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月面で作る蓄熱材、原材料の98%を「現地調達」「月の砂」を活用(1/3 ページ)

レゾナックは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、「月の砂」を利用した月面での蓄熱/熱利用システムに関する研究を行っている。現状、原材料の98%を“現地調達”できる見込みだ。

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 レゾナックは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、月の砂(レゴリス)を活用した月面での蓄熱/熱利用システムの開発に取り組んでいる。

 月面では、昼の気温は100℃、夜は−170℃と気温差が大きい上に、昼夜が2週間ごとに入れ替わる。太陽光発電などによるエネルギー創出ができない期間が長く続くため、有人活動を行うためには、安定的にエネルギーを確保する手段を開発する必要がある。

 レゴリスは、月面に大量に存在するガラス質の微小粒子であり、さまざまな企業/研究機関でレゴリスを活用したエネルギー確保手法の研究が行われている。しかし、レゴリスの粒子間の隙間は真空で熱が伝わらないため、まとまった量のレゴリスとして熱伝導率や比熱を大きくしたり、蓄熱した熱をレゴリスから取り出すことができるシステムを構築する必要がある。

 従来の研究では、レゴリスの蓄熱性を改善する手法として、レーザー溶融によるガラス固形化などが考えられてきた。しかし、レーザーの運搬や、溶融時に多大なエネルギーが必要であるという課題があった。

 レゾナックは今回、レゴリスに同社製の樹脂をコーティング(以下、樹脂コーティングレゴリス)することで、レゴリス全体の熱伝導率や比熱を向上させることに成功した。コーティング手法には、レゴリスの表面にポリアミドイミド(PAI)などの樹脂層をコーティングした後に締め固める「レジンコーテッドサンド技術(RCS)」を用いた。今回の提案手法は、スクリュー混練のみでコーティング可能なため、レゴリスを使った蓄熱材を月面で効率的かつ低コスト、低エネルギーで大量製造できる。レゾナック 計算情報科学研究センター MI基盤開発グループ プロフェッショナル 清水陽平氏によると、「地球から持っていく材料は、重量ベースで全体の2%程度であり、98%を月面で調達できる」という。

樹脂とレゴリスの複合モデル(左)と樹脂でコーティングし、締め固めたレゴリスの断面(構造X線CT分析)(右)
樹脂とレゴリスの複合モデル(左)と樹脂でコーティングし、締め固めたレゴリスの断面(構造X線CT分析)(右)[クリックで拡大] 出所:レゾナック

 製造した蓄熱材は、月面に多数設置し、蓄熱した熱を熱電素子で電気に変換して使用するイメージだ。同氏は、蓄熱材の活用について「電気の方が熱よりも汎用性が高いため、現状は熱電変換を前提に考えている。しかし、熱電変換時にエネルギーロスが生まれてしまうため、場合によっては熱のまま活用する方針も検討していく」とコメントした。

 今回の開発プロジェクトは、JAXAが募集した「太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・領域拡大に向けたオープンイノベーション」に関する研究提案に対して、レゾナックが「月の砂を利用した月面での蓄熱/熱利用システムに関する研究」を提案し、2024年3月に採択されたものだ。同年4月からJAXAと共同研究を開発している。共同研究期間は最長で1年を予定している。

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