ヘルスケア機能がさまざまな機器に、心拍を読み取る手法が設計のカギ:センシング技術 医療/ヘルスケア(2/2 ページ)
人体の健康状態を把握する際に、最もよく使われる指標の1つが心拍数だ。さまざまな機器にヘルスケア機能の搭載が進み、心拍数の計測は消費者のライフスタイルにも浸透しつつある。この機能を設計する際には、用途に応じて最適な手法を選ぶことで、追加コストを最小限に抑えられる。
光学的な変化を捉える光電脈波法
人間の体の中では、心周期に合わせて血管が脈動し、さまざまな部位に血液を循環させている。指や耳たぶに赤外線などの光を照射すると、その血管を流れる血液の律動的な流れと吸収特性によって、反射光が周期的に変動する。この光学的な変化を捉えることで脈拍を計測するのが、光電脈波法である。
光電脈波法には、光を検出する場所の違いで透過型と反射型の2種類がある。対象部位を挟んで光源に対向する位置に光検出器を設けておき、対象部位を透過してきた光を検出するのが透過型で、光源と光検出器を並べて配置しておき、対象部位で反射した光を検出するのが反射型だ。
この手法の実装例を図3に示す。光源としては赤外線LEDを使う。通常は、低周波の干渉を防ぐため、このLEDの駆動信号に変調をかける。光検出器には、フォトダイオードを利用すればよい。指や耳たぶを透過したり反射したりした赤外光を検出し、帯域通過フィルタを介して不要な成分を取り除いてから、復調器に供給し、A-D変換器でデジタル信号に変換する。なおこの復調器は、変調器に同期して動作する。
次に、そのデジタル信号をCPUコアに送り、ソフトウェアの形態で実装したデジタルフィルタで処理して、波形を整える。さらに、同様にソフトウェアとして実装したピーク検出ルーチンを使って、脈拍を求めるという流れである。
図3 光電脈波法を適用したシステムの実装例 光源の赤外線LEDは、搬送波生成器が出力する変調信号で駆動する。その透過光や反射光を受光用のフォトダイオードで受けて復調し、A-D変換を施してからデジタル領域の演算で脈拍を求める。
圧力をモニターする血圧計法
心臓が律動的に収縮と弛緩を繰り返すと、血管の壁に沿って血圧が変化し、血圧の高い部分と低い部分が生じる。その結果、血管は心拍に合わせて脈動する。この血管の脈動は、人体の適切な位置(手首など)に取り付けた圧力センサーや圧電センサーで検出することが可能だ。血圧計法では、この圧力の変動を利用して心拍数を計測する。図4は、腕の血圧の脈動を示す波形の例だ。圧力センサーで検出した信号をフィルタリングし、増幅したものである。このパルス群は振動パルスと呼ばれており、自動血圧計は通常これを計測している。
血圧計法の実装例を図5に示した。まず、血管の脈動によって生じる圧力信号を圧力センサーで読み取る。その後、信号を増幅し、フィルタ処理を施して心拍信号の成分を分離する。そして、A-D変換器でデジタル化した上で、タイマーを時間基準として参照し、心拍数を計算する。
図5 血圧計法に基づく心周期モニターの実装例 圧力センサーを使って、血圧の脈動によって生じる図4のような振動パルスを検出し、その信号をCPUコアとアナログ周辺回路を統合したSoCで処理することで、心周期を求める。
音を読み取る心音図法
心臓が収縮と弛緩を繰り返すとき、心臓の弁も開閉を繰り返しており、その動作によって音が生じる。われわれが病院で診察を受ける際に、医師が聴診器で確認しているのはこの音だ。この音は心拍に合わせて生じており、マイクロホンを使って検出できる。正常心音の他、心雑音と呼ばれる異常音が記録される場合もある。心拍数の計測には、正常心音を用いる。正常心音と各種の心雑音は、それぞれにスペクトル特性が異なっているため、適切なフィルタ処理を施すことで、心臓の異常を可視化することも可能だ。
心音計は、このような音響特性を利用して心拍数を計測する。図6に、正常心音と異常心音の例を示した。
図6 心音波形の例 S1は房室弁(僧房弁と三尖弁)が閉まるときに生じる音で、S2は動脈弁(大動脈弁と肺動脈弁)が閉まるときに生じる音である。正常ならばこれ以外の心音は生じないが、この例では、S1とS2の間の収縮期と、S2とS1の間の拡張期にそれぞれ心雑音が混じっている。
図7は、心音図法の実装例である。まず、横隔膜がある位置の体表に接触させた高感度マイクロホンを使って、心音信号を検出する。その信号を増幅し、雑音除去用のフィルタを介して雑音を取り除いてから、A-D変換器でデジタル化する。そのデジタル信号にデジタルフィルタ処理を施せば、心雑音の成分と律動的な鼓動音を分離でき、そのうちの鼓動音の方を使って心拍数を計算できる。
図7 心音図法の実装例 マイクロホンで検出した心音信号を処理し、正常心音から脈拍数を求めることが可能だ。この機能のほとんどを1チップで実装できるSoCも製品化されている。例えば、Cypress Semiconductorが供給する「PSoC」は、CPUコアの他に、ユーザーがレジスタ設定によって手元で機能をカスタマイズできるアナログとデジタルの周辺回路ブロックを集積したSoCである。マイクロホンで検出した信号をそのまま入力し、チップの内部でほとんどの処理を完結させられる。PSoCでセグメント液晶の制御や、USBなどの外部インタフェースも実現可能だ。
Sanjeev Kumar氏
インドのチェンナイにあるギンディ工科大学(College of Engineering, Guindy)で電子工学と通信を学び、学士号を取得した。現在は、Cypress Semiconductorで「PSoC」のアプリケーションを担当している。同社に入社する以前は、インドのHD medical Servicesで医療電子機器の設計に従事した。
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