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第7回 エミッタ接地回路の温度対策Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(1/2 ページ)

増幅回路を設計する際には、温度に対する特性変化にも気を配る必要があります。今回は温度変化への対策方法を紹介しましょう。

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 増幅回路を設計する際には、温度に対する特性変化にも気を配る必要があります。前回は、エミッタ接地増幅回路の周辺部品の定数をどのような手順で決めていくのかを紹介しました。設計した増幅回路が図1です。この増幅回路では、ピーク・ツー・ピーク値で10mV(「10mVpp」と記載)の入力信号を1Vppに増幅して出力するという当初の目標は達成できたのですが、温度特性が悪いという欠点がありました。

 例えば、トランジスタの接合部温度Tj*1)が25℃のときは1Vppを出力できていたのが、−40℃といった低温や125℃といった高温になると、目標を達成できなくなるのです(図2)。図2(a)でTjが125℃のときの出力信号を見ると、波形の下側がひずんでしまっています。これでは、入力信号を目標通りに増幅して出力するという増幅回路そのものの目的を果たせていません。

*1) トランジスタの性能を決める、pn接合部の温度を「Tj」と表記します。Tjは通常、電気機器の周囲温度よりも高い温度となり、どれだけ高くなるかはトランジスタの消費電力と放熱特性で決まります。消費電力や放熱特性は、電気機器を設計する上で欠かせない要素です。

図1
図1 エミッタ接地増幅回路 前回設計した増幅回路です。この回路は温度特性が悪いという欠点があります。ただし、バイアス抵抗であるR1とR2の値をうまく設定することで解決できます。
図2
図2 温度変化で出力波形がひずむ (a)は、図1に示した増幅回路の出力信号で、(b)は入力信号です。トランジスタの接合部温度が125℃になると、出力信号の波形の下側がひずんでしまっています。

 今回は温度変化への対策方法を紹介しましょう。高温状況や低温状況でも波形をひずませずに、入力信号を増幅できます(図3)。温度対策の鍵は、バイアス抵抗であるR1とR2の設定にあります。

図3
図3 温度対策で波形ひずみを抑制 うまく温度対策を施すと、きれいな出力信号が得られます。(a)は増幅回路の出力信号で、(b)は入力信号です。図2(b)よりも、高温ではバイアス電圧(バイアス点のVbe)が低い側に、低温では高い側にシフトしています。

数多くの特性が温度で変化

 前回は詳しく触れませんでしたが、実はトランジスタには温度によって変化する特性が数多くあります。温度に対して変化しない特性は無いと言ってもよいくらいです。このうちで最も重要で、気を配るべきものはベース-エミッタ間電圧(Vbe)に関する特性です。

 トランジスタのVbe-Ic(コレクタ電流)特性が温度に対してどのように変化するかを図4に示しました。トランジスタのTjが−40℃と25℃、125℃の場合を、それぞれ線の色を変えて描いています。図4からも分かるように、温度が上昇すると、Vbe-Ic特性のカーブが左側(Vbeが低い方)にシフトします。つまり温度が上がると、同じ値のIcを流すために必要なVbeが減少します*2)。ベースに印加する電圧が一定でも、温度が高くなればなるほど、Icがどんどん流れてしまう状態になるのです。

*2) ベース-エミッタ間電圧(Vbe)の温度特性はおよ−2mV/℃とされています。Vbeの実際の温度特性は、トランジスタの製造プロセスに依存するので、シミュレーションなどで正確な値を確認する必要があります。

図4
図4 温度に対してVbeは大きく変化 トランジスタのベース-エミッタ間にかける電圧(Vbe)とコレクタ電流(Ic)の関係です。トランジスタの接合部温度(Tj)が高まるにつれて、同じIcを得るのに必要なVbeが減少しています。

 図1に示した増幅回路でも、温度によってトランジスタのVbe-Ic特性が変わるにもかかわらず、ベースに印加する電圧(Vbe)をR1とR2の抵抗で分圧した固定値としているので、Icが大きく変化してしまいます。例えば図4を見ると、Vbeが0.86Vの場合、−40℃の低温ではIcがほとんど流れないのに対して、125℃の高温ではIcは膨大な値になります。高温状況や低温状況でも波形をひずませることなく入力信号を増幅させるには、温度が変化してもIcがなるべく変わらないようにする必要があります。

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