半導体供給に改善の兆し、自動車業界を脅かしたNexperia問題の行方:電子機器設計/組み込み開発メルマガ 編集後記
改善の兆しはありますが、今後『全て元通り』とはいかないでしょう。
この記事は、2025年11月10日発行の「電子機器設計/組み込み開発 メールマガジン」に掲載されたEE Times Japan/EDN Japanの編集担当者による編集後記の転載です。
※この記事は、「電子機器設計/組み込み開発 メールマガジン」をお申し込みになると無料で閲覧できます。
半導体供給に改善の兆し、自動車業界を脅かしたNexperia問題の行方
オランダに本社を置く中国企業傘下の半導体メーカーNexperiaの出荷停止問題は、ホンダがメキシコ工場を停止するなど、実際に自動車産業に大きな影響を及ぼしています。日本ではホンダの他にも日産自動車が国内2工場の減産生産を1週間減らす方針を明かし、スズキも不透明な供給見通しを背景に、通期見通しを据え置いたことが報じられています。
この問題は現在も完全解決には至っていませんが、ここ数日で大きな動きがありました。ただし、依然として不確実な状況であり、そして今回の供給が改善したとしてもそれで『全て元通り』とはいかないでしょう。
今回の問題については、以前にも別の編集後記(下記リンク参照)でまとめましたが、ことの発端は、オランダ政府が2025年9月30日(現地時間)、「深刻なガバナンス上の欠陥」を理由にNexperiaの経営権を接収したことです。さらにオランダの裁判所も経営上の不正を理由にNexperia前CEOのZhang Xuezheng氏を一時的に解任。こうした状況を受けて中国政府は、中国で製造された同社チップの輸出を禁止しました。
Nexperiaは汎用ロジック/ディスクリート半導体を幅広く手掛け、年間1100億個以上を出荷。特に自動車業界向けだけで年間630億個の部品を供給しているといい、その製品は自動車の電子制御ユニット(ECU)などに多数使用されるなど、世界の自動車サプライチェーンにおいて重要な一角を占めています。Nexperiaの前工程工場はドイツと英国にありますが、後工程の中核拠点は中国に所在しています。そのため世界の業界団体らは直後から深刻な懸念を表明。自動車メーカーはある程度の在庫はあるものの長くはもたないため、代替サプライヤー確保に奔走していることも報じられています。しかし、車載用途の製品は厳格な評価が必要であり、既にデュアルソーシングが確立されていない場合は、その切り替えには数カ月かかる可能性があると指摘されていました。そして上述の通り、実際に生産への影響も出始めました。
このように深刻な状況が続く中、ここ数日で解決に向けた大きな動きがありました。
米中が規制を緩和、改善の兆しが見えるが
そもそも、今回の騒動の背景には、米中対立があるとされています。米国産業安全保障局は2024年12月にNexperiaの親会社である中国Wingtech Technologyを輸出制限対象の「エンティティリスト」に追加していましたが、2025年9月29日にエンティティリスト掲載企業の子会社にも輸出管理規制を適用する規則を公布。これによって完全子会社のNexperiaがその影響を受ける懸念が高まりました。オランダはこの翌日に経営権接収を実施しています。
米中は2025年10月30日の首脳会談で同問題について協議したといい、米国は上述の規制を同年11月10日から1年間延期することを決定。中国も11月1日、Nexperiaからの輸出制限を条件付きで免除する談話を出しました。Nexperiaはこうした状況を受けて2025年11月5日、米国の規制の延期や中国の輸出再開に向けた協力的な姿勢を歓迎する声明を発表。中国の対応によって「重要な成熟半導体の世界市場への継続的な供給が可能になる。制限緩和に関する条件、基準、手続きの詳細が近日中に明らかになることを期待している」と期待感を示しました。
「中国へのウエハー供給を停止」Nexperia本社と中国法人の対立
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
半導体不足で自動車業界が再び混乱か、オランダ政府によるNexperia接収の衝撃
世界の自動車産業と半導体サプライチェーンを揺るがす、異例の事態が発生しました。
GlobalFoundries、ドイツ工場の能力拡大に11億ユーロ投資へ
GlobalFoundriesがドイツ・ドレスデン工場の生産能力拡大に11億ユーロを投資する計画を発表した。同拠点の生産能力は2028年末までに年間ウエハー100万枚以上に拡大し、欧州最大規模の生産拠点になる見込だという。
24年のGaNデバイス市場、シェア1位は中国 トップ5に日本勢なし
フランスの市場調査会社Yole Groupによると、窒化ガリウム(GaN)パワーデバイス市場は2024年から2030年まで年平均成長率(CAGR)42%で成長し約30億米ドルの市場になるという。2024年の市場シェアでは中国Innoscienceがトップだった。日本勢はトップ5には入っていない。