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ヘルスケア機能がさまざまな機器に、心拍を読み取る手法が設計のカギセンシング技術 医療/ヘルスケア(1/2 ページ)

人体の健康状態を把握する際に、最もよく使われる指標の1つが心拍数だ。さまざまな機器にヘルスケア機能の搭載が進み、心拍数の計測は消費者のライフスタイルにも浸透しつつある。この機能を設計する際には、用途に応じて最適な手法を選ぶことで、追加コストを最小限に抑えられる。

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 高齢化社会の進展や人々の健康意識の高まりに応えるように、さまざまな機器にヘルスケア(健康管理)機能の搭載が進んでいる。人体の健康状態を把握する際に、最もよく使われる指標の1つが心拍数だ。実際に、心拍数の計測は一般消費者のライフスタイルに浸透しつつあり、現在では運動器具はもちろんのこと、Appleの携帯型メディアプレーヤー「iPod」から各社の携帯電話機に至るまで、多彩な機器で心拍数を正確に計測できるようになっている。このように計測した心拍数から、健康状態を判断する上で重要な情報を読み取ることが可能である。

 ただ、消費者にとってメリットがあるこうした機能も、機器メーカーにとっては部材コストを押し上げる要因になる。コストの増加をゼロにすることはできないが、効率的な設計を採用することで最小限に抑えることは可能だ。そのためにはまず、複数の選択肢がある心拍数の計測手法の中から、用途に応じて最適なものを選ぶ必要がある。

 さらに、選択した手法をボード上でどのように実装するかも重要である。たとえ機能的には同じ回路でも、どのような半導体チップを用いて実装するかによって部品点数や専有面積、コストは大きく変わる。採用する半導体チップの機能集積度が高く、心拍数の計測に必要な機能が過不足なく搭載されていれば、コストを最小化できるだろう。

 本稿では、心拍数のさまざまな計測手法を紹介するとともに、各手法の計測回路の実装例を説明する。計測手法として具体的には、心電図法と、光電脈波法、振動測定法(血圧計法)、心音図法を取り上げた。これらの手法はいずれも、心臓の拍動、すなわち心周期の間に人間の体内で生じる現象を検出して心拍数を求めている。ただし、計測対象とする現象がそれぞれ異なっていることに注意してほしい。

電気パルスを検出する心電図法

 心臓の筋肉(心筋)は収縮と弛緩(しかん)を繰り返して鼓動しており、それによって心臓に血液が流れ込み、また心臓から送り出されるという血流が発生する。この収縮と弛緩の動作を生み出しているのは、洞房結節という組織である。これは、右心房の大静脈開口部にある心筋細胞の固まりで、「心臓のペースメーカー」とも呼ばれている。この組織は心周期ごとに電気パルスを生成し、それが心臓全体に伝わって心筋の律動的な収縮と弛緩が起きる。

 人体の所定の位置に電極を取り付ければ、この電気パルスを検出することができる。心電計(ECG:Electrocardiogram)は、この電気パルスの波形を捉えることで、心拍の全体的なリズムを求める仕組みだ。

図1
図1 心電計法で観測される波形 1回の心周期に山と谷が計6個現れ、順番にP、Q、R、S、T、Uと呼んで識別する。Rのピーク値は、通常0.1 mV〜1.5 mVの範囲に収まる。

 この手法では、人体の所定の位置に2つ以上の電極を取り付ける必要がある。その電極で検出できる電気パルス(ECG信号)は通常、図1に示すような波形になる。山と谷が合計6個出現し、それぞれを順番にP、Q、R、S、T、Uという一連のアルファベット文字で識別する。Pの山は、心房筋の収縮によって生じているものだ。Rの山は、心房が収縮し切って、心室の収縮が始まったタイミングを示す。そしてTの山は、心室が収縮し切ったときに観測される。Rの山のピーク値は、通常0.1 mV〜1.5 mVの範囲になる。

 平均心拍数を求めるには、まず連続する心周期に現れるRのピーク2点間の時間間隔(RR間隔)を計測し、それを一定期間(通常は15秒もしくは30秒、60秒)にわたって繰り返す。次に、得られたRR間隔の逆数の平均を取る。最後に、その平均値を拍毎分(bpm:Beats per Minutes)の単位に換算する。

 Rの山は、Q-R-Sと続く一連の波形(QRS波)を構成する一部である。このQRS波は、1回の心周期の中で心室が収縮している期間を表す(この期間を「心室脱分極」と呼ぶ)。

 実際には、ECG信号の波形をありのままの形で観測することはできない。下記のような要因によって、必ず劣化してしまうからだ。

  • 周囲の機器からの電気的な干渉(電源の影響など)
  • 測定(もしくは電極の接触)に起因する雑音
  • 筋収縮に起因した筋電図雑音
  • 測定対象の運動に起因する虚像(アーチファクト)
  • 基線のドリフトおよび呼吸によるアーチファクト
  • 計装系の雑音(A-D変換処理によるアーチファクトなど)

 実際には、心拍数を計算する前に、ECG信号をアナログ領域とデジタル領域で処理する必要がある。具体的には、まずアナログ領域で信号を増幅し、同相電圧成分をある程度除去する。さらに、フィルタ処理も施す。続いて、A-D変換した上で、デジタル領域で再度フィルタリングするという流れだ。その後、そのデジタル信号を、ソフトウェアとして実装したパルス計算ルーチンで処理することで、心拍数を求める。

 こうした機能の多くは、マイコンを使ってリアルタイムに実行できる。図2に、ECG心拍数モニターの実装例を示した。右手と左手それぞれの電極で検出した信号を、高周波干渉(RFI:Radio Frequency Interference)除去用フィルタを介して計装アンプに入力し、同相成分を除去するとともに、A-D変換器の前段で信号を増幅して雑音耐性を高めている。

 この実装例では、逆位相信号を活用して干渉耐性をさらに高める回路も組み込んだ。バッファアンプと反転アンプで構成する回路である。計装アンプで検出したECG信号の同相成分を反転させ、両手の電極にフィードバックすることで干渉を取り除く。両手と電極が接触したタイミングを自動的に検出する回路も設けた。しきい値回路と比較器を組み合わせた機構である。両手と電極が接触すると電圧値が変化するので、この機構でそれを検出する。

図2
図2 ECGシステムの実装例 CPUコアの周辺に、計装アンプやフィルタ、バッファアンプ、A-D変換器、比較器などのアナログ回路ブロックを集積したSoC(System on Chip)を使った実装例である。両手の電極で検出したECG信号を、RFIフィルタ経由でこのSoCに入力する。SoCの内部では、計装アンプで同相成分を除去した後、高域通過フィルタを介してバッファアンプに供給し、A-D変換器でデジタル信号に変換する。その後、CPUコア上にソフトウェアとして実装した各種のデジタルフィルタで処理を施してから、最終的に得られたデジタル信号をパルス計算ルーチンに渡して心拍数を求める。

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