RISC-V移行の流れ、欧州では「もう止められない」:InfineonもRISC-Vマイコンを発表(2/2 ページ)
RISC-Vを採用する動きが欧州でも活発になっている。2025年3月には、Infineon Technologiesが、RISC-Vベースの車載用マイコンのローンチを発表した。RISC-V Summit Europe運営委員会のメンバーは、これはRISC-Vベースの半導体の製品化を加速させるとみている。
欧州は「素晴らしい立ち位置」を確保している
Cervero氏は「欧州は素晴らしい立ち位置を確保している。米国や欧州、アジアから研究者たちが集まり、つながりや関係性を生み出すことで、コミュニティーをさらに強化し、より良く成長させることができる」と指摘する。
Wallentowitz氏は「機関の種類は多様だが、欧州内に協業体制を確立したことで、大きな成功を収められた。RISC-Vは、数々のプロジェクトにおいて共通フレームワークとして機能し、これまでの過去の研究努力にはしばしば欠けていた“統合的な土台”を提供している。地理横断的な協業には、それぞれ状況が異なるために課題があるが、こうした違いについて議論することで、取り組みの焦点を絞り、エコシステムのギャップを特定できるよう支援することが可能だ」と付け加えた。
学術研究機関は引き続き、業界には検討する余裕がないような奇抜なアイデアを研究していく上で、重要な役割を担っていく。他の人々が分析、構築、評価できるような、新しい技術を生み出していくだろう。
学術分野が商用レベルの検証を実現することで貢献した例としては、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)の「PULP(Parallel Ultra Low Power)」プラットフォームが挙げられる。
オープンソースのHPC(High Performance Computing)プロジェクトも、中国をはじめとして商用利用されている。しかし、イノベーションに注力する学術界と、持続可能な製品の販売に注力する産業界との間には、目的/スケジュールが異なるという根本的な課題が残る。こうしたギャップを埋めるには、効果的な技術移転が極めて重要になる。
公的資金への依存が懸念事項に
重大な懸念事項となっているのが、欧州が公的資金に依存しているという点だ。Cervero氏、Wallentowitz氏とも「それについては依然として極めて重要である」との見解で一致している。
Cervero氏は「欧州は特にその傾向が強いといえる。もともと保守的でリスクを回避する傾向が強く、他の地域に見られるようなベンチャーキャピタルの意欲が低いからだ。それが特に当てはまるのが、初期段階の半導体設計である。今もまだPoC(Proof of Concept)の取り組みを進めていて、確立には至っていない」と述べる。
そのような投資は膨大な時間を要するため、短期的ではなく持続的な公的投資が必要だ。長期目標は公的資金への依存度を下げることだが、引き続き新興企業やアイデアを支援していくことが不可欠である。
両氏とも、助成金と、既存の研究/イノベーションへの資金提供とが“奇妙に混在している”という点を指摘する。欧州の多くの中小企業が公的資金に過度に依存するようになるのは、欧州内で持続可能なビジネスモデルを構築することが難しいために米国でのチャンスを模索する場合が多いからだという点が懸念されている。
人材を獲得するためには、資金提供の方法を調整する必要がある。Wallentowitz氏は「大規模な複数パートナーによる研究プロジェクトよりも、助成金や集中的な産業連携による直接資金提供の方がより効果的ではないだろうか」と提案する。
同氏は「これは、既存のコンソーシアムモデルとは対照的だ。従来の公的資金は、ただ単に欧州全体に資金が分配されているように見え、誰もが自分の椅子に座ることができた。研究プロジェクトは、特に初期段階において価値があるが、特定の商業的成果を追求する企業に特化した資金を提供する方が、製品化を実現する上でより強いインパクトを与えられるだろう」と述べる。
またCervero氏は「研究プロジェクトは、イノベーションや、業界が追求する余裕がない優れたアイデアの試験を行う上で効果的だ。これが、われわれの取り組みの領域であるが、長期的な関心は全く別のところにある。企業は利益を上げる必要があるからだ」と付け加えた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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