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つながる広がる位置情報、あなたの機器に測位技術が載るセンシング技術 GPS測位(4/4 ページ)

現在、位置座標を測位するのに広く使われているGPS(Global Positioning System)には、2つの弱点がある。最近になって、GPS測位の2つの弱点を補う新技術が現れてきた。

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建物の中で役立つ無線LAN測位

 一方の建物内部や地下で位置測位が難しいというGPSの弱点に向けては、無線LANを使った測位技術が発展してきている。

 無線LANを使った測位技術とは、無線LANのアクセスポイント(AP)のMACアドレス情報と電界強度を使って、受信機の位置を算出する技術である。位置推定に利用するAPの数や推定精度に依存するものの、位置精度は数m〜100m程度(図6)。位置を取得するのに要する時間は数秒である。

図
図6 無線LAN測位を活用した行動ログ解析 無線LAN測位技術は、データベースに登録されたアクセスポイントが周囲にあれば、屋内でも屋外でも位置座標を取得できるという利点がある。位置精度は数m〜100m程度。写真は、無線LAN測位技術を採用したデータロガーを使って行動ログを解析した結果。赤や青、水色、白で示した場所がより多くの消費者が集まっている場所である。行動ログ解析を活用すれば、広告やキャンペーンの効果測定や、商業施設のレイアウト設計に使える。    出典:クウジット

 米Skyhook Wireless社とクウジットがサービスを提供しており、両社とも機器実装に向けた取り組みを活発に進めている。例えば、クウジットは、Androidを採用したスマートフォンに向けた屋内位置測位技術の提供を、2010年6月10日に開始した。「PlaceEngine屋内測位ソリューション」と呼ぶ。さらに、米Skyhook Wireless社も2010年7月2日(米国時間)、韓国Samsung Electronics社の携帯型機器に同社の位置測位技術を提供することを発表した。

使うほど精度が上がる

 無線LANのAPの情報を使って端末の位置を推定するとき、前提が2つある。1つは、APが独自(ユニーク)に持っている情報(MACアドレス)を使うこと。もう1つは、APはひんぱんに移動しないということである。

 クウジットの代表取締役社長である末吉隆彦氏によれば、同社の無線LAN測位技術は、拡張現実(AR)の研究の一貫で生まれた。拡張現実では、「いつ、どこで、誰が、何を」という各項目をセンシングすることが重要になる。その中で、「どこで」という測位技術だけを切り出しても事業になるのではないかと考えた。

 そのとき注目したのが無線LANを使う測位技術だった。無線LANのAPは、比較的規模の大きな都市であれば、インフラといってよいほど、あらゆる場所に設置されている(図7)。このすでにあるインフラをうまく活用して、位置を計算しようとしたわけだ。

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図7 無線LANのアクセスポイント(AP)の分布 赤色、ピンク、だいだい色、黄色、黄緑、緑、水色、青、白の順でAPの個数が多い。首都圏では、インフラと言ってもいいほど、APがいたるところに設置されている。    出典:クウジット

 クウジットは都市をくまなくまわり、ある位置座標で取得できた無線LANのAPのMACアドレスと電界強度、そのときの位置座標のデータベースを構築した。利用者の端末が位置座標を探索したときに、利用者の周辺にあるAPのMACアドレスが、データベースに格納されていれば、利用者はおおよその位置が分かることになる。数多くのAPの情報を使うほど、位置の推定精度は上がる。

 APの正確な位置は分かっていない。あくまでこの付近にあるだろうという推定情報である。ただ、多くのユーザーがさまざまな場所で使うほど、推定精度は高まる。具体的には、データベースから位置情報が得られなかったときには、利用者がその地点の住所とAPの情報をデータベースに登録できる。そうすればその後、登録されたデータを別の利用者が使えることになる。

 前出のCSR社は、無線LANを使った測位とGPS測位を組み合わせた、ハイブリッド測位技術の開発に着手している。ハイブリッド測位技術とは、屋外ではGPS信号を使って測位しておき、屋内に入って高い精度で位置を算出できなくなったら無線LAN測位に切り替えるといった技術である。CSR社は、無線LANチップとGPS受信チップの双方を製品群に有しており、それを生かした格好である。

 現在、コールドスタート時の初期位置取得時間を短くするための衛星情報を提供しているサーバに、無線LANを使った測位用のロケーションサーバを統合する取り組みを進めている。なお同社は、2008年7月8日に、Skyhook Wireless社と提携することを発表している。

屋内でも高い精度で位置測位

 屋内で位置を測位する技術には、無線LANを使う方法のほかにも、日立産機システムが事業化した屋内GPS(IMES)などがある(図8)。屋内GPSとは、GPS衛星と同じ形式の信号を発信する送信機を、屋内に複数設置することで、屋内でも位置情報を取得できるようにしたもの。あらかじめ、位置座標(緯度と経度)の情報を屋内GSPの送信機にID情報として付与しておき、これを送信する。ソフトウエアは変える必要があるものの、既存のGPS受信機のハードウエアはそのまま使える。

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図8 日立産機システムが製品化した屋内GPSの送信機 写真右下が屋内GPSの送信機、残る3つが屋内GPSの受信機である。受信機はGPS信号を受信するハードウエアはそのままに、ソフトウエアだけを変更すればよい。写真は、日立産機システムが2010年6月4日に開催した「ビジネスフロンティア展 THE NEXTAGE2010」に展示したもの。

 ただ、同じハードウエアを屋外でも屋内でも使うため、屋内GPSの送信機の出力強度をうまく調整する必要がある。屋外のGPS衛星からの信号に比べて出力強度が強すぎると受信回路が耐えられない。反対に、出力強度が弱すぎると位置を取得できなくなってしまう。そこで同社では、IEEE 802.15.4をベースにした無線通信機能を使って、GPS信号の電波強度を調整する機能を用意した。

 同社で屋内GPSの開発を担当している川口貴正氏*1)は、屋内GPSの特長について、GPS受信機のハードウエアをそのままに、屋外と屋内のそれぞれで位置情報を取得できることや、高い位置精度を確保できることを挙げた。

 GPS送信機を設置する手間やコストが掛かるのが欠点だが、「位置情報を使ったサービスが普及するのに伴い、屋内GPSのインフラが、将来必要になるはずだ」(同氏)と語った。同社は10年前から、GPS衛星を使った位置測位システムを開発してきた実績がある。屋内GPSも、数年前から複数の実証実験を重ね、事業化に至った。駅の地下街や商業施設でのナビゲーション、物流倉庫での在庫管理などに使ってもらいたいと説明した。

*1)日立産機システムの事業統括本部 ドライブシステム事業部 新事業推進センタ ユビキタスネットワークグループの技師である。

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