検索
特集

炭素はどこまでシリコンに取って代われるか、3種類の材料が商用化に向かう材料技術(5/5 ページ)

シリコンはエレクトロニクスを支える半導体として大規模に利用されている。その一方で、炭素だけからなる材料が注目を集めている。現在のメモリやプロセッサがそのまま炭素材料に置き換わるのだろうか。そうではない。ではどのように役立つのだろうか。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

グラフェンが性能を発揮するのは10nmから

 グラフェンは炭素原子が結合した2次元の単層構造を採る。このため、従来のリソグラフィ技術との統合が可能だ。グラフェンを用いれば、カーボントランジスタを現在の主力技術であるSi加工技術に導入できる。しかし、10nm未満の超微細リソグラフィを使用できない限り、カーボントランジスタのメリットを最大限に発揮できる可能性は低い。ITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors、国際半導体技術ロードマップ)によると、リソグラフィの微細化が10nm未満にまで進むにはまだ数年を要することが分かる。

 「8nm以下のカーボントランジスタが登場するのは、早くても2017年以降になる」と、Gartnerでシニアアナリストを務めるDean Freeman氏は予測する。

 グラフェンを使用する上で最大の課題となるのが、バンドギャップの欠如である。理論的に考えると、幅10nm未満のグラフェンリボンを使用した場合、量子の閉じ込め効果によってバンドギャップが形成されるため、デジタルスイッチング素子として機能することが予想できる。しかしITRSによると、それほど微細なリボンが製造可能になるのはまだ先の話である。

 現在、10nm未満のグラフェントランジスタチャネルの形成を目指し、幾つかのグループが研究に取り組んでいる。これらの研究では、カーボンナノチューブを切り開いて、幅わずか数nmの独立したナノリボンへと加工する手法が用いられている。同手法を開発した米Stanford Universityの教授であるHongjie Dai氏は、「この手法を採用すれば、微細なリボンでも量産可能だ」と主張する。米Rice Universityの教授であるJames Tour氏もまた、化学反応を利用した手法を用いて、カーボンナノチューブからナノリボンへの大量加工に成功している。

 Tour氏は、「グラフェンを幅10nm未満のリボン構造へと加工すると、低電圧での変調がさらに容易になるという興味深い性質が現れる。ただし、リソグラフィの微細化が10nm未満にまで進む2015年以前に、米Intelと互角に渡り合おうとするのは無理だろう。それでも2015年までには、Siでは対応できないような量産向け電子機器を対象にカーボン材料薄膜の採用が拡大し、既に市場の大半に浸透しているはずだ」と予測する。Tour氏は、カーボンナノチューブを切り開いて作成したスラリーから薄膜を形成することで、インクジェットプリンタを使用したカーボン回路の低温蒸着に向けて、シート状やインク状のカーボンコンダクタを製造したい意向を示している。

電界でバンドギャップを操作する

 米University of California, Berkeleyの教授であるFeng Wang氏は2009年6月、バンドギャップの制御容易性に関する研究結果を発表した(図4)。この構造上の発見によって、グラフェンエレクトロニクス研究は飛躍的な進展を遂げるかもしれない。Wang氏は同研究で、グラフェンのバンドギャップは電界によって制御可能であると主張し、グラフェンは半導体特性を製造後であっても自在に変更できる唯一の材料であることを明らかにした。


図4 バンドギャップを動的に制御可能な素子 米University of California, Berkeleyが開発した製造手法では、SiO2(二酸化ケイ素)ガラス(緑色)と透明なAl203(酸化アルミニウム)層(薄灰色)の間に2層のグラフェンが挟み込まれている。Al2O3の上にPt(白金)のトップゲートを積層し、SiO2ガラスの下にはSiボトムゲートを配置する。Au(金)製のソース電極とドレイン電極間の距離は、人の毛の太さと同程度である。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る