「欧州半導体法」で主導権争いに加わるEU 世界シェア20%を目指す:工場建設も続々(4/4 ページ)
EUは「欧州半導体法」を制定し、半導体業界における競争力とレジリエンス強化を目指している。同法に基づいて430億ユーロの資金が調達される予定で、既に複数の工場や研究開発施設の建設プロジェクトが進行している。
Infineon、Intelも工場建設を計画
これらのパイロットラインプロジェクト以外にも、Infineonはすでに、ドイツのドレスデンにあるスマートパワー工場の最終建設段階に着手する承認を受けている。同社は2023年5月に同工場に着工し、2026年に製造を開始する予定だという。Infineonによると、同社は総額約54億米ドルを投資し、欧州半導体法に基づき約10億米ドルの資金提供を受ける予定だという。ドレスデン工場では、パワーチップやアナログ/ミックスドシグナルコンポーネントなど、自動車や再生可能エネルギー産業で使用される半導体を製造する。
ドイツでは、IntelとTSMCの製造拠点建設計画が進行している。TSMCは2023年の夏、Infineon、Bosch、NXP Semiconductorsとの合弁会社であるEuropean Semiconductor Manufacturing(ESMC)を設立するために、34億7000万ユーロの投資を承認した。TSMCが70%を負担し、残りの30%はパートナー3社が出資する。生産開始は2027年の予定で、工場稼働時の目標生産能力は300mmウエハー換算で月産4万枚だという。投資総額は100億ユーロで、株式、負債、欧州半導体法に基づくEUとドイツ政府からの補助金が含まれる。同工場はドレスデンに建設予定だ。ドレスデンでは既に複数の半導体企業が事業を展開している。
Intelは、300億ユーロ超を投じ、ドイツ・ザクセン=アンハルト州マクデブルクに2つの半導体工場を新設する計画を発表している。これは、外国企業によるドイツでの過去最大の投資となる。同計画には、ドイツ政府が支援することを合意している。IntelのCEO(最高経営責任者)を務めるPat Gelsinger氏は新工場は、欧州で最も先進的な半導体製造施設になるだけでなく、「1.5nmレベル」のチップを生産する能力を備えた世界最先端の工場にもなると説明していた。なお、Intelは2024年9月16日、同工場の計画について、市場の需要予測に基づき約2年間保留すると発表した。
欧州半導体法の取り組みに共通するのは、欧州の製造拠点や研究センターで既に確立されているコアコンピタンスを活用することだ。しかし、課題も残っている。欧州の人件費は台湾を上回るため、より高度な自動化が必要となる可能性がある。最先端の工場では高度な技術を持つ人材が必要となるため、人材確保や育成のためのプロジェクトも求められる。
ECは、欧州が主要産業で重要な位置につかなければ、安定した経済成長と市民の福祉を確保することは難しいと考えている。製造業を支えるのは半導体であり、それをコントロールの及ばない外部要因や競争から守るためには、その設計と製造をEU域内で行う必要がある。欧州半導体法は既に成果を上げ始めているが、欧州の半導体製造を長期的に存続させるためには、まだやるべきことがある。
【翻訳:田中留美/滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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