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「欧州半導体法」で主導権争いに加わるEU 世界シェア20%を目指す工場建設も続々(1/4 ページ)

EUは「欧州半導体法」を制定し、半導体業界における競争力とレジリエンス強化を目指している。同法に基づいて430億ユーロの資金が調達される予定で、既に複数の工場や研究開発施設の建設プロジェクトが進行している。

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 現在の成長分野である電動車(xEV)や、自動運転、AI(人工知能)、クラウドコンピューティング、宇宙、再生可能エネルギー、スーパーコンピュータ、コネクティビティ、防衛などは全て、半導体に依存し、性能向上のための継続的な取り組みを頼みの綱にしている。世界最大の経済大国である米国が、国内の新しいパイロットラインや工場に多額の投資を行うのも当然のことだ。多くの国々が、半導体工場の地理的分布の偏りによる格差に対応すべく、現地の半導体設計/製造を支援するための「半導体法」の可決や、景気刺激策を講じている。世界経済の基盤になっている微妙なバランスは、地政学的な要因や市場の混乱、輸出規制、貿易摩擦などによって崩れる恐れがあるため、半導体分野で主導権を握ることがますます重要になってきている。

半導体世界シェア9%の欧州 20%に引き上げを目指す

 欧州は半導体製造で主導権を握るための戦略を練るに当たり、こうした複雑なメカニズムを明確に理解しているようだ。

 WSTS(世界半導体市場統計)は2024年6月に、世界半導体市場予測を修正し、この先数年間で大きな成長が見込まれるとのシナリオ概要を示した。半導体市場は2024年に、前年比16%増となる6110億米ドル規模に達する見込みだという。この成長は主に、メモリ(2023年比76.8%増)とロジック(同10.7%増)の2分野によってけん引される。一方、ディスクリートやオプトエレクトロニクス、センサー、アナログ半導体の分野は、数パーセントの減少が予測されているという。さらに、半導体市場全体は年平均成長率(CAGR)12.4%で成長し、2025年には6870億米ドルに達する見込みだ。下表は、WSTSの地域/製品カテゴリー別の市場予測を示している。

地域/製品カテゴリー別の半導体市場予測
地域/製品カテゴリー別の半導体市場予測[クリックで拡大] 出所:WSTS

 世界半導体製造市場に占める欧州の割合は、1990年には44%だったが、現在では9%まで大幅に減少している。「欧州半導体法(European Chips Act)」では、2030年までに世界半導体業界における欧州のシェアを20%まで引き上げることを目指す。

 それに対して台湾は現在、ファブ市場全体の60%のシェアを有し、世界最先端の半導体チップの約90%を製造している。これらのチップは、主にAIや量子コンピューティング用途で使われる。TSMCは、Appleのカスタムチップを製造していて、AppleのほかNVIDIA、QualcommなどのメーカーにCPU/GPUを提供している。TSMCは製造拠点の大半を台湾域内(新竹/台南/台中/龍潭)に置いているが、中国や日本、米国にも工場を保有している。

 韓国では主に、メモリチップとLEDが製造されている。Samsung ElectronicsとSK hynixの2社で、世界のDRAMの約70%を供給している。

 日本は、世界クラスの半導体製造国であることに加え、ウエハー製造装置の主要サプライヤーでもあり、その世界シェアは約30%だ。世界の半導体生産能力に占める米国の割合は、投資不足のために1990年の37%から約12%まで減少しているものの、米国市場が世界市場価値全体に占める割合は27%を超える。

 中国の世界シェアは約10%だが、中国政府は2030年までに25%まで拡大すべく、最大限の努力を行っているところだ。

欧州半導体法で430億ユーロの資金を調達

 2023年9月に制定された欧州半導体法の目的は、半導体技術および関連アプリケーションの分野における欧州の競争力とレジリエンスを強化することだ。同法は、半導体分野における欧州の立ち位置を確立し、欧州の半導体主権獲得を実現することを目指す。

 欧州は同法に基づき、430億ユーロ以上の公的/民間資金を調達する予定だ。この計画によって戦略的独立性を実現することで、欧州諸国と関係国は、欧州の主要産業をサプライチェーンリスクから守ることができる。

 欧州半導体法は、3つの柱で構成される。1つ目は、集積技術の設計能力を強化するためのインフラだ。同法によって欧州の設計能力が強化され、パイロットラインがサポートを受けられる。さらに、量子チップの導入を加速させ、地域人材のスキルを向上させるコンピテンスセンターのネットワークを支援する。スタートアップが補助金を獲得し、投資家たちにアピールできるようにすることで、新しいアイデアを推進していく。

 2つ目は製造工場への官民投資を誘致するためのフレームワークだ。投資イニシアチブを重要視することは、欧州半導体法の優先事項ともいえる。

 3つ目は、欧州半導体評議会(European Semiconductor Board)が仲介するEUと加盟国、利害関係者との間の調整プラットフォームだ。企業各社から重要な情報を収集し、半導体バリューチェーンを監視することで、弱点や構造的脆弱性を特定して対処可能にすることを目指す。このプラットフォームは、さまざまな関係者による危機評価と迅速な対応のための専用ツールボックスを提供する。

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