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ワイヤレス送電第二幕、「共鳴型」が本命かワイヤレス給電技術 共鳴方式(5/9 ページ)

電源ケーブルを使わずに電力を送る「ワイヤレス送電技術」に大きな技術進展があった。数mの距離を高効率で電力伝送できる可能性を秘めた「共鳴(Resonance)方式」の登場だ。

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第2部 温故知新の「共鳴方式」

 共鳴(Resonance)現象を使ったワイヤレス送電によって送電側コイルから2m離れた白熱電球を光らせるという、米Massachusetts Institute of Technology(MIT)の研究グループが2007年に公開した実証実験は非常にインパクトがあった。その理由は2つある。1つはすでに述べたように、数mの距離を高い伝送効率でワイヤレス送電するのは難しいという、これまでの業界の一般的な認識を覆した点。もう1つは、送電システムの構成がシンプルだったという点である(図1)。この実験では、直径60cmのコイル2つが離して設置してあり、一方には高周波電源回路、もう一方には負荷とする電球が接続されていた。

図
図1 共鳴方式の送電システムはシンプル 送電側コイルと受電側コイルを用意して、送電側に高周波電源回路を、受電側に負荷を接続する。コイルは、コイル自身のLと浮遊容量Cで決まる周波数で共振させた。

 この実証実験を見た業界関係者の印象はさまざまだ。「共鳴方式の論文が出た後すぐに、なぜ距離を広げて電磁誘導と同じレベルの伝送効率が得られるのか、という問合せがあった」(東京大学新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻の教授である小紫公也氏)というように新規性に驚く声が数多くある一方で、「構成そのものは電磁誘導方式とあまり変わらない」、「共鳴現象を使って情報を伝送する技術は、マイクロ波回路の研究分野ですでに幅広く活用されている」と、これまでの要素技術の延長だというとらえ方もある。さまざまな意見があるものの、共鳴現象を利用して電力が送れることを実証した点で、ワイヤレス送電技術の可能性を広げる技術進展であることは間違いないだろう。

相互に強く結合

 数mの伝送距離でも高い伝送効率が得られるのは、共鳴現象を利用しているからにほかならない。ここでいう共鳴とは、2つの物体が何らかの形で結合し、相互に強く影響し合っている状況を指す。電磁界の共鳴現象には、磁界共鳴と電界共鳴の2つのタイプがあるが、ここでは広く研究開発が進められている磁界共鳴に焦点を当てる。

 共鳴そのものは、ごくありふれた自然現象だ。例えば、固有振動数(共振周波数)が同じ音さを2つ用意しておき、片方を振動させると、離れた場所に置いたもう片方の音さも振動し始める。共鳴現象によって、片方の音さからもう片方の音さに運動エネルギが移動したのである。

図
図2 共鳴させることでエネルギの伝搬路が生まれる (a)は受電側コイル(下側)にコンデンサを取り付けていない場合の磁界分布。(b)はコンデンサを取り付けて共振させた場合の磁界分布。受信側コンデンサ付近に磁界分布が形成されていることが分かる。出典:南山大学理工学部システム創成工学科の稲垣研究室

 電力を伝送する場合も同様だ。共振周波数が同じ送電側コイルと受電側コイルを用意し、送電側コイルには高周波電力を供給して電磁界を形成させておく。供給したエネルギの多くは、送電側コイル付近の電界および磁界として、共振周波数で振動しながら存在している。このとき、送電側コイルの近傍に受電側コイルを置くと、受電側コイルの共振周波数が、磁界の振動周波数と一致しているために、途端にエネルギの伝搬路が形成されて電力が受電側に送られる(図2)。音さの場合では、2つの音さ間でエネルギのやりとりを繰り返すものの、電力送電の場合は、受電側に負荷が接続されているために送電側に継続的にエネルギを供給し続ける必要がある。

伝送効率を決める「kQ」

 ただし、このような現象は無条件に発生するわけではない。エネルギの放射に寄与せずにエネルギをコイル周辺に蓄える電磁界成分が優位な領域「近傍界(near feild)」に受電側コイルを置く必要がある。具体的には、利用する周波数の波長λに比べて、送電側コイルと受電側コイルの間の距離Dが十分に小さい領域である。

 このような条件下で以下に説明する2つの指標をそれぞれ向上させれば、高い伝送効率が得られる。1つ目の指標は、送電側コイルと受電側コイルの結合の強さ(k)で、

で表される。L1とL2はそれぞれ送電側コイルと受電側コイルの自己インダクタンス、Mは相互インダクタンスである。kは、送電側で発生した磁束がどの程度受電側で受けられているかを表す値で、コイル間の距離が広がるほど減少する。従って、コイル間距離を短くすると、結合の強さkを高められる。

 もう1つの指標は、共振させた(電流と電圧の位相を一致させた)送電側コイルが保持するエネルギについての指標(Q)である。一般に、送電側コイルに入力した全エネルギは、電気エネルギまたは磁気エネルギとして保持される以外に、さまざまな理由で失われる。

 具体的には、電磁波として遠方に放射してしまったり、抵抗成分で消費してしまったり(導体損失あるいはオーム損と呼ぶ)、コイルにコンデンサを取り付けた場合は「誘電体損失」と呼ぶ損失が生まれる(図3)。電力伝送を担うのは、電気エネルギまたは磁気エネルギとして保持されるエネルギであるから、保持エネルギについての指標Qを高めれば効率良く電力を伝送できることになる。

図
図3 電源から入力した全エネルギの内訳 電源回路から送電側コイルに入力したエネルギは、いくつかの経路で失われる。残ったエネルギが受電側への電力伝送に寄与する。

ここでQは、次のように表せる。

 Lはインダクタンス、ωは角周波数、Rohmは抵抗成分、Rradは遠方への放射に寄与する抵抗(放射抵抗)である。従って(2)式からは、Qを高めるには、インダクタンスLを大きくしつつ、抵抗成分での損失や遠方に放射する成分を小さくすればよいことが分かる。基本的には、Lを大きくするにはコイルの巻き数や直径を大きくすればよい。しかし、このようなコイルの形状の変化は、RohmやRradにも影響を与えるため、計算機シミュレーションなどで最適な形状に設計する必要がある。また、利用する周波数(共振周波数)を決めた場合、f=1/2π√LCの関係からLとCの積が決まる。このような制限下で、コイルを設計することが求められる。

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