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つながる広がる位置情報、あなたの機器に測位技術が載るセンシング技術 GPS測位(3/4 ページ)

現在、位置座標を測位するのに広く使われているGPS(Global Positioning System)には、2つの弱点がある。最近になって、GPS測位の2つの弱点を補う新技術が現れてきた。

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さまざまな要素技術がGPS測位を助ける

 GPS測位は、屋外での見通しのよい場所では、非常に有効な技術だ。ところが前述のように、状況によっては初期位置取得時間(TTFF)が長くなってしまう場合がある。また建物内部や地下では正確に位置座標を算出できないという弱点もある。現在、これを助けるさまざまな手法が提案されている(図3)。

 そのうちの1つである「エフェメリスデータ予測」は比較的新しい機能だ。測位技術に関連した学会に2002年〜2003年ころに登場し、ここ2〜3年で注目が集まってきた。

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図3 位置を測位する技術の広がり 測位技術はGPS測位を中心に、さまざまな技術と融合して、高性能化が進んでいる。例えば、GPS測位とセンサ技術を融合することで、拡張現実(AR)アプリケーションへの応用が進んできた。また、屋内GPS(IMES)または無線LAN測位とGPS測位を組み合わせることで、屋外だけでなく建物内部や地下での測位も可能になる。

 エフェメリスデータ予測は、本来ならばGPS信号から得ていたエフェメリスと呼ぶGPS衛星の詳細な軌道情報を、受信機の側で予測するという技術である。これをうまく予測できれば、初期位置取得時間を大幅に短縮できる。

 初期位置取得時間は、受信機でGPS信号を捕捉するまでの時間と、GPS信号を復調して航法メッセージを受信する時間という2つの要素で決まる。GPS信号を捕捉するまでの時間は、複数系統で並列に相関処理するといったGPS受信チップの進化に伴って短くなってきた。従って、初期位置取得時間を短縮するには、航法メッセージの受信を、いかにスムーズにするかが重要になる。

ウォームスタートを素早く

 航法メッセージには、さまざまな情報が含まれており、例えばGPS衛星システムの全体の軌道情報である「アルマナック」や、それぞれの衛星の詳細な軌道情報をはじめ、位置精度を高めるために不可欠な各種補正情報を含んだエフェメリスが含まれる。

 GPS信号を使って、位置座標を算出するにはこのアルマナック情報やエフェメリス情報が必要だ。ところが、この各情報を受信機(例えば、カーナビや携帯電話機)が取得した後、使える期間がそれぞれ決まっている。このため、受信機がどの情報を持っているかによって、初期位置取得時間は大きく異なることになる。

 まず、受信機がアルマナック情報(有効期間は6日)とエフェメリス情報(有効期間は4時間)のいずれも持っていない状態を「コールドスタート」と呼ぶ。このとき初期位置取得時間は数分になることもあるものの、いったん受信機を稼働させた後、コールドスタート状態になることはほとんどないとされる。これに対して、アルマナック情報とエフェメリス情報の両方を持っている状態を「ホットスタート」と呼び、このときの初期位置取得時間は、数秒で済む。

 最も問題となるのは、アルマナック情報は持っているが、エフェメリス情報を持っていない「ウォームスタート」の状態である。このとき初期位置取得時間は、何も工夫を施さなければ、少なくとも30秒以上かかる。GPS信号の送信タイミングの都合上、GPS信号からエフェメリス情報を取得するには、一般に30秒の時間が必要だからだ。仮に、航法メッセージの受信誤りに備えて受信内容を検査すると60秒以上になってしまう。

 エフェメリス情報をGPS衛星の詳細な軌道情報を格納してあるサーバーからネットワークを介して取得することも技術的には可能である。これに対して、エフェメリス予測機能は、ネットワークに接続せず、受信機の内部でエフェメリス情報を推測して使う。

CSRやAtherosが製品化

 複数のGPSチップベンダーが、エフェメリス予測機能を特長としてうたうGPS受信チップを製品化している。

 例えば英CSR社は、2010年6月に「SiRF AlwaysFiX」と呼ぶ新機能を搭載したGPS受信機能搭載のシステムLSI「SiRFatlasV」を発表した。SiRF AlwaysFixは、継続的にGPS衛星を捕捉するための低消費電力モードや、エフェメリス情報を推測する機能を組み合わせたもの。過去に取得した各種情報を基に、エフェメリス情報を推測する。同社はかねてから、「SiRF InstantFix」と呼ぶエフェメリス情報を予測する技術を有しており、これを発展させた。SiRF InstantFixでは、3日以内に捕捉したGPS衛星ならば、過去の情報から現時点のエフェメリス情報を予測できるという。

 このほか、米Atheros Communications社も2010年6月に、「ESP (Ephemeris Self-Prediction) technology」機能を搭載したGPS受信チップ「AR1520」を発表している。

三洋電機がPNDに採用

 三洋電機は、同社のPND「ゴリラ」に、「クイックGPS」と呼ぶ新機能を搭載した(図4)。このクイックGPSはまさに、エフェメリス予測機能である。「クイックGPS機能の搭載は、国内のカーナビゲーション市場で初」(同社)。ナビゲーション起動時に同社従来機では約30秒〜数分かかっていた位置測位を、約10秒に短縮できたという。

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図4 三洋電機のポータブルナビゲーションデバイス(PND) 「クイックGPS」と呼ぶ新機能を搭載したことで、ウォームスタート時の初期位置算出時間を短縮した。ナビゲーション起動時に同社従来機では約30秒〜数分かかっていた測位時間を、約10秒に短縮できた。

 同社によれば、PNDの起動時に位置の表示に時間がかかり、しばらく表示できないというカーナビゲーションとしての欠点を認識していた。かねてから、これを解消すべく技術調査を進めてきたという。今後も搭載機種を拡充し、クイックGPSを標準装備していく考えである。

 スイスU-blox社が提供している「Capture&Process」技術も、初期位置算出時間の短縮を狙ったものだが、実現手法が異なる。Capture&Process 技術は、従来は受信機(例えば、デジタルカメラ)で処理していた、GPS信号の捕捉と位置座標の算出という2つの処理を分離したものである(図5)。

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図5 U-blox 社の「Capture&Process」技術の概略図 Capture & Process 技術には、主に2つの処理段階がある。まず、カメラやデータロガーといった機器の側では、捕捉して受信したGPS信号をそのままメモリに保存する。その後、保存したGPS信号をPCに移動して、PCで位置座標を算出する。このとき、位置座標を算出するために必要なGPS衛星の軌道情報は、インターネット上のサーバから取得する。

 受信機では、GPS衛星を捕捉した後、1回当たり128KバイトのGPS信号を収集する。128Kバイトのデータの収集に要する時間は0.2秒であるから受信機の側での作業は0.2秒で終了することになる。

 取得したGPS信号はPCに移動して処理することで、位置座標を算出する。まず、受信機にためておいたGPS信号を使って、データを受信した時点のGPS衛星と受信機の距離を算出する。距離を基に位置座標を計算するには、前述の通りGPS衛星の詳細な軌道情報が必要だが、これはインターネットを介して、GPS衛星の軌道履歴サーバから入手する。

 Capture&Process技術の欠点は、PCが必要になること。例えばデジタルカメラで撮影したその場所にPCがないと、位置座標が正確に取得できたかどうか、すぐには確認できない。

 ただ、一般的なGPSを使った測位技術に比べて、初期位置算出時間の分だけ待たなくてもよいという特長に加え、位置座標を算出するためのベースバンド処理が機器に不要であるという特長がある。ハードウエアがシンプルになり、消費電力も減る。位置精度は、実際の環境で使用したときに60m〜80mである。

 「イギリスのロンドンで実証実験をした結果、GPS機能を内蔵した既存のデジタルカメラを使った場合、電源を投入した後の測位時間は短くて18秒、周囲の環境の影響で遅くなる場合では1分〜2分だった」(ユーブロックスジャパンのカントリーマネージャーである仲哲周氏)と説明した。「デジタルカメラやデータロガーといった用途ならば、0.2秒で済むCapture&Process技術は、測位時間と精度のバランスを考えたとき最適な手法だ」(同氏)と主張する。

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