SiCへの移行は加速するのか? コストと持続可能性への疑問:開発プロジェクトを中止したメーカーも(1/2 ページ)
アジア太平洋経済協力会議(APEC)のカンファレンスプログラムにて、WolfspeedのCEO(最高経営責任者)であるGregg Lowe氏が「SiC(炭化ケイ素)への移行は止められない」と語った。一方、Power Integrationsの会長兼CEOであるBalu Balakrishnan氏は「SiCがSi(シリコン)ほど高い費用対効果を実現することはない」と異議を唱えた。
アジア太平洋経済協力会議(APEC)が2024年2月25〜29日、米国カリフォルニア州ロングビーチにて開催された。カンファレンスプログラムの目玉となったのは、WolfspeedのCEO(最高経営責任者)であるGregg Lowe氏の講演だった。業界唯一の垂直統合型SiC(炭化ケイ素)パワーデバイスメーカーのリーダーで、パワーエレクトロニクス技術の推進者である同氏は、期待を裏切らなかった。
Lowe氏は、「The Drive for Silicon Carbide - A Look Back and the Road Ahead(SiCの推進力 これまでの道のりと展望)- APEC 2024)」と題した講演の中で、「SiC市場は現在、重要な転換点にある。これは、米国が40年間にわたり取り組んできた創意工夫の物語だ。Si(シリコン)からSiCへの移行は止められないと言って間違いないだろう」と述べた。Lowe氏はAPEC 2024の参加者たちに向けて、「SiCの需要は爆発的に増加していて、アプリケーションの数も同様に増大している」と指摘し、「このような技術移行によって、長きにわたるビジネス機会が生み出される。SiCに関して、私たちは今そうした状況の中にいるのだ」と語った。
SiCは「Siほど高い費用対効果を実現することはない」?
しかし、SiCパワーデバイスへの移行を確実視する考えには反論もある。Lowe氏の講演の直前には、Power Integrationsの会長兼CEOであるBalu Balakrishnan氏が「Innovating for Sustainability and Profitability(持続可能性/収益性の実現に向けたイノベーション)」と題した講演を行い、その中でSiC技術の実現可能性について疑問を呈していた。
Balakrishnan氏は、Power Integrationsが15年前にSiCへの膨大な投資を開始し、技術開発に6500万米ドルを投じたことについて説明した。そして「ある時計算してみて、SiC製品の製造に必要なエネルギー量とコストがSiをはるかに上回っていることから、これはうまくいかないだろうと気が付いた」(同氏)という。
また同氏は、「SiCは性能が優れているが、Siほど高い費用対効果を実現することはないだろう。SiCは高温材料で膨大な量のエネルギーを必要とするうえ、高温に対応した高価な装置が必要になる」と付け加えた。
Power Integrationsはこの翌日、SiCの開発プロジェクトを取りやめ、6500万米ドルを無駄に終わらせることになった。Balakrishnan氏は、「SiCの開発を中止する決断を下したのは、技術的な理由ではなく、持続可能性と費用対効果が見込めないと判断したからだ。対してGaNはSiと同程度の温度で動作し、製造装置もほぼ同じものを使用できる。われわれはGaN開発に切り替え、その取り組みを強化することにした」と語った。
ただしPower Integrationsは、現在もSiC製品を提供している。Balakrishnan氏は、SiCはGaNよりも早く研究開発が始まったためより技術が成熟していて、より高い電圧と電力レベルを実現できると認めている。
Balakrishnan氏は、「現在、SiCが非常に魅力的とされるアプリケーションもあるが、GaNも将来的にはそこに到達するだろう。基本的に、GaNの電圧や電力レベルをさらに高めていくことは何も間違っていない」と語り、Power Integrationsは既に発表した1200VのGaNパワーデバイスに続き、近々さらに高電圧のGaNデバイスを発表する予定だと説明した。
同氏は、「解決すべき問題があるということは認識している。そこに必要なのは、技術のブレークスルーではなく研究開発努力だ。GaNは、SiCに対して非常に優れた競争力を持ちながら、はるかに低いコストで製造できるようになるだろう」と語る。
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