次世代照明が第2の普及期へ、LED蛍光灯と有機EL照明が主役に:LED/発光デバイス 有機EL(1/2 ページ)
白熱電球を置き換えるLED電球の勢いが著しい。白熱電球がなくなる日が見えてきた。白熱電球という点光源から、蛍光灯を置き換える線光源、さらにまったく新しい面光源へ、次世代照明が次々と広がっていく。LED 蛍光灯は素子の効率改善と標準化の後押しを受けて、LED 電球に続く勢いが期待できる。面光源を実現する有機EL 照明の製品化も始まった。次世代照明の将来をまとめた。
照明の世界が変わろうとしている。発光効率が低く寿命の短い白熱電球や、神経系に害を与えるHg(水銀)を利用する蛍光灯を置き換える、固体素子を使った照明の第2の普及期が始まる。
主役は「白色LED」と「白色有機EL」だ。第1の普及期は2009年に始まった。大手電球メーカーが一斉にLED電球を製品化し、安価な製品を投入する中小メーカーも現れた。このときすでにLED電球の発光効率(エネルギー変換効率)は40lm/W〜80lm/Wに達しており、白熱電球の20lm/Wを大きく上回っていた。
図1 ロームが試作したフレキシブル有機ELパネル これまでは実現しにくかった照明器具の形を見せた。厚さは0.3mmであり、半径25mmの折り曲げが可能。樹脂基板上に実装した品種もある。第3回次世代照明技術展に出展したもの。
現在では、白色LEDの発光効率は150lm/Wに達している*1)。白熱電球はもちろん、発光効率の高い直管形蛍光灯の100lm/Wをも超えている。LEDを組み込んだ照明器具の発光効率(器具効率)で比較しても、蛍光灯に匹敵する値だ(別掲記事「LEDの製造コストを大幅に引き下げる」を参照)。素子の実力として蛍光灯の置き換えが現実的になってきた。
*1)パナソニック電工は、2012年以降に製品の発光効率が125lm/Wに達し、2015年には150lm/Wに達すると予測している。なお、Creeの9W出力品は、350mAで動作させたとき、160lm/Wに達する。
一方、白色有機EL素子の発光効率(15cm角のパネル)は25lm/W程度であり、ようやく白熱電球を超えた段階である。約5年遅れてLEDを追いかける形だ。
しかし、LEDには無いメリットがあり、LEDを採用した場合とは異なる機器を設計できる可能性がある。パネル全体が光る面光源(拡散光源)として利用できること、基板材料が比較的自由に選択でき、薄くて軽い素子を製造しやすいことが特長だ(図1)。例えば、携帯型機器や車載部品に使ったとき、形状に制限が少なく、重量を抑えやすい。
LEDの製造コストを大幅に引き下げる
白熱電球や蛍光灯の強みは材料コスト、製造コストが十分に低いことである。発光効率でLEDが上回ったとはいえ、価格ではいまだ桁違いだ。LEDの材料コスト、製造コストを引き下げる方法はないだろうか。
三菱ケミカルホールディングスは、LEDに用いるGaN(窒化ガリウム)結晶の製造技術として液相成長法(アモノサーマル法)を確立し、GaN結晶を低コストで製造することで、LED照明器具の価格引き下げをもくろむ(図A-1)。University of California, Santa Barbara(UCSB)の材料物性工学部の教授である中村修二氏の協力のもと、開発を進める。2012年にはサンプル出荷を開始する予定だ。
アモノサーマル法は、人工水晶の製造技術である水熱合成法と類似した合成法であり、超臨界状態のNH3(アンモニア)に金属Ga(ガリウム)を溶かし込んでGaN結晶を液相で合成する。現在主流の気相成長法と比べて結晶成長速度が速いため、スループットが向上し、低コスト化につながるという。
直管形LED照明が立ち上がる
LED照明の第2の普及期の核となるのは、蛍光灯の置き換えだ。一般家庭にはLED電球が普及するものの、オフィスや店舗、公共機関などにLED照明を広げようとするとき、蛍光灯の置き換えを避けて通ることはできない。しかし、蛍光灯を置き換えようとすると、白熱電球の置き換えとは異なる課題に突き当たる。
すべての蛍光灯は灯具内に電源回路を備えており、品種によって電源回路の仕様が異なる。このため、蛍光灯を直管形LEDランプと差し替えようとすると、灯具側の変更が必要になる。例えば既存の灯具から安定器を取り外す必要がある。
なお、LED電球は、白熱電球と同じE26口金や小型電球用のE17口金に装着して使う。白熱電球では外付けの回路を使わないことから、LED電球の設計にあたっては100Vの交流を使うことを前提にできる。
蛍光灯の置き換えを考えたとき、もう1つ課題がある。直管形蛍光灯では電力供給用の口金が管の左右にある。直管形LEDランプに置き換えるとき、これをどのように扱えばよいのか基準がなく、直管形LEDランプへ給電する手法が1つに定まらない。現在は、片側の口金を使うものと、両側の口金を使うものがそれぞれ製品化されている。
直管形LEDランプの規格が成立
日本電球工業会(JELMA)は、2010年10月、直管形LEDランプに向けた規格「L形ピン口金GX16t-5付直管形LEDランプシステム(一般照明用)」(JEL 801)を策定した(図2)。JEL 801の目的は、直管形LEDランプに関連する混乱を収め、安全性や互換性を確保することである。
例えば、JEL 801では片側給電のみを定義した。装着時、LEDランプのピンに接触したときに感電を防ぐことをもくろむ。両側給電だと、電源−LEDランプ−人体という経路で感電する危険性があるためだ。
給電方式を片側給電に定めたことと併せて、口金も変更した。従来のG13口金は管の左右に直線状の端子を2つずつ、計4端子を備えるが、新たに定めたL16口金(図3)は給電側がL字型の2端子、接地側に1端子を用意する。
この他、JEL 801ではLEDランプの全光束(lm)や平均演色評価数(Ra)、電圧や電流、最大電力なども定義した(別掲記事「JEL 801は用途によってはオーバースペック」を参照)。
パナソニックは色再現性をうたう
規格策定を受け、照明関連の大手メーカーの対応が始まった。パナソニック電工は「直管形LEDランプ搭載ベースライト」を製品化し、80品種を2010年12月24日から順次発売した(図4)。JEL 801規格に準拠したことで、感電防止以外にも2つのメリットが生まれるという。既存の蛍光灯と間違えて装着する事故を防ぎ、L16口金では装着時に回転して固定するため、LEDランプの脱落事故も防げるとした。
図4 パナソニック電工の直管形LEDランプの構造 給電側のL字型口金が図左に見える。管内にある黄色い部分は蛍光体。蛍光体の内側にLEDが埋め込まれている。直管形LEDランプを含んだ製品の価格は1灯用が2万9925円〜6万3000円、2灯用が4万9875円〜11万1325円である。
JEL 801規格を上回る仕様も備えている。規格では全光束を2300lm以上(N色、昼光色)と定めているが、パナソニック電工の製品は2400lmである。40W形の蛍光灯と同等の明るさを実現できたという。平均演色評価数は、Ra80以上を規格で定めているが、製品ではRa84と色再現度が高い。最もRaの高いLED電球とほぼ同等の性能である。
LEDの特性を生かした工夫も盛り込んだ。LEDランプは、使い始めたときの光束が最も大きく、徐々に低下する性質がある。つまり、当初は設計値よりも明るくなる。そこで、供給する電力を自動的に引き下げ、利用期間が長くなるにつれて電力を引き上げる初期照度補正機能を追加した。この機能を使うことで、40W形の蛍光灯と比較して消費電力を40%削減できるという。なお、直管形LEDランプの寿命は4万時間であり、蛍光灯の3倍以上に相当する。
同社は直管形LEDランプ市場の立ち上がりは早いと予測している。同社の2011年度の業務用ベースライト(灯具)の販売台数を500万台と予測し、そのうち、50万台をLED関連が占めるとした。50万台のうち、直管形LEDランプが6割の30万台になるという。「これまでの器具一体型のLED照明はデザイン提案を主眼とした商品だったが、直管形LEDランプは照明のボリュームゾーンを狙う商品だ」(パナソニック電工 照明事業本部 LED総括担当を務める吉村元氏)。
JEL 801対応はパナソニック電工以外でも進んでいる。ロームは、2011年1月19日〜21日に開催された「第3回次世代照明技術展」に直管形LEDランプを出展した(図5)。JEL 801に準拠しており、2011年前半に40W形品の製品化を予定する。採用したLEDの仕様は明らかにしていないが、中出力のLEDを密に数百個並べたとする。2種類の灯具を丸善電機が開発しており、協力して製品化する。
東芝ライテックは、2010年12月9日〜11日に開催された環境関連の展示会「エコプロダクツ2010」に直管形LEDランプを出展した。2011年1月に発売する。40W形の蛍光灯と比較し、ほぼ同じ明るさで光っていることを見せていた。この他、20W形相当の品種など合わせて3品種を製品化する。40W形1灯用の価格は約3万円である。
JEL 801は用途によってはオーバースペック
「JEL 801では対応しにくい市場がある」(アイリスオーヤマ商品開発部LED開発プロジェクトでマネージャーを務める小野恭裕氏)。例えば、倉庫や駐車場の照明に直管形LEDランプを採用する際、JEL 801で定めた平均演色評価数の項目は不要であるという。
図B-1 アイリスオーヤマが開発した直管形LEDランプ 蛍光灯と同じG13口金を利用する。管内にマイコンを内蔵し、取り外しを検知して給電を停止することで感電を防止する。2011年3月から販売を開始する。
同社は口金の変更も不要だと主張する。G13口金を利用しつつ、感電防止技術を新たに採用する製品を開発した(図B-1)。直管形LEDランプの内部にマイコンを搭載し、LEDランプが灯具に装着されているかどうかを電位差によって検出する。灯具から取り外したときに回路を開き、感電を防ぐ。安定器を備えた従来の蛍光灯の灯具に誤って装着しても動作しないよう、安定器が存在するかどうか、マイコンで検知しているという。各種の灯具、例えば磁気式安定器グローラピッド方式の灯具や電子式安定器を備えた灯具でも誤って動作しないことを確認済みである。この他、同社の灯具に蛍光灯や片側口金式(G13口金)の他社製の直管形LEDランプや直流給電式LEDランプを装着したときも、不具合が生じないことをテストした。
「今後は、JEL 801を拡張する形で、当社規格を日本電球工業会に提案する」(小野氏)。
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