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第30回 MOSFETのオペアンプを改善〜FET寸法の調整で入出力特性を向上〜Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(3/3 ページ)

前回は、MOSFETを使ったオペアンプの構成を紹介し、基本的な特性を解説しました。今回は、前回以降、これまでに設計したオペアンプの幾つかの問題点を、1つ1つ解決していきます。まず今回は、アンプをボルテージフォロアとして使うと、グラウンド電圧や電源電圧の付近において、出力電圧が入力電圧に追従できないという課題に取り組みます。

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グラウンド側での動作を分析

 逆に、入力電圧がGNDに近づくと困ってしまうのが、電流源として動作するトランジスタX3です。

 X7とX8で構成した差動対の両ゲートがGNDに近づけばソース電圧VsもGNDに接近します(図4下図の(2)の部分を参照してください)。VsがGNDに近づくということは、電流源X3のドレイン-ソース電圧Vdsが減少して流れる電流が減少することを意味しています(図4上図の(3)の部分を参照してください)。Vdsが小さくなると期待通りの電流が流れなくなります。

 もし、VsがGNDまで下がってしまうと電流源X3の電流はゼロになってしまい、差動対の利得が無くなってしまいます。これまでに設計したオペアンプを使ったボルテージフォロアが、GNDまで動作しない理由は、入力段の電流源の電流が減少して、差動対が動作しなくなり、アンプの増幅能力が無くなるためといえます。

 電源電圧付近において出力電圧が入力電圧に追従できないという電源側の問題は、トランジスタX8のVdsが減らないようにすれば、改善できそうです。

 最も簡単な方法は、出力段のトランジスタX1のVgsを、X8のVgsより小さくしてしまうことです。たとえ、X8のゲート電圧がVddに達したとしても、X1のVgsがX8のVgsより小さければ、VoとVsはあたらずに済むからです。

 今までのシミュレーションでは、全てのトランジスタのゲート長Lを0.18μm 、ゲート幅Wを20μmに設定していました。電源側の問題を解決するために、出力段トランジスタX1のみ、トラジスタのサイズを変更します。

図5
図5 改善を施した後の図3各部の電流や電圧 グラウンド側の入出力電圧のずれは、まだ改善していませんが、電源側の入出力電圧のずれは図4に比べて改善しています。

 Vgsを小さくするために、ゲート長Lを0.18μmのまま、ゲート幅Wを3倍の60μmに設定しました。改善後の図5を見ると、電源側の入出力電圧のずれが改善していることが分かります。

なんとかなるのがCMOSの面白さ

 続いて、GND電圧付近において出力電圧が入力電圧に追従できないというGND側の問題を考えてみましょう。基本となる電流源が動作しなくなるので、こちらを直すのは簡単ではなさそうです。けれど、なんとかなってしまうのが、CMOS回路の面白さであり、エンジニア泣かせのところでもあります。

 ところで、「MOS」の前に付くCの意味を覚えているでしょうか。これはComplimentaryの略で、相補的な回路が作れるということです。具体的に言うと、現在の回路はn型のMOSFETを使った差動対ですが、これにp型のMOSFETの差動対を追加することで、n型MOSFETが動作しない領域を補えます。回路図は以下の通り……といきたいところですが、具体的な回路の紹介は、次回に持ち越します。

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Profile

美齊津摂夫(みさいず せつお)

1986年に大手の通信系ハードウエア開発会社に入社し、光通信向けモジュールの開発に携わる。2004年に、ディー・クルー・テクノロジーズに入社。現在は、同社の常務取締役CTO(最高技術責任者)兼プラットフォーム開発統括部長を務めている。「大学では電気工学科に所属していたのですが、学生のときにはアナログ回路の勉強を避けていました。ですから、トランジスタや電界効果トランジスタ(FET)を使ったアナログ回路の世界には、社会人になってから出会ったといっていいと思います。なぜかアナログ回路の魅力に取りつかれ、23年目になりました」。


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