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AIの競争軸は半導体から電力へ――日本の戦略の「死角」に湯之上隆のナノフォーカス(88)(3/4 ページ)

AIの競争軸は、半導体から電力へと移りつつある。なぜなら、AIに必要な計算能力の拡大が、半導体の性能向上よりも速いペースで電力需要を増大させているためである。これは、日本の半導体戦略において見落とされがちな「死角」でもある。

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AIの消費電力は「国家」レベルに

 図4は、IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)による2030年のAI関連電力需要の予測を示したものである。その規模は945TWhに達する見込みだ。

 この数字だけでは実感しにくいため、2つの尺度で置き換えてみよう。

 まずは国家との比較である。945TWhは、日本の年間総発電電力量(近年の実績で約900〜1000TWh)にほぼ匹敵する。つまり、日本一国が1年間に発電する全ての電力を、AIだけで消費する計算になる。

図4 AI関連電力需要の原子力発電所換算(2020〜2030年)[クリックで拡大]
図4 AI関連電力需要の原子力発電所換算(2020〜2030年)[クリックで拡大] 出所:AI関連電力需要はIEA, Electricity 2025(2025年1月)のBase Caseを基に筆者補間、原発換算は100万kW級・設備利用率85%(年間約7.45TWh/基)を仮定、図表作成は筆者

 次に、発電所の基数との比較である。出力100万kW級の原子力発電所が、設備利用率85%で1年間稼働した場合の発電量は約74.5億kWh(約7.45TWh)である。945TWhをこれで割ると、約127基分に相当する。世界で現在稼働中の原子力発電所は約440基であるから、その約3割に匹敵する発電能力を、AIという単一の用途が追加で必要とすることになる。

 ここまで来ると、もはやIT産業内部の問題ではない。国家レベルのエネルギー政策そのものの問題である。

問題の本質は総量ではなく「増分の速度」

 しかし、真に深刻なのは945TWhという絶対量そのものではない。そこに至るまでの「毎年どれだけ増えるか」という増加速度の方である。

 図5は、AI電力需要の年間増加量の推移を示したものである。2030年時点で、その増加量は年間約130TWhだ。出力100万kW級の原子力発電所(設備利用率85%)に換算して約17基分に達する。これは「2030年にAIが945TWhを使う」という話ではなく、「2030年の1年間だけで、前年より原発17基分の電力が追加で必要になる」という話である。

図5 AI関連電力需要の原発換算基数と年間増分および世界原発純増ペースの比較
図5 AI関連電力需要の原発換算基数と年間増分および世界原発純増ペースの比較[クリックで拡大] 出所:AI関連電力はIEA, Electricity 2025(2025年1月)におけるデータセンター電力需要予測(2030年約945TWh、Base Case)を基に筆者補間、原子力発電所換算は100万kW級、設備利用率85%(年間約7.45TWh/基)を仮定、世界原発純増ペース(5基/年)は近年の国際動向を参考にした概念値、計算および図表作成は筆者

 では、電力供給側はこのペースに対応できるのか。世界の原子力発電所の年間純増数は、近年の平均で約5基にとどまる。2030年時点でAI電力需要の年間増加量が原発17基分に達するとすれば、供給側の積み上げ能力との間に、単年だけで12基分の乖離が生じる計算になる。しかも、AI電力需要の増加ペースは年々加速しているため、この乖離は2030年以降さらに拡大していく可能性が高い。

 ここで、新設原発の電力が全てAI向けに配分されるわけではなく、既存設備の退役分や一般需要の増加分も考慮すれば、AI向けに利用可能な純増分はさらに小さくなる。

 この不足分を、太陽光や風力といった再生可能エネルギーで補完するのも容易ではない。データセンターが必要とするのは、天候や時間帯に左右されない、24時間365日の安定した電力供給(ベースロード電源)である。太陽光は夜間に発電できず、風力は風が止まれば出力がゼロになる。蓄電池を組み合わせる方法もあるが、数百メガワットからギガワット規模の連続稼働を支えるには、蓄電池の容量/コスト/寿命のいずれにおいても、現時点では技術的および経済的なハードルが残る。

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