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あのIHIが注目した非接触給電システムとは、開発担当者に聞くワイヤレス給電技術 共鳴方式

非接触給電システムの用途は、民生機器や電気自動車だけではない。IHIは、コンテナ用クレーンへの給電や産業用モーターのスリップリング(回転子)の置き換えも狙う。

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 電力を非接触で送れる距離や、送電可能な電力、効率、使い勝手といったさまざまな観点で、これが最も適した方法だ――。

 IHIは、「共鳴方式」と呼ぶ手法を採用し、非接触で電力を供給する給電システムの開発を進めると発表した。米国に本社を構えるWiTricityと共同で開発に取り組む。

 共鳴方式は、米Massachusetts Institute of Technology(MIT)の研究グループが2006年に理論を発表した非接触充電技術。既に実用化されている電磁誘導方式に比べて、送電側と受電側の距離をとったときにも比較的高い送電効率を維持できることや、送電側と受電側の位置ずれに強いことが特徴である。MITの研究グループは、2007年に理論に基づいた試作機を作成し、実際にワイヤレスで給電可能なことを実証した。WiTricityは、MITの研究グループから独占的な技術移転を受け、誕生したベンチャー企業である。

 IHIは今後、WiTricityと協業して、具体的な利用シーンをイメージできるような試作機を用意する。電気自動車の用途に対しては、自動車メーカーと協力して開発を進める考えである。各種産業機器や回転部のある機器といった用途も想定している。

左の写真は、IHIの技術開発本部 総合開発センターの電機システム開発部の部長を務める新妻素直氏。右の写真は、電機システム開発部 パワーエレクトロニクスグループの課長代理を務める村山隆彦氏。

IHIが手掛ける3つの意味

 IHIの取り組みは、共鳴方式の非接触給電システムの実用化という観点で、3つの意味がある。

 1つ目は、IHIがニーズを明確に意識していることである。同社は、1kWを超えるような大電力用途に絞り、開発を進める。これは、同社がこれまで手掛けてきた事業の経験を基に、この電力領域に明確なニーズがあると考えているからだ。

 まず、電気自動車に充電するシステムにニーズがある。電気自動車を充電するとき、電力ケーブルを使うよりは、非接触で充電できた方が便利である。ただ、駐車位置はいつも同じとは限らない。また、車種によって車高が異なる。共鳴方式の非接触充電システムを使えば、さまざまな条件下で安定して電力を供給できると考えた。

 この他に産業機器や回転部のある機器に非接触で電力を供給するニーズがあるという。回転部のある機器の例では、スリップリング(モーターの回転子)を非接触給電で置き換えることを挙げた。このような産業機器では特に、電力ケーブルを非接触化するメリットは多いという。例えば、電力ケーブルを引き回す煩雑さをなくせる上、メンテナンス性を高められる。電力ケーブルが摩耗してしまう心配もなくなる。

図
共鳴方式の非接触給電システムの試作機 送電/受電デバイスの寸法は50cm角。これを使って、3.3kWの電力を20cm離れた距離に最大90%程度の総合効率で送る。負荷の状態をモニタリングして、最適な送電状態を保つ。
送電側デバイスと受電側デバイスの間に手を入れても、送電効率は変わらない(左の写真)。30分程度稼働させた後に放熱板を触っても、温度の変化はほとんど無かった(右の写真)。

 2つ目は、事業化を見据え、共同開発を進める点である。同社は、電磁誘導を使った非接触の給電システムを社内向けに開発したり、特殊用途の給電システムを社外に対して納入した実績があった。ただ、事業化を考えたとき、共鳴方式の給電システムの開発を自社だけで始めると、競合他社に遅れをとってしまう可能性がある。そこで、有利に事業化を進めるため、WiTricityと共同で開発を進めることにした。

 IHIは、かねてからMITと技術交流をしていた。このような経緯もあり、IHIの側からWiTricityの技術に注目したという。共鳴方式を手掛ける幾つかの企業の技術も考慮した結果、WiTricityの技術が最も適していると判断した。

パワーエレクトロニクス分野の知見を生かす

 3つ目は、パワーエレクトロニクス分野の知見を多く有するグループが開発を進めることである。

 WiTricityは、さまざまな企業に同社の技術をライセンスするというビジネスモデルを採る。各企業は、ライセンスを受けた技術を使って製品化を進める。このとき、基本的な技術を最終的な製品に落とし込むインテグレーション技術や製造技術に、IHIのパワーエレクトロニクス分野の経験が生きる。

 現在の試作機の送電/受電デバイスの寸法は50cm角。これを使って、3.3kWの電力を20cm離れた距離に、最大90%程度の効率で送れる。この90%という数値は、送電側の高周波増幅器とコイルの結合部、受電側の整流回路の損失を考慮した総合送電効率である*1)。具体的な数値は明らかにしないものの、送電電力が変わったときにも高い送電効率を維持できるという。

 なお、現在の電波法の枠組みでは、3kWと大電力の非接触の給電システムを製品化することは現実的ではない。日本国内での製品化に向けては、電波法や人体防護指針の枠組みの調整を待つ必要がある。

*1)送電に利用した周波数帯域は明らかにしていない。試作機を実際に使うに当たり、高周波利用設備の実験局の認可を取得している。

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