AIと地政学リスクが招く深刻なメモリ危機:「RAMageddon(ラムアゲドン)」(1/2 ページ)
AIインフラへの旺盛な需要は、メモリの急騰と深刻なメモリ不足を招いている。そこに追い打ちをかけているのが、米国とイスラエルの共同軍事作戦による、サプライチェーン(特にヘリウム)の危機だ。
世界半導体業界は今や、本格的な構造的再編と歴史的な変動の時代に突入した。AIインフラに対する飽くなき需要が、深刻な原材料不足の問題に直面していることを受け、業界関係者たちは現在の市況を「RAMageddon(ラムアゲドン)」と呼んでいる。
こうした事象が組み合わさって、既存のサプライチェーンが事実上麻痺(まひ)状態に陥り、パワーバランスがメモリメーカーへと移行し、民生機器メーカーは必須部品の確保に奔走しなければならない状況にある。
製造能力は、より利益率が高い分野に「再配置」された
2026年のメモリ危機の誘因となったのは、全体的な半導体生産能力の急激な低下ではない。業界全体で、その生産能力が最も利益の高い分野へと戦略的に再配置されたことによるものだ。
Samsung Electronics(以下、Samsung)やSK hynix、Micron Technologyなどの大手メモリメーカーは、自社の製造施設において、従来型のDRAM/NAND型フラッシュメモリの製造から、AIデータセンターにとって必要不可欠とされる広帯域メモリ(HBM)やサーバクラスのDDR5に注力する方向へと積極的に軸足を移している。
HBMの製造は、非常に複雑でリソース集約度が高く、ウエハー当たりのビット数も少ないことから、工場フロアでは、1つのHBMユニットが既存のDRAMウエハー2枚以上に相当する。
その結果、市場アナリストの予測によると、AIデータセンターは2026年にハイエンドメモリ全体の最大70%を消費する見込みだという。半導体業界はこれまで数十年間にわたり、スマートフォンやノートPCなどのコンシューマーデバイス向けに生産を最適化してきたことから、これは劇的な変化であることを意味する。
こうした供給と需要のミスマッチは、驚くような経済的影響をもたらしている。アナリストの予測では、2026年末までにDRAMとSSDの合計販売価格が130%上昇する見込みで、ハイパーインフレ環境が生み出され、機器メーカーは困難な状況に陥り、利益が大きくひっ迫する可能性があるという。
MSIのゼネラルマネジャーであるGolden Chiang氏は、現在の供給不足がこれまでにはない性質ものであることを強調し、「技術大手メーカーのCEOがサプライヤーを直接訪問した場合でさえも、『提供可能な在庫は全くない』と対応される場合が多い」と指摘する。
最も影響を受けるコンシューマー製品
さらに、英国Financial Timesは「このようなAIへの移行と供給/需要の不均衡という新たな力によって、半導体市場の従来の好不況のサイクルが完全に覆された。ハイパースケーラーのAIメモリ需要は、貪欲かつ永続的であるため、通常の自己復元メカニズムはもはや通用しない」と分析する。
またNikkei AsiaのCheng Ting-Fang氏およびLauly Li氏のレポートによると、2026年の新型ノートPC/スマートフォンの購入価格は、最大数百米ドルもの大幅な上昇が見込まれるという。HPやDell、Lenovo、ASUS、Acerなどの大手PCメーカーが、既に値上げ済みあるいは、さらなる値上げを予定しているためだ。
アナリストによれば、業界最大手は現在、家庭用機器よりもAIデータセンター向けチップの販売を優先していることから、低価格のコンシューマーエレクトロニクスに注力しているメーカーが深刻な影響を受けているという。これまで、スマートフォンの材料コスト全体に占めるメモリチップの割合は約10分の1程度だったが、現在ではこうした状況の変化に伴い、その割合が2〜3倍に増大しているのだ。
台湾の市場調査会社TrendForceも同様に、モバイル分野に関しては厳しい見方を示している。同社の分析によると、メモリ価格の急騰により、2026年の世界スマートフォン生産台数は前年比で少なくとも10%減少し、約11億3500万台となる見込みだという。
それでもTrendForceは逆説的に、2026年のスマートフォンの平均ストレージ容量は、NANDフラッシュの価格高騰にもかかわらず、4.8%増加すると予測している。このような受動的な容量拡大は主に、効率的に機能させる上で40〜60GB(ギガバイト)のローカルキャッシュを必要とするオンデバイスAIが推進されていることによるものだ。
メモリコストの上昇に伴い、一部のスマートフォンブランドは現在、利益率の低い低容量モデルを廃止したり出荷を削減したりしている。その結果、128GBモデルを全て段階的に廃止し、堅牢なオフラインAIインタラクションをサポートできるよう、256GBをハイエンドデバイス向けの新たなベースラインとしている。ミドルレンジ/ローエンド分野では、高コストモデルの出荷を削減し、大容量ストレージを標準的機能ではなく、オプションのアップグレードとして提供しているという。
タブレット/PCについても同様の分岐が見られる。プレミアムタブレット分野では、Appleの「iPad Pro」(M5チップ搭載)やSamsungの「Galaxy Tab S11 Ultra」といったデバイスは、プロ向けのクリエイティブなタスクやローカルAIモデルに対応できるよう最大16GBのRAMを搭載し、コンポーネント需要に応えている。しかしローエンド分野では、部品コストの上昇によって利幅が縮小し、こうした製品の存続そのものを揺るがす脅威が生じている。
市場調査会社Counterpoint ResearchのシニアアナリストであるShenghao Bai氏は、こうした厳しい現状について指摘し、「メモリ価格の高騰が、スマートフォンのBOM(Bill of Materials)コストに構造的な影響を及ぼしている。機器メーカーは、部品コストと売上総利益率のバランスを取ることが難しくなるだろう。特に、市場シェアを拡大するためにエントリーレベルのモデルに過度に依存している機器メーカーは、短期的損失という重大なリスクに直面することになる」と警告する。
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