VUCA時代の生存戦略 「サプライチェーン担当」が鍵に:Gartnerイベント(1/2 ページ)
予測不能な混沌とした時代において、業界のCEOたちが頼りにするのは「サプライチェーンの責任者」だという。米国の関税政策など、不確実性に左右されることが増える中、企業が生き抜く上でサプライチェーンの重要性がますます高まっている。
Gartnerのサステナビリティチーム担当ディレクターアナリストであるLindsay Azim氏は、スペイン バルセロナで2025年5月19〜21日に開催された「Gartner Supply Chain Symposium/Xpo」において、「Turning Divergence into Supply Chain Advantage(分岐をサプライチェーンの強みに変える)」と題する基調講演に登壇し、「現在の環境は、単なる混乱の時期ではなく、根本的な世代交代の時期だといえる。私はこれを、“分岐(ダイバージェンス)”と呼んでいる」と語った。
この分岐は、AIの影響や、地政学的な緊張の高まり、経済的な不確実性といった、制御不可能なマクロトレンドなどによって引き起こされており、そのために世界的な不確実性がピーク水準に達している。
Azim氏は「われわれは、極めて予測不可能な世界で活動しており、こうした傾向により複数の方向へと引っ張られている」と説明する。
分岐は、例えばコイントスで裏か表を出すような、予測可能な二者択一の結果による単純な混乱とは異なり、“長い時間をかけて起こり得る無数の結果”を生み出し、これまで信頼されてきた経営上の想定に挑戦することになる。
このような混沌とした状況にもかかわらず、CEOたちはますますサプライチェーンリーダー(サプライチェーンの責任者、専門家)に注目するようになっている。全体の75%が、サプライチェーンの混乱はビジネス上の重大なリスクであるとみなし、レジリエンスを実現する上での最も重要な戦略としてサプライチェーンの専門家を挙げているという。その課題とチャンスは、制御可能な範囲の中に何が残っているかという点に注目することにある。
Azim氏は、サプライチェーンリーダーがこの分岐した世界で生き残り、成功を収めていくための主要戦略として、「Navigate(かじ取り)」「Orchestrate(調整)」「Accelerate(加速)」の3つを挙げ、以下のように説明している。
1つ目の戦略である「Navigate」は、深い洞察と先見の明により、今日の企業を取り巻いく“情報の騒音”を切り抜けていくということだ。Azim氏は、経済学者であるRichard Thaler氏の言葉を引用し「騒音は、選択肢を検討する能力を混乱させるため、不合理な選択につながる可能性がある」と指摘した。
データの可視化とシナリオプランニングが重要に
インパクトの大きい2つの戦略として注目を集めたのが「データ可視性の最優先」と「シナリオプランニングへの投資」だ。Azim氏は「可視性は最も重要な能力だと考えられているが、Gartnerの調査によると、技術主導のイニシアチブの中では最後になる場合が多い。こうした傾向は変えていく必要がある」と強調する。
高度な可視性への投資は、リアルタイムで起きている出来事をつなげ、詳細な情報を得た上で意思決定を行う上で非常に重要だ。そのためには、顧客やサプライヤー、物流業務など全体のリアルタイムデータが必要となる。
エージェントAIのような最新のツールは、データノイズをふるいにかけ、監修された洞察を“デジタルドライバー”(技術と人間による制御とを効果的に組み合わせて優れた意思決定を行う個人)に提供する。その例として、Extronが予測/計画の向上を実現したことの他、Amgenが高度な解析を用いてデータ検証時間を数週間短縮したことなどが挙げられる。
シナリオプランニングは、リスクを予測するための重要な洞察を提供する。サプライチェーンリーダー全体の88%が、特に地政学的なリスクに対してプラスの効果があることを認識しているにもかかわらず、それを自社の戦略に完全に組み込んでいる企業はわずか19%にとどまるという。
分岐における効果的なプランニングとは、1つのシナリオから範囲ベースのシナリオへと移行し、不確実性を組み込んで、柔軟な“ガードレール”の中で取り組むということを意味する。
また、想定に挑戦して過去の意思決定から学び、チームに間違いを許すことも必要だ。リスク誘発要因をあらかじめ定義することが極めて重要であり、基準値に達した時にそれが“行動するための許可証”の役割を果たす。
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