IDMは限界なのか 重要な局面迎える半導体業界:地政学リスクの存在も(1/2 ページ)
半導体業界は重要な局面を迎えつつあるのかもしれない。Intelの経営危機や、Armの独自チップ開発報道などは、半導体サプライチェーンや業界のパワーバランスに影響を及ぼすことが予想される。
半導体業界では現在、Intelが分裂してBroadcomやTSMCへ売却される可能性や、半導体メーカーとしてのArmの台頭、地政学的緊張の高まりなど、劇的な変動の時期にある。こうした激しい変化は、半導体サプライチェーンや、業界内のパワーバランス、未来の技術イノベーションなど、広範にわたる影響を及ぼすことになるだろう。
半導体市場のパイオニアであり、かつてはリーダー的存在だったIntelは重大な困難に直面している。製造における失敗や競争の激化などから、TSMCやBroadcomなどが買収に関心を示すようになった。この件に詳しい情報筋によると、Broadcomは現在、Intelの半導体設計/マーケティング事業について綿密に調査しているという。またTSMCも、投資家コンソーシアムの一部としてIntel工場の経営権を取得することを検討しているようだ。
報道によると、Intelの暫定会長であるFrank Yeary氏は、Intel株主の価値を最優先して売却候補先との間で話し合いを主導してきたという。TSMCやBroadcomによるIntel買収の可能性は、半導体業界が製造、設計に特化する方向へと移行している状況に合致するといえる。
Intel株が2025年2月25日に16%も急騰したことを受け、投資家たちはこの2つの取引の可能性に胸を躍らせた。株価は同週の後半には下落したが、1週間で5.3%の上昇を記録している。
設計と製造はますます「特化型」に
バルセロナスーパーコンピューティングセンター(BSC:Barcelona Supercomputing Center)のディレクターであるMateo Valero氏は、米国EE Timesのインタビューの中で「Intelはこれまで、独自チップの設計/製造を手掛けてきた。現在では、最先端のロジック半導体に限っていえば、設計を手掛け、かつ自社の半導体工場を保有しているのはSamsung ElectronicsとIntelだけだ。それ以外はファブレスで、TSMCのような優れた技術を持つファウンドリーに依存している。またGlobalFoundries(AMDの半導体製造部門が分離独立)は、自動車業界向けの大型トランジスタに注力していることから、大きく後れを取っている。重要な鍵となるのは『誰がハイテクファウンドリーを所有するのか』という点だ」と述べる。
半導体サプライチェーンが複雑化し、国際的に統合される傾向が、ますます顕著になってきている。「Chip War: The Fight for the World’s Most Critical Technology(半導体戦争:世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防)」の著者であるChris Miller氏は、ArmのCEOであるRene Haas氏との対談談の中で「かつて米国の半導体業界は垂直統合型だったが、技術が複雑化するに伴い、1つの企業が全ての分野に特化することは不可能になった」と述べている。
Miller氏は「国際的に統合されたサプライチェーンを確保することで、資本コストを分散させ、グローバルな人材にアクセスできるようになる。単純に『管理が難しくなるからグローバル化を進めない方が良かった』と考えるのは簡単だ。そのような感情も理解できるが、もし国境にとらわれたままだったら、数々の技術進展が失われていただろう」と述べている。
しかし、グローバル化によって脆弱性も生じている。米国政府は、国内の半導体製造を推進し、中国への技術移転を制限しようとしている。TSMCによるIntel買収の可能性は、半導体業界に対する米国政府の手法について疑問を呈しているといえる。
TSMCがIntel工場の経営権を握るという取引きには、米国政府の承認が必要だ。2022年に策定された米CHIPS法(CHIPS and Science Act)では、国内の半導体製造のために530億米ドルを助成するプログラムを設立しており、Intelはその重要な受益者となっている。
Valero氏は、ハイテクファウンドリーを所有することの戦略的重要性を強調する。同氏は、米国政府の台湾に対する最大の関心事はTSMCであるとして「米国政府が台湾に関心を示す唯一の理由が、TSMCだ」と述べている。
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