載し、その後も少しずつ規制を強化していった。中国には国家情報法という法律があり、「全ての中国企業は、国家が要請すればあらゆる情報提供の義務を負う」とされている。仮にHuaweiの5G基地局にシステムへの侵入口となるバックドアが仕込まれていた場合、Huawei製基地局が世界に普及すると、あらゆる情報が中国政府に筒抜けになる恐れがある。Huaweiが中国軍部と密接な関係にあることを鑑みれば、Huaweiに5G基地局を作らせるわけにはいかない。そう考えた米国政府は米国輸出管理改革法(ECRA)を制定し、規制に抵触した企業は米国公共事業への入札ができなくなるという罰則を設けた。

 5G機器の製造には最先端のロジック半導体、少なくとも7nmレベルの半導体製造プロセスが必要となる。そこで米国政府はアリゾナに誘致した台湾のTSMCに対してHuaweiからの製造委託を受けないよう規制をかけた。HuaweiがTSMCの代わりに製造委託するだろう中国のファウンドリーであるSMICもELに掲載し、SMICへのEUV露光装置の販売を禁止することで、SMICが7nmレベルの半導体製造を実現できないようにしたのである。

 米国政府としては、すでに段階的に対中規制を強化してきており、DUV露光装置およびその関連技術や材料、最先端メモリ製造、さらにはある一定の機能を持ったプロセッサ(特にAIに活用可能なGPU)デバイスの対中輸出も規制対象に加えている。規制の対象は5Gインフラだけにとどまらず、ITインフラ全体を対象にした、と考えるべきだろう。

 しかし周知の通り、SMICはすでに保有しているDUV露光装置を駆使して7nmプロセスを実現し、Huaweiはこれを活用して5Gスマホの製品化に成功した。5Gスマホが作れるということは、5G基地局も作れると考えるべきだろう。しかもSMICは7nmにとどまることなく5nmプロセスを実現する可能性もあるという。AIプロセッサについても、中国内での開発が進んでいるようである。米国にしてみれば、今までの規制では不十分だったとして、今後対中規制をさらに強化することは十分に考えられることである。一方の中国は、半導体製造技術やAI技術を国内で育成する戦略を強化することになるだろう。

 以上が米国による対中規制の経緯である。

警戒するのは「5G、AIといった最先端の技術」

 米国が中国に対して警戒しているのは、5G、AIといった最先端の技術であり、これらを中国に牛耳られてはならない、必要なら規制の強化も辞さない、というのが米国政府に対する筆者の認識である。何でもかんでも規制の対象に加えよう、そのうちパワーデバイスも規制の対象になるのでは、などという無節操な方針とは思えないのである。

 参考までに、欧州の半導体関連企業の動向を見てみよう。EUVに加えてDUV露光装置も対中輸出禁止、といわれて影響を受けるのはオランダのASMLである。しかし筆者が知る限り、ASMLが米国政府に対して規制の苦言を呈した、という話は聞いていない。ASMLの本心までは確認していないが、少なくとも表向きは米国政府の意向に忠実に従っているようである。ASMLの重要顧客であるTSMCがアリゾナに巨大工場を建てることで、中国向けのマイナス分を帳消しにできる、などと計算しているのかもしれない。

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