第9回 エミッタ接地回路のサプリメント 〜 エミッタ・フォロア 〜:Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(1/3 ページ)
前回までは、エミッタ接地増幅回路を説明してきました。今回はエミッタ接地回路の特性をさらに向上させるサプリメントのような「エミッタ・フォロア(コレクタ接地)回路」を紹介します。
前回までは、エミッタ接地増幅回路を説明してきました。今回はエミッタ接地回路の特性をさらに向上させるサプリメントのような「エミッタ・フォロア(コレクタ接地)回路」を紹介します。
まず、前回までに設計したエミッタ接地回路を直列に接続して、電圧利得をもっと上げてみましょう(図1)。このエミッタ接地回路1つ分の電圧利得は40dB(100倍)ですから、これを2つ直列につなげると電圧利得は80dB(1万倍)になるはずです。
当初の設計目標は、1mVpp(ピーク・ツー・ピーク値)の入力信号を1Vppに増幅して出力するというものでした。電圧利得を80dBに高められれば、入力信号が100μVppに下がっても狙った出力が得られるはずです。ところが、何の工夫もせずにエミッタ接地回路を2つ接続しても、80dBの電圧利得は得られません。この問題を解決するのがエミッタ・フォロアです。
図1 増幅回路を2つ並べて、電圧利得を高める (a)は前回までに設計したエミッタ接地増幅回路。図中の赤枠で囲んだ基本部分を「サブ・サーキット」化して、(a)を2つ直列接続した増幅回路を(b)のように表現しました。
理想的な利得が得られず
図2に示したシミュレーション結果を見ると、実際には80dBとはならず、最大73dB程度しか電圧利得は得られていません。図2(b)をよく見ると、1段目(X1)の増幅回路の電圧利得が、本来40dBだったのが、33dBに下がってしまっています。これは、増幅回路(X1)の設計時に想定した負荷抵抗(X2の入力インピーダンスに相当)を10kΩとしていたのに対して、実際のX2の入力インピーダンスが低いからです。
図2 工夫しなければ本来の利得が得られない (a)は前回までに設計したエミッタ接地増幅回路の周波数特性。最大利得40dBが得られていることが分かります。ところが、これをそのまま2つ直列接続しても、80dBの利得は得られません(b)。
全体の電圧利得は、X1とX2の利得に加えて、X1の出力インピーダンス(Ra)とX2の入力インピーダンス(Rb)の関係で決まります。なぜなら、RaとRbが減衰器として働くからです。X1から出力された電圧信号がRaとRbで分圧され、Rbにかかる電圧の割合、すなわち利得はRb/(Ra+Rb)となります。
例えば、アンプを作ってみたものの、単体でテストしたときは設計通りの利得を確認できたのに、実際にスピーカを接続したらかすかに音が聞こえる程度だったという失敗談を聞いたことはありませんか。この原因も出力インピーダンスと入力インピーダンスの関係です。例えばこの後に説明するエミッタ・フォロアなどで対策すれば、この問題を解決できます。一般に、電圧信号を減衰させずに回路と回路を接続するときは、後段の入力インピーダンスよりも前段の出力インピーダンスを十分低くする必要があります。なお、電力や電流の場合は異なります。
図2のX1とX2による減衰器の電圧利得は、1段目の電圧利得が本来は40dBだったものが33dBに低下していることから、−7dB(0.447倍)です。Raは100Ωですから、先ほどの式にこれらの値を入れると、Rb/(100+Rb)=0.447となります。Rbを逆算すると80Ω程度であることが分かります。
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