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第7回 エミッタ接地回路の温度対策Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(2/2 ページ)

増幅回路を設計する際には、温度に対する特性変化にも気を配る必要があります。今回は温度変化への対策方法を紹介しましょう。

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べース抵抗に解決の鍵

 それでは、温度が大きく変動してもコレクタ電流(Ic)があまり変化しないようにするには、具体的にどこを改善すればよいのでしょうか。図4をみると、温度が変化したときに、印加するVbeを変化させる事で、Icを一定にできることが分かります。例えば、Icを25mAと一定に保つには125℃でVbe=0.745V、−40℃でVbe=0.93Vにすればよいのです。実際の回路でこの働きをするのがベース抵抗(Rb)になります。図1には、Rbがどこにも入っていないように見えますが、実はR1とR2の合成抵抗が等価的にRbとして入っているのです*3)

*3) 本連載「第6回 エミッタ接地回路の定数を決める」(2009年4月号)の図4を参照して下さい。

図5
図5  ベース抵抗の効果で温度変化対策 Vbe-Ib特性に、前回説明した数値を使って負荷直線を引きました。ベース抵抗を大きくして直線の傾きをゆるやかにすれば、温度が変わったときのベース電流の変化を抑えられます。

 温度に対するIcの変化をRbが抑制する理由を、前回紹介した負荷直線を使いながら、以下に説明しましょう。図5は、図4の縦軸をベース電流(Ib)に置き換えたものです。前回使用した数値を使って、負荷直線を作図しました。グラフの傾きは−1/R3=−1/500Ω、Ib=0のときのVbe(X軸切片)=V2=0.99Vと設定しています。

 負荷直線と、Vbe-Ib特性を表す曲線の交点は、各温度でのバイアス(動作)点で、温度が高くなるとバイアス点のVbeが小さくなり、温度が低くなると高くなっています。すなわち、Rbは温度に応じて、バイアス点のVbeを調整して、Ibが流れ過ぎたり、少なくなり過ぎたりするのを防止しているのです。Rbを大きく、すなわち図5中の破線のように負荷直線をX軸に対して寝かせることで、Ibの温度変化幅をさらに小さくできます。

 実際にRbの値を設定する際の目安は、温度変化に対するVbeの変化幅よりも、Rbによる電圧降下を大きくすることです。Vbeの温度傾斜を−2mV/℃とすると、−40〜125℃の変化幅は、ΔVbe=(125+40)×2=330mVとなります。

 そこで今回は、Rbによる電圧降下をΔVbeより大きくするために、390mVと設定しました。Ibは前回と同じ設定で260μAなので、390mV÷260μA=1500Ωと計算できます。以上の情報を使って、バイアス抵抗R1とR2の値を求めましょう。前回の図4の説明から以下のようになります。

 (2)式中の0.86Vは、Ibに260μAを流すのに必要なVbeの値です。以上からR1=6kΩ、R2=2kΩと算出できました。冒頭で紹介した図3の結果は、このR1とR2の値を使った場合の、入力信号と出力信号の波形を示しています。

 図2(a)と比べると、温度に対する出力波形の変化幅が小さくなっていて、125℃の高温でも波形がひずまなくなりました。入力信号のバイアス電圧(バイアス点のVbe)も、図2(b)よりも図3(b)の方が温度に対する変化幅が大きくなり、Ibを一定に保つ効果が高まっています。Ibが流れやすくなる高温ではVbeが低い側に、低温では高い側にシフトしています。

製造ばらつきに泣かされて

 温度変化に対して安定した出力信号が得られたので「OK、これにて終了」としたいところですが、まだ検討すべき点があります。それは「製造ばらつき」です。顔や性格が人それぞれで、まったく同じ人が世の中にいないのと同じで、電子部品も1つ1つの特性が異なります。特性がまったく同じ部品は製造できないので、部品特性が異なることをあらかじめ考慮して、増幅回路の設計に盛り込む必要があるのです。何千個、何万個のトランジスタを使っても、同じ特性が得られる増幅回路を設計しなければなりません。

 ここまで読んで、アナログ回路の設計が嫌になってしまった人がもしかしたら出てきてしまったかもしれません。筆者も若いころから何度も何度も、製造ばらつきに泣かされました。今でも泣くことが時々…あります。しかし、製造ばらつきの問題を解決することこそが、優れたアナログ回路を設計することであり、アナログ回路設計の本質かつ醍醐味でもあると筆者は考えています。

 トランジスタの特性ばらつきのうち、最も考慮しなければならないのは、電流増幅率で、通常は標準値の1/2〜2倍と広い範囲でばらつきます。次回は、温度対策に加えて、製造ばらつきに対して安定した特性を得る手法を紹介します。

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Profile

美齊津摂夫(みさいず せつお)

1986年に大手の通信系ハードウエア開発会社に入社し、光通信向けモジュールの開発に携わる。2004年に、ディー・クルー・テクノロジーズに入社。現在は、同社の常務取締役CTO(最高技術責任者)兼プラットフォーム開発統括部長を務めている。「大学では電気工学科に所属していたのですが、学生のときにはアナログ回路の勉強を避けていました。ですから、トランジスタや電界効果トランジスタ(FET)を使ったアナログ回路の世界には、社会人になってから出会ったといっていいと思います。なぜかアナログ回路の魅力に取りつかれ、23年目になりました」(同氏)。


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