果報は寝て待て! 静置して高特性に 室温で薄膜トランジスタを作製する新手法:太陽電池の透明電極に期待(1/2 ページ)
工学院大学の相川慎也氏らの研究グループは、熱処理を行わない酸化物薄膜トランジスタ(TFT)の製造プロセスを発表した。専用のガス供給装置などを用いずに大気中で完結する簡便なプロセスでありながら、耐熱性の低いプラスチック基板にも適用できるので、基板の選択肢が拡張する。
工学院大学は2025年10月23日、熱処理を行わない酸化物薄膜トランジスタ(TFT)の製造プロセスを発表した。専用のガス供給装置などを用いずに大気中で完結する簡便なプロセスでありながら、耐熱性の低いプラスチック基板にも適用できるので、基板の選択肢が拡張する。
300℃の熱処理工程が材料選択のハードルに
昨今、フレキシブルデバイスはディスプレイやセンサーなど幅広い領域で利用されているほか、太陽電池やリチウムイオン電池といった用途でも技術革新が期待されている。フレキシブルデバイスの製造には、柔軟性のあるプラスチック基板を用いたTFTが多く用いられている。
TFTに用いられる半導体材料は有機半導体やカーボンナノチューブなどさまざまだが、中でも酸化物半導体は、量産が確立されている/電気特性が優れている/低温プロセスを適用できるといった製造上の利点がある。このことから、工学院大学 工学部 電気電子工学科 教授 相川慎也氏らの研究グループも、酸化物半導体に着目してTFTの研究を行ってきた。
一方で、酸化物TFTには弱結合酸素に由来する酸素空孔などの欠陥が生じ、ヒステリシスやハンプといった不安定な電気特性を示すことも知られている。成膜自体は室温で行えるが、上記の欠陥の除去には300℃以上の熱処理が必要なので、ポリイミドのような耐熱性プラスチック基板を用いるしかなかった。
熱処理以外で欠陥を低減する手法としては、プラズマ処理や高エネルギー紫外線(UV)照射、オゾン雰囲気中でのUV照射なども報告されている。しかし、プラズマによるプラスチック基板の損傷、高エネルギーのUVによる意図せぬ基板加熱(〜150℃)、オゾンを用いるための装置構成の複雑化などの課題があった。
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